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2015年総評の現在のステータスは、「様子見」(実質的な最終微修正)期間です。
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2014年は、KOTY(クソゲーオブザイヤー)における節目の年となった。
歴代最強と謳われた門番2作品を破り、見事大賞に輝いたのは『仮面ライダー サモンライド!』。
これまでのノミネート作を彷彿させる千変万化のフォームチェンジは、
スレ住人が歩んだ足跡をいとおしく振り返る、またとない機会を与えてくれた。
だが、その一方で、ダークヒーローによる痛快なピカレスクロマンは、住人の心に新たな問いを残していった。
はたして、クソゲーが出ることを喜んで良いのだろうか?
あの時、我々は確かに停滞を打破する絶対強者の登場を望んでいた。
だが、本来であれば「クソゲーなんて1本も出ないのが一番良い」はずだ。
不作を望みながらも、その一方でなぜか、魔物が訪れることを願っている……。
心の奥底に抱えたそんな矛盾に答えを見つけられないまま、
我々はまた、どこかで咲いているであろう徒花を探しに出たのであった。
***
6月末のこと。
2015年の戦いは、「禁断の地」の発見から始まった。
それは、3年前の『太平洋の嵐』を彷彿させる、深い霧に包まれていた。
地の底に密かに築き上げられた、巨大な要塞、
Xbox One専用ソフト、『アジト×タツノコレジェンズ』(以下、「アジノコ」)である。
『アジト』と言えば、「秘密基地作成シミュレーション」という独自のジャンルを確立したPS時代の名シリーズ。
その名のとおり秘密基地を地下に建設し、怪人やヒーローを思うさま配置して、敵陣営と戦うゲームだ。
本作は、タツノコプロとのコラボを引っさげて現れたシリーズ最新作として、発売前から期待を寄せられていた。
しかし、3ヶ月の延期を経て発売した直後、ソフト本スレは阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
「発売前日に公式サイトが強制終了バグの存在を発表」、
「ダウンロード版が1日で販売停止」、
「チュートリアルで詰んだ」、
「戦闘機が地中を飛んでいる」、
「何もしていないのに基地が勝手に壊れている」、
「ボタン1つの操作ミスでセーブデータが吹き飛んだ」等々……。
その他、ありとあらゆる場面でバグが噴出し、フリーズとクラッシュの盛大なカーニバル。
まさしくご覧の有様であり、モノを売るというレベルではない。
「KOTYの選評書く気も起きないくらいクソゲーだから買わないほうがいい」
動乱のさなか、ソフト本スレ住人は吐き捨てるように言った。
実際、『アジノコ』に特攻する者はなかなか現れず、検証は遅々として進まなかった。
というのも、まだ価格のこなれていない次世代機ということもあり、Xbox Oneの所有者が絶対的に少なかったのである。
もし本作をハード込みで買うとなれば、その値段は4万円を優に超える。
酔狂にしてはあまりに痛すぎる出費である。
とは言え、このまま選評が届かなければ、本作がKOTYの舞台に上がることはない。
伝説は伝説のまま、闇に消えてしまうのだろうか。
苦渋に苛まれながらも、スレ住人は立ち尽くすしかなかった。
後に戦況を打開する勇者が現れる、4ヶ月先まで……。
***
一方、それと並行して、予想だにしなかった珍事が起きていた。
誰もが知っていると同時に、あまりにもこの場にそぐわない、あの「不朽の名作」が姿を現したのだ。
天から降り注ぐブロックの流星群、
PS4/Xbox One用ダウンロードソフト、『テトリス アルティメット』(通称『テトアル』)。
テトリスといえば、言わずと知れた「落ち物パズル」の原点。
その生誕30周年を記念して作られたという本作が、よもや失敗作であろうはずもないだろう。
だが、半信半疑で検証を始めたスレ住人の目に飛び込んできたのは、
別の意味で記念作として相応しい、テトリスの常識を覆すカオスなオンラインモードであった。
プレイを開始すると、対戦を始める前から、
「タイムアタックランキングの上位陣が0秒でクリアしたことになっている」、
「試合開始まであと23時間待てと表示される」など、
なにやら不穏な空気が漂っている。
だが、対戦本番では、予想を遥かに上回る衝撃の光景が待っていた。
その様子を克明に描き出した事件があるので、一部始終を紹介しよう。
それは2015年7月13日、「ニコニコ生放送」にて、本作の販売元メーカーの公式チャンネルで起こった。
