2020年 次点

概要

名称Kentucky Route Zero: TV Edition
(ケンタッキー ルート ゼロ: TV エディション)
画像
ジャンルアドベンチャー
対応機種NintendoSwitch [外部リンク]/PS4 [外部リンク]/XboxOne [外部リンク]
発売元Annapurna Interactive
開発元Cardboard Computer
発売日2020年01月28日(Switch版)
2020年01月29日(PS4版)
2020年04月30日(XboxOne版)
価 格Switch版:2749円、XboxOne版:2900円
PS4版:3000円(共に税込価格)、DL専用
対象年齢CERO:A(全年齢対象)
IARC:12才以上対象

参考動画

選評

選評1

『Kentucky Route Zero:TV Edition』 「日本語版」 選評

【基本情報】
・作品名 Kentucky Route Zero:TV Edition
・選評作成バージョン PS4版/バージョン1.03(7/14配信)
(ただし、以前のバージョンへの言及も含む)
・発売日 2020年1月29日(PS4版)
・定価 3000円(PS4版)
・プラットフォーム PS4、Switch、XboxOne(ダウンロード販売のみ)
・開発 Cardboard Conputer
・販売 ANNAPRUNA INTERACTIVE
・言語対応 原語は英語。日本語の他、フランス語・イタリア語・
スペイン語(欧州/南米)・ロシア語・韓国語に対応
・ローカライズ Emilia de Santis and team at EDS Wordland Ltd.
      (ロシア語・韓国語についてはローカライズは別担当者)

・元は2013年から全5章+各章間の幕間5篇が順次Steamで配信されてきたADV。
 2020年1月にストーリーが完結したが、同時に全話を収録し、日本語対応したコンシューマ版
 『TV Edition』が各機種向けにダウンロード発売された。

・「文章で物語を語ること」に非常にこだわったポイントクリック型ADVで、
 ボイス(英語)が付くのは一部のシーンのみ。劇中のミニゲーム進行なども全てテキスト上の選択で行われる。


【概要】

極端なことをまず言ってしまえば、このADVは究極の雰囲気ゲーである。
プレイの目的が「エンディングを見ること」や「謎を解明すること」ではなく、
「テキストを繰り返し読んで、世界観と謎にどっぷり浸り続けること」と言えるからだ。
各シーンで語られる多くの謎めいたエピソード、意味ありげな会話が無数の物語の断片として積み重なり、
もつれ合って、独特の世界観を構成している。
ADVに付きものの選択肢の存在もまた、普通の作品のような「先へ進むためのフラグ」ではなく、
選ばなかった選択肢を再プレイで読み返し、別の断片・別の謎をたどるための糸口に過ぎない。
(実際、各選択肢に「正解」は無い。どれでもストーリーの大枠は変わらず、エンディングには辿り着ける。)
全体に独創的な世界観の作品で、こうした雰囲気を好むプレイヤーにとっては文句なく「名作」と言ってよいだろう。
ただし、「英語版」ならば。

だが、「日本語版」は違う。
なぜかといえば、翻訳の質があまりにも劣悪だからだ。
機械翻訳を利用しているのだろうと思われるような不親切な訳文がいたるところに見られ、
「日本語ネイティブのチェック」や、「一人の訳者による通し読み」などは
行っていないだろうと確信できるような、配慮のない翻訳になっている。
その結果、日本語版は「テキストと世界観にまるで浸れないし、読み返したくない代物」になってしまっている。
これがこのゲームのほぼ唯一の、そして致命的なクソ点である。

【ver1.03パッチ後の追記】

日本語版は7月のパッチで【翻訳の問題点】8項目めの「破壊的な機械翻訳」が改善され、
ここで手直しされた部分に関してはさほど問題なく読めるものとなった。
ただし、それ以外の問題点は未だほぼ放置されている。修正が入った箇所よりはまだマシ、
程度の低質翻訳なのに未修正の箇所もあり、「明らかに目立つ部分だけ、やっつけで処置したんだな」という印象だ。
それでも一応、この修正によって今までよりは「読める」「意味が分かる」部分が増えたのは事実だ。
特に「リゼット」「ジューンバッグ」の2人の重要キャラの設定については、
ほぼ読みとれなかった旧バージョンに比べればかなり分かりやすくなった。

だが、この修正で日本語版がクソゲーから脱却できたか、といえば答えは否だ。
むしろ支離滅裂な機械翻訳が減り、一応は読めるようになったことによって、
「明らかに破綻した翻訳のせいでろくに読めない」クソゲーから
「読めたって結局わけが分からない」という印象の、別種の業が深いクソゲーになった感があるからだ。

本作は架空のケンタッキー州の一地方、中でも特に「レテ湖とエコー川周辺地域」の、
比較的狭いコミュニティ内の物語を描いている。
そのため主な登場人物はたいていどこかで関係が繋がっており、
様々なシーンで断片的に手に入る情報を突き合わせることで各人物像や
物語の背景が掴めるようになっている。
その特性上、ストーリーの大筋以外の細部も世界観を盛り立てるフレーバーテキストとして
機能しているので、「分からなくてもいい」と捨てる部分はほぼ無い。
と言うより、雰囲気ゲーなのでそこを切り捨てたら味わうべき所が無くなってしまう。

だが日本語版は、一部の改善で一見意味が分かるようになりはしたものの、
未だ残る他の多くの問題点によって、このフレーバーがごっそり削ぎ落とされた状態になっている。
これは例えば『マジック:ザ・ギャザリング』のような世界設定がしっかりしたカードゲームで、
カードごとにフレーバーテキスト内の固有名詞や設定が食い違っていたり、誤表記が頻繁に混じっているようなものだ。
一枚一枚の内容はまあそれなりには読み取れるし、ゲーム自体はルール部分さえ読み取れればプレイできる。
だが全体的な世界観に関してはノイズが多すぎて情報の繋がりや雰囲気を掴みにくく、
あえて追いかけてみようという気も削がれてしまうだろう。
それでもカードゲームならば、背景となる物語が分からなくてもプレイングや勝負を楽しめばよい。
だが本作は「テキストを読み、世界観を味わう」ことが主目的で、
勝負はおろか「正解の選択肢」さえ用意されていないテキストADVなのである。

また、本作が英語版で高評価を受ける理由は、その文学的な作風や表現方法によるところが大きい。
作中の物語はボルヘスやガルシア・マルケスなど、南米文学者のお家芸とも言える
「魔術的リアリズム(マジックリアリズム)」風の手法で語られる。
たとえば作中には「カラスがテレビ局で働いている」「存在するのに行き方が分からない道路」など、
不条理や非日常が何の言い訳も説明も無しに多々登場する。
日常と非日常を地続きに表現するのが「魔術的リアリズム」のやり方だからだ。
さらに、作中の人々が詩的な言い回しを好んだり、実在の詩をもとにした演劇を計画していたりと、
詩にこだわった描写が多い。
また、象徴表現や実在の文学・音楽作品へのオマージュもあちこちに見られる。
こうした表現方法をとるため、本作では作中の謎や疑問に対してあからさまな断言・説明をしない部分が多い。
説明不足や不親切というより、もともとそういう趣向の作品なのだ。

しかし日本語版は訳の問題によって物語を追うための気力と注意力が奪われ、
「とりとめの無い断片情報ばかりだ」と感じやすいテキストになっている。
そしてそこに、上のような表現特性が加わってくる。
その結果として、「訳が直っても分からない」「分からなくても別にいい」と言われてしまいかねない現状がある。
本来は「ミステリアス」ではあっても、決して「わけの分からない」話ではないのに……

いい意味でインディーズ作品なればこそ、の実験的作品が、翻訳のせいで
「文学(笑)アート(笑)だから意味不明(笑)」という誤解を招きやすくなっており、
クソ翻訳の業は果てしなく深いと言える。


【システム面】

・PS4本体側のシステム言語を切り替えることで、英語版を含む各国語版もプレイ可能。
 ただし、ゲーム内部で言語を切り替える方法は無い。

・アクトI~Vの各章間と、アクトVの後に1つづつ、計5つの幕間が入る構成。
 全章通してのプレイ時間は1回10時間程か。

・アクトはイベントが発生する場所に入るごとに「シーン」として区切られる。
 シーン数はプレイヤーの行動で増減し、だいたい1アクト平均10~15シーン程度。
 ただし、アクトVのみは特殊。他アクトのようなシーン区切りが表示されない演出で、
 長めのシーン3つ分ほどの長さになっている。また、各幕間は1~3シーン程度の長さにまとまっている。