何を血迷ったのか、オンラインバグが各地で報告されている状況で何も手を打たないまま、
メーカー自ら、全世界同時中継で『テトアル』のプロモーション番組を配信してしまったのだ。
のちに語り草となる、【クソゲー公式生実況】である。
開始15分、どう見ても相手側のテトリスが上端まで積み上がっているのに死なない「ゾンビ」現象が起きる。
見てはいけない光景を前に凍り付く出演者一同。
「違うんですこれ! これ違うんです……これ違うんです……! 一戦目でぇぇぇ……!」
「勝ったんですけど、ずっとできるんですね……あっ、ウィニングランみたいな」
その後も、これが通常運行ですと言わんばかりにゾンビ現象が何度となく発生。
文字通りの死体蹴りが繰り返される中、次第に、ブロックの挙動も異臭を放ち始める。
消えたはずのラインがネオン広告のごとく高速で点滅する「エレクトリカルパレード」や、
消えたはずのラインが「消えたかな? いや、どうかな?」とでも言いたげに消滅と復活を繰り返す「踏み台昇降」が発生。
そんな中、今度はゾンビ現象とは逆に、相手側がまだ積み上がっていないのにいきなり決着してしまう。
「セコンドの方、タオル投げましたかね……」
対戦テトリスのルールに「TKO(テクニカルノックアウト)」が書き加えられた歴史的瞬間であった。
なお、最終試合も案の定ゾンビ現象が発生したが、テトリス名人が盤面を使ってアートを描くことで場を和ませ、
事なきを得たことを記しておこう。
この一件、2015年のクソゲー界を象徴するベストシーンと言っても過言ではないだろう。
17試合中15試合でバグが起きるという奇跡のシチュエーションについてもさることながら、
何より素晴らしかったのは、目の前の大惨事に対して懸命にツッコミ続け、笑いに昇華させようとしたキャストたちのプロ根性だ。
上記の模様を見て生放送中に購入したユーザーも少なからずおり、プロモーションとしては上々であったと言えるかも知れない。
だが、この後、本作の扱いを巡ってスレ住人は頭を悩ませることになる。
というのも、テトリスは一人プレイでも十分に遊べるゲームであり、オンラインのクソ要素は不可避的なものではない。
一方、オフラインでのプレイを本格的に検証するには、テトリスに習熟したスレ住人の数が不足していた。
結果として、この段階では『テトアル』の扱いは宙に浮いたままになってしまった。
空には「究極」、地には「伝説」。
前年とはまた違う、異様なムードの中で、2015年の緊迫した戦局が形成されつつあった。
***
『テトアル』がにわかに盛り上がりを見せる傍らで、
『アジノコ』は、同時期のパッチ配信によってひっそりと変貌を遂げていた。
バグで遊べなかった初期状態を第一形態だとすれば、
かろうじて遊べるようになったパッチ配信後はいわば第二形態。
この段になって、初めて本格的に検証が開始できる状態が整ったとも言えるだろう。
だが……様子がおかしい。
怨嗟の声が一向に収まらず、日に日にソフト本スレがゴーストタウンと化していく。
何か恐ろしいことが起きている予感がする。
そうこうしているうちに時は流れ、11月。
ある一人の勇者が、『アジノコ』の検証から帰ってきた。
数少ない購入者の一人が直前に失踪し、皆が希望を失いかけていた中での奇跡の生還であった。
スレ住人の祝福の輪に囲まれながら、傷ついた勇者は静かに語り始めた。
その目には海よりも空よりも深い、地獄の淵を見てきたかのような闇が広がっていた。
***
『アジノコ』第二形態。
その実態は、かつてない絶望に包まれていた。
まずは、キャラゲーとしての側面から見てみよう。
なるほど、公式自らがアピールポイントとして挙げているタツノコキャラのドット絵はなかなかのクオリティだ。
……だが、本作の褒められる点はそれだけである。
顔グラフィックは原作アニメの切り抜きで、カットイン演出は原作アニメから版権音声を消した「無声動画」を数秒流すだけ。
ボイスについては原作キャストを完全無視し、専門学校の生徒で代用するという暴挙に出ている。
シナリオにいたっては、そもそも存在していると言えないレベルだ。
本作には「会話」という概念がなく、誰も彼もがロボットのように2,3の持ち台詞を繰り返すばかり。
まるで、全員が壁に向かって喋っているかのような不気味な茶番を何度となく見ることになる。
では、キャラゲー面以外の特徴はどうだろう。
公式サイトで「敢えて時代に逆行した」と謳うだけのことはあり、
およそ、次世代機のソフトとは思えないコスト削減の限界に挑んでいる。
グラフィック、サウンドにとどまらず、テキスト、イベント、キャラクター、内部データにいたるまで、
ほぼ全面にわたって、20年近く前に発売されたPS版『アジト』の素材コピペの嵐だ。
旧作の怪人ボイスをタツノコユニットに転用したり、
旧作ヒロインの声をザコ怪人に流用したりといった無残なつぎはぎも多く、
フランケンシュタインの怪物さながらの腐臭を漂わせている。
このように、個々の構成要素からして胃が痛くなる本作であるが、
当然、と言うべきか、ゲーム内容はその上を行く脅威の全編発狂仕様だ。
大前提として、『アジノコ』の基本は「待ちゲー」だ。
全面クリアまでの時間はおよそ100時間だが、その半分以上はプレイヤーが介入する余地のない待ち時間である。
リアルタイムシミュレーションなので多少の待ち時間は仕方ないところだが、
本作の場合は何もしていない状況でしか時間が進行しないため、次の操作タイミングが来るまでただ待つしかない。
そして、これを踏まえた上でゲームの流れを簡単に説明すると、
基地の建設、資金集め、部隊の編成を行う「経営フェーズ」と、
敵基地への侵攻や基地の防衛を行う「戦闘フェーズ」の2つの局面に分かれている。
まず、経営フェーズは、最初から最後まで、全30個のミッションでやることが変わらない超耐久作業ゲーである。
チュートリアルが説明不足すぎるため、最序盤こそ理不尽な手探りを要するが、
一度手法を確立したが最後、残りのミッション全てでほぼ同じことを繰り返すルーチンワークがひたすらに続く。
言うなれば、ベルトコンベアーで流れてきたものを無限に処理する工場労働。
一つの行動につき数十連打が基本となる劣悪なUIも相まって、そのストレスは想像を絶する。
かたや、戦闘フェーズはと言うと、
「侵攻戦」では幼稚園児なみのAIに悩まされ、「防衛戦」ではプレイする意味そのものに悩まされることになる。
まず、前者ではプレイヤーは撤退命令を出すことしかできず、主要なキャラが死ぬ前に退散できるよう、常に監視する必要がある。
ところが、自キャラの大きさは米粒大なのに対して、敵基地の広さはテレビ画面にして十数枚分に相当する。
自動で捕捉する機能などついておらず、ひたすら手動でチビキャラを追いかけ回す「おもり」が続くことになるのだ。
そして、そんなプレイヤーの気苦労を尻目に、味方ユニットは不条理な奇行を繰り返す。
信じて送り出したタツノコキャラたちは、「司令室を爆破する」という単純な命令すら理解せず、
行きがかりの部屋に爆弾を置いただけでさっさと帰還してしまう。
脇道を見つけるたび、「みっけ!」とばかりに単身乗り込んでいき、一人ずつ袋叩きにされて各個撃破されていく。
言ってしまえば、タツノコではなくアホの子である。
後者の防衛戦はと言えば、基地に入る前の段階で、タツノコ系のロボが全自動で敵軍を壊滅させてしまう。
せっかく罠や迷路作りに凝っても、これではただの徒労である。
また、よしんば基地内に侵入されたとしても、
白衣の研究員を数十人並べてリンチしたり、エレベータ待ちの敵を背後から撲殺したりといった、
非人道的な攻略法によってノーリスクで完勝することが可能だ。
むろん、これらを封印することもできるが、先に挙げた経営フェーズの苦行が余計に長引くだけで、楽しみは全く増えない。
何より、敗北によって数時間の作業が無駄になるリスクを考えると、安全策以外取り得ないのが実情である。
突き詰めれば、「いったい何のためにこのゲームをプレイしているのか」という根本的な疑問に立ち返ることになるだろう。
最後に、ここまで耐えたプレイヤーにとどめを指すのがバグの存在だ。
パッチによる改善はあくまで、「かろうじて遊べるようになった」程度であり、
「聞こえるはずのない声が聞こえる」、
「いないはずの人がいる」、
「いてはいけない場所に人がいる」、
といった、恐怖体験は依然として健在。
それどころか、数々の進行不能バグ、フリーズも残っており、
オートセーブの無い仕様も相まって、2,3時間に及ぶプレイが一瞬で吹き飛ばされる危険が潜んでいる。
巨大ロボと一緒にエレベーターが天井を突き破って飛んでいく「天元突破エレベーター」など、一見笑えるバグも中にはあった。
だが、これも含めたほとんどのバグに深刻な実害があり、最終的には乾いた笑いしか出なくなってしまう。
ともあれ、こうして少しずつ、『アジノコ』の全容が明らかになりつつあった。
日に日に疲弊していく勇者の体調を気にかけながらも、検証終了に向けて一丸となって応援するスレ住人たち。
選評執筆にもめどが立ち、ようやく終わりが見えてきた……はずだった。
「こんな時期に新パッチ来たんだが」
11月17日、あの運命の時が訪れるまでは……。
***
突然のパッチ配信の知らせにスレ住人は総毛立った。
まさか、さらに凶悪になるのか?