・アクトとシーンの区切りごとにオートセーブが行われ、任意セーブはできない。
 複数のイベントが連続する長いシーンの場合、イベントごとにオートセーブされる。

・セーブスロットは3つあるが、セーブの分散や相互コピー等はできず、
 それぞれ別のプレイのためにしか使えない。

・一度クリアしたアクト・幕間は再プレイ可能だが、章の最初からのスタートになる。
 前のプレイと選択を変えて別展開になった場合でもセーブスロットは変更不能で上書きされるのみ。
 別の展開を確認するためにセーブを分けることはできない。
 ゲームを中断/終了してリロードした場合は一番近いオートセーブポイントから復帰できる。

・バックログ等の確認機能、既読スキップ、テキストの自動送りなど、
 一般的なADVに付き物の便利機能は無い。訳注や豆知識集なども存在しない。
 (ただし、同一の吹き出し内のテキストだけはスクロールバック可能)

セーブやログ機能のシステム面については、「読むたびに別の現実が紡がれうる」ような
独特の詩的世界観を作るために、意図的に不便にしたものかと思われる。
1シーンがさほど長くないこともあり、翻訳の問題が無い英語版では特に大きな問題にはならないだろう。
だが、日本語版ではクソ翻訳のために、
「うまく読み取れなかった部分を再読したいが、ログ機能がないためシーンの始めからやり直し必須」
「英語版を参照しないと意味不明だが、言語を切り替えるにはゲーム終了→やり直し必須」
などの苦行が発生し、「読み返すのが苦痛な上、システムまで不親切」と感じやすくなってしまっている。


【グラフィック・音声等】

グラフィックは影絵風やワイヤーフレーム風など、人物の顔立ちすら描写しないような、
抽象的で抑えめなものが基本である。音声も基本は環境音風のものが流れるのみだ。
ただし、抑えめなだけで決して貧弱なわけではない。映像自体や背景の画面構成はシンプルだが美しく、
ここぞというときには効果的に音楽(カントリーソングなど、ボーカル付きのものもある)やボイス、
視覚的演出が導入され、世界観作りに大いに貢献している。


【世界観・シナリオ】

『Kentucky Route Zero』の最大の特徴は間違いなく、日常と非日常のものを融合させる
「魔術的リアリズム」の手法で描かれる、詩的・幻想文学的な世界観とストーリーだろう。
日本の作家で言えば、安部公房のような作風と言えば分かりやすいだろうか。

その世界観の象徴が、タイトルでもある「ルートゼロ」、
ケンタッキー州の地下のどこかを走っているという、謎の高速道路0号線だ。
主人公のコンウェイは配達の仕事をこなすため、この「ゼロ」に乗らねばならない。
だが、どうすればその道に辿り着くのか、どこにあるのかも分からない。
確かに存在する道路なのに、「ゼロ」について語られる言葉は常に曖昧でとらえどころがない。
(ご丁寧に「ゼロ」の文字上には、常に霞がかかったようなエフェクトが表示される。)

「ゼロ」だけでなく、登場するモノも人も、みなどこかしら秘密めいており、奇妙である。
こびりつくカビによって「奇妙な進化」を遂げた古いコンピュータシステム。
家をまるごと運べるほどの巨大な鷲を自分の兄弟と呼ぶ、家族とはぐれた少年。
教会の地下のウィスキー醸造所で働く、骸骨姿の「普通には見えない」従業員たち。
エネルギー企業による重苦しい地域支配と、金策に苦しむ人々。
日常と非日常が線引きされることなく、それら全てが「日常」として淡々と描かれる。
イベントごと、会話ごとに新たな謎が生まれるが、物語が進んでも明確な答えが出てくることはまず無い。

物語そのものの構造も特殊だ。
作中人物達の行動は現実なのか、それとも誰かに演じられ、観られている「劇中劇」なのか。
コンピュータが提示したのは「過去の再現」なのか、「単なるシミュレーション」なのか。
消えた人物は生きているのか、それとも…
現実と仮構、過去と現在は半ばない交ぜ状態のまま、物語はどんどん進行する。