いや、今度こそ、良い方に生まれ変わるはずだ。
祈りにも似た気持ちで待った結果、スレ住人はさらなる絶望のどん底に突き落とされることになる。
『アジノコ』第三形態、
最後の審判の時である。
このパッチではフリーズの頻度が改善され、グラフィックやボイスの素材も追加された。
だが、それと同時に、ある一つの特大バグが混入してしまった。
「セーブデータが毎回リセットされる」。
ゲームを終了し、再開するたびに、100%の再現率で、
ミッションの進行度合いは変わらないまま、手に入れたタツノコユニットの全てが忽然と姿を消してしまうのである。
RPGに例えれば、
「シナリオが進んだ状態でセーブ&ロードすると、毎回、装備やレベルだけが初期データにリセットされる」
という事態に等しい。むろん、通常プレイの範疇では詰みである。
プレイしてもプレイしても、苦心して進めたはずのデータが眼前で消えてしまう。
勇者は、震える声でこう紡いだ。
これは、【賽の河原】だ、と。
石を積むたび、それをあざ笑うかのように鬼がやってきて、一つ残らず崩していくのだ、と。
過去にも賽の河原に例えられた苦しみはあったが、これは違う。
伝説にある三途の川の光景そのものだ。
人が労働に耐えるためには、自分が着実に何かを果たしているという「達成感」が不可欠である。
その達成感すら奪われては、苦行に耐える価値を一体どこに見いだせばよいと言うのだろうか。
このバグを回避する方法は現在のところ見つかっておらず、
「初期データ縛り」か、「ゲーム終了不可縛り」かの2択でしかクリアできない。
だが、前者を選ぼうにも、本作のゲームバランスは「タツノコ>それ以外」であり、
タツノコユニットなしで進めるのは絶望的だ。
後者を選べば、数十日かけて進めたデータが、
ただ一度のフリーズや進行不能バグによって水泡に帰してしまう。
どちらを選んでも、その先には絶望しかなかった。
それでも、最終的に、72日間もの死闘の末に勇者は本作を制することに成功した。
だが、そこに笑顔はなかった。
……本作にEDがないことは、以前から薄々わかっていたことだった。
勇者の特攻を皮切りに何人か本作への挑戦者が現れたが、
2016年4月現在、この「賽の河原」バグは未だ修正されていない。
本作が数多の問題点を修正し、皆に笑顔で受け入れられる「第四形態」に変わる日を願ってやまない。
***
『アジノコ』との決着に前後して、
もう一つの難敵との戦いも佳境を迎えようとしていた。
『テトアル』である。
本作はクソゲーであるのか。
年をまたいで1月になってもなお、その結論は未だ出ていなかったのだ。
本作のオンラインモードには確かに、クソ要素に起因する類い稀なネタ性があった。
だが、先にも述べたとおり、オフライン部分が検証されなければ裁定を下すことはできない。
この事実を念頭に置きながら、慎重に再検証が進められていった。
まずメスが入ったのは、一人プレイ時の各モードの仕様である。
はじめに、バトルモードで着目されたのは、クスリでもキメているかのような最強CPUの存在だ。
毎秒20連打という圧倒的なチート性能によってプレイヤーを一方的に叩きのめすのだが、
自分自身もその速さについていけないのか、自滅するのもあっという間だ。
それに加えて、CPU全員が唐突に操作を投げ出し、死を待つだけの状態になってしまう「試合放棄」バグも明らかになった。
接待プレイでも実装したつもりなのかもしれないが、全くもって余計なお世話である。
一方で耐久モードに手を出すと、演出や操作性の悪さがプレイヤーを苦しめる。
妙に不安をあおる心拍音のSEが鬱陶しいことこの上なく、BGMも異様なまでの鬱曲で固定。
また、ラインを揃えると光輝く壮大なエフェクトが付くのだが、
壮大すぎてエフェクトの最中に次のブロックが落ちるため、タイミングを取りづらいことこの上ない。
操作性については、横移動のスピードが他のテトリスに比べて4倍遅いというセルフハンディキャップ仕様だ。
オンラインで凄まじい壊れっぷりを見せただけのことはあり、やはりポテンシャルはあったと言えよう。