【テキストや視点の特徴】

主人公は一応、アンティークショップの年老いた配達員「コンウェイ」だが、
操作キャラや視点は彼の同行者たちや、行きずりのキャラ、はては動物まで、かなり頻繁に入れ替わる。
幕間では原則コンウェイ一行が直接登場せず、全くの他者の視点から物語が語られる。
テキストの語り口も独特で、同一のテキストボックス内で発言主が変わったり、
いきなり客観視点の「地の文」に切り替わったりすることも多い。
また、操作中のキャラの行動を全くの第三者が回想的に語るものや、戯曲風にト書きが入ったもの、
説明書や芸術作品の解説など、シーンによってかなり多様な語り口を取り混ぜて使っている。

ある選択肢を選ぶと他の選択肢を選ぶ余地なしに自動進行する展開が多く、
設定や人物関係がかなり複雑なキャラクターも存在するため、英語版であっても一度のプレイでは
人物関係や背景を掴みきれないようになっている。
そのため、本来は再プレイしてみることで物語をより深く楽しめるはずなのだが…


【翻訳の問題点】

シナリオ・テキストそのものがそもそもあまり「常識的」なものではなく、
さらに「無数の詩的・暗示的なエピソードの断片が積み重なって世界観を作っている」という
特性のため、テキストは相当気を使って翻訳する必要があったはずだ。
だが、日本語版の翻訳はそういう配慮をほとんどかなぐり捨てているために
日本語としてぎこちない文章になっている部分も多く、不自然な表現になってしまっている。

「意味そのものは分かる」部分でも、細かい問題が多いために没入感や統一感に欠け、
元来は「どこかで繋がっていたかもしれない」はずのエピソードや人物の関係性・設定面が見えにくくなっている。
そのため、「ぶつ切りのよく分からんエピソードがただ沢山置かれているだけ」のシナリオだ、
といった印象を受けやすくなってしまっている。

実際、読んでいる際のストレスは相当なもので、物語の細部や人物などに十分注意が向かず、
一度のプレイでは読み落としている要素が大量にあった。
げんなりしながら、英語版に切り替えたらあっさり理解出来た、といった部分も非常に多かった。

ありとあらゆる翻訳上の問題点があるので、以下に代表的なものをタイプ別に整理するが、
実際には1つのタイプのみが単体で現れることより、複数のタイプが複合して出現する場合のほうがはるかに多い。
実例も挙げたが、問題になる部分はあまりにも多すぎて到底挙げきれないため、
実際に遭遇するもののごく一部である。

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1 誤字・脱字・誤変換 
・「では」を「でわ」、「(机の)引きだし」を「引きださ」など、数え切れないほど存在する。
 比較的まともそうな訳が付いている場所でも、かなりの数の誤字脱字が見られる。

2 クリックポイント表示の誤訳 
・見るの意の「watch」→「腕時計」、人名「Cliff」→「崖」、蒸留器の意の「still」を「まだ」など
・似たようなミスに「シーン名の誤訳」がある。茂みの意の「A GROVE」を「グローブ」など

これらは画面を見ればすぐ気づくような単純ミスであるため、翻訳担当者は実際のゲーム画面や
シーン設定を何も参照しないまま訳している可能性が高い。

3 おかしな語順 
 「END OF ACT I」を「アクトの終わりI」など

すべて全編を通してあちこちに見られ、ミステリアスな作品の雰囲気や没入感を即ぶちこわしてくる。

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4 固有名詞の訳の不統一・不適切な訳

全編を通した問題の一つだが、人物や固有の名称が一気に増えるアクトIII辺りから頻発し、重要語でも容赦なくブレる。
時には「EZRA」「IRON PARIAH」など機械翻訳丸出しの英字表記のままであることもあり、
同一のテキスト内で表記揺れが起こっている場合も多数見かけた。

●人名がブレている例

・「コンウェイ/コンウェー/コーウェイ」
 主人公の名前であっても容赦なくブレる。最後に至っては誤植を疑うレベルである。

・「ダシール/ダシエル」「サイラス/シラス」
 同じ人名に見えにくく、混乱しやすい。

●人名以外のブレの例

・「反響が遅いサイロ/反応の遅いサイロ/レイトリフレクションのサイロ」などなど
 アクトIVの最終到達地点である「Silo of Late Reflections」を指す。
 会話や文献に多数登場する重要地名だが、訳語が非常に安定せず、出てくるたびに違う印象すらある。
 
・「ベッドキルト/ベッドカバー」
 ルートゼロに繋がっている洞窟の名前。原語は「BEDQUILT」。
 「ベッドカバーの中で」とシーン名を紹介したその直後に「ベッドキルトという洞窟」と来る。
 なぜそんなにすぐさま食い違うのか……
 「ベッドカバー」が一般的な名詞であるだけに、混乱を招く迷惑な表記と言える。
 また、上の「サイロ」やこの洞窟の例に限らず、シーン名やマップ上の地名と
 シナリオテキストの表記が食い違っている例は多い。

・「統合電力会社のメールアドレス」 
 作中あちこちに名前が登場する大企業で、シナリオ全体に漂う閉塞感の元凶にもなっている
 「The Consolidated Power Company」=「統合電力会社」。
 この社名はver1.02までは最重要名詞の一つなのに訳語がブレてしまい、世界観把握を難しくしていた。
 社名については1.03パッチで改善が見られたのだが、なぜか残る食い違いがメールアドレスだ。
 この会社のメールアドレスのドメイン名「@consolidated」はアクトI冒頭では「@tougou」と
 丁寧に訳語に置き換えられていたのに、後には「@consolidated」のままになる。
 こういう配慮のできる訳者がいたはずなのに、後のシーンではどこへ行ってしまったのだろうか……

●その他不適切・不親切な訳の例

・「EQUUS OILS」→「EQUUS石油」
・「Vinum memoriae mors」→「ウィーヌムメモリアエモルス」
 いずれもラテン語が不親切に表示されている例。
 前者はガソリンスタンド名がぎこちなくアルファベット表記されている。
 ちなみに「EQUUS」はラテン語で「馬」だが、馬はシナリオを通して何度も象徴的に登場するため、
 これは分かりやすく訳語を作っておいたほうが良かったのではないだろうか。
 後者は逆に、成句的に言われた語がそのままカタカナ表記されている。
 聞き手にとって馴染みのないラテン語の表現であることを表したかったのかもしれないが、
 単語の切れ目さえわからないような表記では不親切すぎる。

・「苦いハリネズミ」「緑化したヤギの足」
 固有名詞であることに気づかなかったのか、単純に直訳して失敗している例。
 キノコの英名を直訳したらしいが、前者が出てくる場面などは「苦いハリネズミの傘を食え」と
 妊婦に勧めている電波シーンにしか見えない。

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5 口調、文体などの不統一・不適切

人物の口調や一人称がまったく統一されていないせいで、キャラが掴みづらく、また浅く感じてしまう。
まだ人物が少なかった序盤から常に発生するが、特に目立つのはやはりアクトIIIから。

男性の「僕/俺」の使い分け、また、男女を問わず語尾表現や口調も不安定で、
丁寧語で話していたはずのキャラがいきなりタメ口をきき始める、直訳調になる、なども珍しくない。
これらの問題と、そもそも複雑な構造を持つテキストの特徴がミックスされた結果、
「あれ? 今の文は誰の視点からの表現なんだ?」となりやすい上に一気に興ざめする。

ついでに言えば、二人称や三人称もガバガバだ。
年配の男性は英語版では「old man」と表記されることが多いが、
この訳が「おじさん/おっさん/老人/じいさん」などと様々にブレる。
同じ人物が、特定の相手に対する呼びかけとして使っている場合でさえブレるので、
「訳し分け」というわけでもないようだ。

また、少年キャラのエズラは「small man」と呼びかけられることがあるのだが、
なぜかこれが決まって「小僧」と訳されてしまう。話者が女性だろうがインテリ風男性だろうが、
直前まで他人と丁寧語で話していようが、エズラ相手には「小僧!」である。