だが、ここまでの議論では大勢が決することはなかった。
なぜ数多のテトリスプレイヤーが『テトアル』を忌々しげに唾棄したのか、その勘所が見えてこなかったのだ。
転機となったのは、本作発売当初、ソフト本スレに書き込まれていた、ある一つの書き込みであった。
「時々、次のブロックが降り始めるまでの猶予がなくなることがあるよな。
レベルが上がると発生しやすくなる。エンドレスモードは大体これが原因で殺される」
……そんな馬鹿な。
前述の壮大なエフェクトがもたらす目の錯覚であろう。当初はそう思われていた。
だが、確認のため、検証者が録画映像を一つ一つ洗い直した結果、驚愕の事実が判明した。
本当に、時間が飛んでいるのだ。
ラインを消去したと同時に、次のブロックが下に着いている。
ブロックを置いたと同時に、次のブロックが下に着いている。
秒間60コマの録画をスロー再生すると、不定期にこれらのバグが起きている決定的瞬間がまざまざと映っていた。
これまでにも、『テトリス ザ・グランドマスター』などの上級者向けテトリスにおいて、
ブロックの落下が瞬間的になることはあった。俗に、「地面からブロックが生える」と言われる状態である。
だが、それらとて最低限、操作の合間の「猶予時間」は保証していたことを強調しておきたい。
そうでなければただの操作不能ゲーと化すからだ。
それに対して、『テトアル』ではそういった猶予時間が消し飛んでしまう。
プレイヤーが知覚できないまま、気づいた時にはブロックが既に着地しているのだ。
このバグはゲームスピードが上がるほどに発生頻度が上がり、
一つの誤操作が命取りになる高レベル帯においては確実な致命傷になる。
しかし、実際にこのバグに遭遇しても、プレイヤーは知覚することもできない。
わけがわからないまま、死に追いやられるだけだ。
これまでの検証で見過ごされてきたのも道理であろう。
もはや第六感でもなければ攻略不能なこのバグが確認されたことで、スレ住人は、はっと気が付かされた。
本作は「究極」すぎる。まだ人類には早すぎる。
「テトリス」ではなく突き抜けた何か……いわば、『テトリヌ』であったのだ、と。
この一件により、オンラインの「光」に隠されていた本作の深い「闇」が暴かれたと言えよう。
異例と言える長期間の審議を経たものの、本作は無事、恥の殿堂に奉納されたのであった。
***
さて、以上2つが本年のノミネート作品である。
役者が揃ったところで本年の大賞発表をしよう。
不作かとも思われた2015年であったが、終わってみれば要らぬ心配であったと言えよう。
現れた両雄は、例年であれば何作かに分かたれるはずの不幸のエッセンスを凝縮し、
見たこともないほど強大な存在に結実していた。
進化を繰り返し、終わりなき絶望へとプレイヤーをいざなう《伝説》の魔王『アジノコ』。
クソゲーの持つ「光」と「闇」を内包し、混沌の力で30年の歴史を覆した《究極》の戦士『テトアル』。
全ての者が道を譲る中、圧倒的な暴力によって新世界の覇権を手にせんとする猛者が今、激突する。
天を割き、地を揺るがし、この星を真っ二つにしながらも、お互い一歩も引かない両雄。
破滅へと向かう叙事詩の最終章、雄叫びとともに宿敵の心臓を貫いたのは……
『アジト×タツノコレジェンズ』である。
今回のノミネート作品2つに通底するキーワード……それは「スケールの大きさ」である。
『アジノコ』は何と言っても、質量ともに近年まれに見る最大級のクソゲーである。
本作は、膨大なクソ要素の「広がり」と、どこまで掘ってもまるで全容が見えてこない「深み」を兼ね備えていた。
さらに、そうした「空間」的な重厚さのみならず、
5ヶ月にわたって第一形態、第二形態、第三形態と進化する「時間」的な長大さも併せ持っていた。
いわば、クソゲー界における「時空の覇者」とでも言おうか。
一方、『テトアル』は、存在そのものが壮大な「歴史的偉業」に他ならない。
本作は、対戦テトリスのルールを再定義するオンライン対戦バグの数々を生み出しただけでなく、