ちなみに地の文の場合でも問題は同様で、敬体(ですます)/常体(だ・である)が当たり前のように入り混じる。

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6 文脈を混乱させる単語の誤訳

単語の誤訳はパターン2でも示したが、あちらは単語単体のみの間違いなので、
雰囲気はぶちこわしだが意味把握に大きく困ることは無い。
対してこちらは会話や説明シーンに登場し、文脈を分かりづらくする面倒なパターン。

・「The Formula」→「数式」
 ある重要人物が問題解決のために作った、数学的な解決方式を指している。
 英語表記では定冠詞付きで明らかに固有名詞に近い扱いを受けていると分かるが、
 日本語では「 」すら付かないので文脈が取りづらい。
 作成者が数学を学んでいたことが分かっているために余計に単なる「数式(計算式)」と
 誤解しやすくなっているのも困りもの。

・「community」→「公共」
 地域のミニTV局(Community television)である「WEVP-TV」やそのスタッフは
 作中たびたび登場し、シナリオにも深く関わる。かなりの重要団体なのだが、
 この局のローカル性を指して使われている「Community」が、決まって「公共/公共の」と訳される。
 このため、この局がどういう性質なのかが分かりづらく、また作品のテーマの一つである
 「ローカル性」を把握しづらくしてしまっている。

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7 不親切な直訳調の訳

序盤から全編通して見られるが、特にアクトIIIの後半からⅣにかけて多い。
場面展開なども考慮すれば意味は一応は分かるのだが、言葉運びが不自然で読みにくい。

・「電力会社は、州政府がスポンサーしていた投資プログラムの一環として、
 かつてヴァーノンから相当な額の株を購入したが、その取り決めの条項として、
 ヴァーノンがこの地球上にいる限り日常作業には手を出さないというものだった。
 結論を言うと、彼の死体を識別する者がいなかったということだ・・・」

・「頂点テクスチャフェッチの親密な暖かみから、後者は30フィート以上の垂直クリアランスを
 必要とする、悪名高い様相まで、アーティストの幅広いスケールとインパクトの範囲を表しています」

前者はある土地の権利をめぐる説明の一部。
「ヴァーノン」が元の権利者だとここまでの話で分かっているので意味あいは理解出来るものの、
非常にぎこちない表現になっている。

後者は現代アート(インスタレーション系)展示会の入り口の説明書きである。
会場を回って展示作品を見れば「頂点テクスチャフェッチ」と「様相」が作品名だと判明するので、
ぎりぎり意味が分かる。作品名に「 」を付けるだけでも、だいぶ分かりやすくなっただろうに……

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8 破壊的な機械翻訳 

※この項目については、ver1.03で改善を確認。旧バージョンにくらべればはるかにまともな訳が表示されるようになった。
ただし、改善後も誤表記や、1シーン内で固有名詞に複数の訳語を当てる
(例:The Weird Vector→おかしなベクトル/奇妙なベクトル)など、ぎこちない部分もまだまだ見られる。

また、上記7とこの8の間くらいの破壊力の誤訳・珍訳に関しては未だほぼ放置されているのも問題である。
(例:「かなり濃い。ひげ~のような声が、彼のハートを傷つけた。」など)
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もうあきれるしかないレベルの意味不明の訳。アクトIIIからIV、特にIIIによく見られる。

・「あなたは森の中の木々に何が起こったのか知っていますか?
 山火事はそれらをすべてクリアしてクリアします。それらは新しい木々のための部屋を作った」

・(いくつかの名詞を挙げたあとに)「と骨のこの老朽化したバッグが運営し、彼が目を覚まし、
 死の恐怖をして維持する唯一のもののように見えました」

……などなど、支離滅裂すぎてもう原文の想像すら付かない。
アクトIIIでは登場人物が増え、人間関係がぐっと複雑になってくるのだが、
このタイプの意味不明翻訳にまみれているために、重要な設定を見落としてしまいやすい。

実際に筆者も、英語版では初登場時にすぐ判明するはずの
「主要登場人物のジューンバッグとジョニーがアンドロイドである」ことや、
アクトIIIの序盤で説明されているはずのコンウェイとその雇い主リゼットの微妙な関係性など、
かなり重要な要素を初回プレイではうまく読み取れなかった。

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9 一般性に配慮のない訳語

「ドゥーラ」「アーキビスト」「ホビースト」など、まだ日本では一般化していないカタカナ語や、
「A/C」(エアコンの英語圏での略表記)のような馴染みのない略表記が、そのまま訳語として用いられている。
本作には訳註や豆知識集のようなシステムも無いため、知らない人にはかなり不親切な表現。

※この項目はインディーズゲームの翻訳にそこまで求めるのは贅沢かと感じて、
 初稿では「翻訳の問題点」に入れなかった。しかし、しばらく時間を置いてプレイし直した結果
 やはり非常に不親切と感じたので追記しておく。



【翻訳以外の問題点】

1 アクトIII-IV間の幕間の問題点

この幕間は「電話で観光案内サービスを聞く」だけの内容だが、操作上の問題点が多い。

・「人以外(受話器)を左スティックで動かす」操作が初めて登場するが、
 説明が何もないので下手をするとイベントの始め方が分からないままになる。
・電話の操作が×ボタン、字幕の送りボタンが○ボタンで使い分けが必要だが、これもほぼ説明がない。
・英語の観光案内音声に、字幕が自動追随しない。自分で音声を聞き取り、
 タイミングに合わせて送りボタンを押す必要がある。これについても説明は無い。
・この幕間はver1.02では非常に不安定で、一度クリアしたらほとんど再プレイできない状態だった。
 1.03で改善したものの、前述の操作の問題もあり、またまれに途中で操作を受け付けなくなるなど、
 不安定な部分が残っている。


2 アクトVでの、不親切な操作方法

 ト書き表示とメインテキストでテキスト送りボタンが異なる(○ボタン/×ボタン)が、説明がない。
 気づかなかった場合、それまでとは違う操作になっているト書きの方を見落としてしまう危険がある。


3 翻訳の欠損

 シーンタイトル「HARDTIMES DISTILLERY」→翻訳字幕「Hardtimes Distillery」のように、
 シーンタイトルの訳が英語そのままになっているシーンがある。
 また、アクトIIIの「コンピュータ上部下に指示を与えるミニゲーム」風のシーンで、
 「アンドリューは、原因と結果の統一性に関する何世紀に(※以下は欠損)」などのように
 部下の行動報告部分の訳が途中で消えてしまう。
 ゲームは止まらないので大きな支障にはならないのは救いだが……

4 トロフィー消失バグ

 1.03パッチが適用されたとき、それまでに取得済みのトロフィーが一部消える場合がある。
 筆者も4つほど消えたが、中でも話が長い上に分岐が多いアクトIVを「2回クリアする」という条件の
 トロフィーが消えたのは結構ショックだった。

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※以下のバグについては、ver1.02で修正を確認

・アクトIVの「ラドバンスキー・センター」のシーンで発生するイベントのうち、
 ほぼ最後に発生する「ビデオを見て解答するテスト」を終了できず、進行不能になるバグがある。

アクトの始めからやり直し、さらにセンター自体に入らない選択をすることで回避できるが、
アクトも後半にさしかかる頃のシーンなのでやり直すのがかなり面倒なうえ、
このイベントの最終盤の展開は見られなくなる。
実はこのバグ、何度か再現検証をしているうちに「本体の言語設定を英語に変えてシーンをやり直す」
ことで無事その先へ進行できることが分かった。
また、英語以外の全ての翻訳版で同様のバグが発生したため、「原語版にはない、翻訳版共通のバグ」である。


・発生条件は不明だが、「ゲームを進めているだけで取れるはずのトロフィー」を取得できない場合がある。
 選評作成時のプレイでは、クリアした状態で「アクトIII」「アクトIII-IV間の幕間」のトロフィーが
 取れていなかった。(アクトIV以降のトロフィーは取得できている)

このトロフィー関連のバグはver1.02以降で解消されたようだ。
ちなみに以前のバージョンでバグのために取得できていなかったトロフィーが複数ある場合、
「本来いちばん後に取得できるはずのトロフィー」が発生するアクトから再プレイを開始し、
アクトの最後まで(END OF ACT x が表示されるまで)進行することで、未取得分を一気に取得できる。


【最後に】

いろいろと書いてきたが、あくまで「日本語翻訳版」についての選評である。
「名作」と評しても良い作品である原語版を貶めたり、批判したりする意図は
本選評には無いことは最後に注記しておく。