テトリスのルールそのものを根底から否定する「時間消失バグ」をも創出した。
これまでにも、ADVという安全地帯を蹂躙した『四八(仮)』、テーブルゲームという安牌を破壊した『ジャンライン』があったが、
三十余年続くテトリスという「安全神話」を粉々に打ち砕いた本作の功績は、それらと比しても一際大きいと言える。
双方とも稀代の英傑であり、この段階ではどちらが勝ってもおかしくないと言えるだろう。
そんな中、勝負の明暗を分けた点……
それは、『アジノコ』が「最小限の労力で最大限の苦痛を作り上げたこと」である。
最小限の労力とは、とりもなおさず「手抜き」のことを指す。
『アジノコ』は、「全員素人声優」や「無声動画」からもわかる通り真っ当にキャラゲーを作る気が一切なく、
かといってゲームバランスは無調整で、素材は大部分が20年近く前のゲームからの流用だ。
とにかく、作品を良くしようとする欲目を一切見せず、徹底してコスト削減だけにいそしんでいる。
この通り、「こだわり抜いた妥協」こそが本作最大の特徴と言えよう。
一般に、おざなりに作られたゲームというものは、
良くも悪くも、味わいの薄さやボリュームの無さが際立つことが多い。
裏返せばそれは、ネタ性の裏付けになる痛みや苦しみに欠ける、ということを意味する。
「災い転じて福となす」、がKOTYの理念であるが、
はなから「災い」があまりにも無いものについては、いじりの甲斐もないのだ。
これまでにも手抜きが高じて壇上に上がったノミネート作品は何作かあったが、
虚無を極めれば極めるほどに苦痛が薄くなり、大賞議論の場から離れていくというジレンマを抱えていた。
だが、『アジノコ』は明確に違った。
開発に注がれたエネルギーはどう見ても「最小限」であるにも関わらず、
プレイヤー側には「最大限」の苦痛を強いることに成功しているのだ。
データだけ切り貼りしてUIやゲームバランスの工夫を投げ出すことで、「100時間耐久ルーチンワーク」のゲーム性を創出し、
テストプレイという制作者の義務を否定することで、「賽の河原」バグという史上最悪レベルの大問題を生み出している。
いわば、「無」から転じて「有」を生み出す「ビッグバン」的クソゲー。
相反する二つの要素を併せ持つ『アジノコ』は、「無」を持たない『テトアル』に対して一枚上手であると言えよう。
以上から、2015年の大賞を『アジノコ』に与えるものとする。
余談ではあるが、Xbox系列ハードの作品の受賞はKOTY史上初めてのことである。
奇しくも、パッチによる進化という共通項を持つ同門の『ジャンライン』の雪辱を見事に果たしたとも言えるだろう。
***
タツノコプロと言えば、タイムボカンシリーズに登場する「三悪」がつとに有名だ。
あれこれと悪だくみに走り、毎度人々を困らせるものの、すぐに露見して手痛いしっぺ返しを食らう。
そんな、永遠の憎まれ役。
だが、三悪がいたからこそ、ヒーローたちの物語は輝いていた。
影があってこそ映える光であり、悪があってこそ引き立つ正義なのである。
思えば、クソゲーもまた、三悪に相通ずるところがあるのではなかろうか。
そして、冒頭で述べた矛盾に対する一つの答えが、そこにあるのではないだろうか。
クソゲーそのものは、買った人々を不幸にする忌むべき存在である。
だが、クソゲーを通じて人は、憤りを機知に昇華し、苦しみをおどけに転じることができる。
そうして結局、誰も憎むことのない、笑顔に満ちた世界が形作られるのだ。
この不思議なパラドックスに我々はいつも心惹かれてきた。
だからこそ我々は、
クソゲーが生まれることを悲しみながらも、
心のどこかで新たなクソゲーを待ち望んでしまうのだろう。
「負けない。くじけない。何度もよみがえる」。
クソゲーにはこれからも、三悪のようなしたたかな悪役であり続けてほしい。
……それはそれとして。
実際に『アジノコ』をクリアした検証者の一人が漏らした率直な感想を書き記すことで、本年の締めくくりとしたい。
「勝利のポーズ! ヤッター、ヤッター……やってられんわ!!!!」