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総評(仮) ※2月27日23:59確定

クソゲーオブザイヤー(KOTY)というスレッドがある。

それは、その年一番のクソゲーを追い求める、どうしようもないやつらのアジト。

住人は、ある時は戦場カメラマン。地雷の埋まった荒野を走り、弾丸飛び交う市街地を往く。

またある時は探検家。森の奥地に秘宝を求め、果てなき山の高みを目指す。



「今度はどんなクソゲーに出会えるのだろうか、いや、出会ってしまうのだろうか」



2012年、そんなスレ住人を待っていたのは、『太平洋の嵐』をめぐる60日間の航海だった。

荒れ狂う海、出口のない霧に飲まれながら進む、帰るあてのない旅路……。

語ることさえ許さない最強の敵を前に、幾多もの勇士が散っていった。

だが、死闘の果てに命からがら勝利を手にしてもなお、この心は次なる獲物を求めている。



スレ住人はどこまでも学ばない。

今ここに過ち再び……KOTY 2013が始まる。



***



2013年1月、最初にスレ住人の目に飛び込んできたもの。

それは朝もやの中に浮かび上がる、ひどく懐かしいシルエットであった。

クソローカライズで安価洋ゲーを3倍値上げ。5ページしかないモノクロ説明書。

総ステージ数20以上……そう謳いながら、実は12ステージで2種類の難度があるのみ。

マルチプレイは地獄の連帯責任で、銃撃戦のさなかにひとりが飛び出せば全員が飛び出す。

隠しようもない忌まわしき血の系譜。間違いない、こいつは「奴ら」の一味だ。

PS3/Xbox 360向けソフト、



ヘビーファイア シャッタードスピア』(通称「HFS」)。



昨年の携帯機KOTY [外部リンク]を制するも、据置機では惜しくも敗れた『ヘビーファイア』シリーズから、

イランでの紛争を描いた最新作の捲土重来である。

前作『アフガン』のかたきを討つべく、負の方向へとパワーアップしたその姿はまさしく、

進化する妖銃「デスクリムゾン」を彷彿させるものであった。



まずはゲーム内容の話をしよう。

本作は前作『アフガン』と同じレールシューティングだが、

前作で争点となった「戦場のリアリティ」が過剰なまでに追加武装されている。

ひとたび『HFS』の世界に入れば、そこは鬼軍曹が支配する恐怖のブートキャンプ。



回復アイテム? そんなもの戦場にあると思うのか。豚共のために置いてはやろう、カモフラージュ付きでな。

リトライだと? 死んだ奴に二度目があるか、間抜け。お情けで復活させてやるが、アイテムと弾は復活せんぞ。

人質や味方を撃っただと? やっちまったな! おまえの人生、ここでゲームオーバーだ!



……といった具合で、あらゆるレールシューティングの常識が、嫌すぎるリアリティの前に崩れ去っていく。

プレイヤーはさながら、過酷なしごきの中で狂気に目覚めていく新兵そのものであり、

ワイヤーアクションばりの動きを見せるヘリ、重力を無視したジープなどの白昼夢に悩まされるようになる。



次にストーリーについて語ろう。

「刺し身の上のタンポポ」程度の存在意義しかなかった前作からは大幅に強化されたが、

やはりというか、新たなクソ要素の温床となってしまっている。

ヘリに乗り込む場面があったかと思えば、その直後に「運が悪かった」というモノローグが入り、いきなり墜落。

戦車同士で戦うシーンも追加されたが、ご丁寧にこれも、一発でも撃たれると即死である。

直前のモノローグで主人公が「戦車の強力な装甲は安心させてくれる」などと述べており、脱力感もひとしおだ。

ラストステージでは「核ミサイルを発射されたけど、自爆ボタンでなんとかなりました」という超展開が待っている。

その一方で、『アフガン』における唯一の癒し要素だった「ふぅあー!」の雄叫びが削除されており、

信じて裏切られた前作プレイヤーの慟哭が戦場に響き渡った。

『HFS』や恐るべし……さしものKOTYスレと言えども、これほどの敵を前にしては完全降伏せざるを得まい。

2013年の「門番」が誕生した瞬間である。



***



かくして『HFS』というヘッドクォーターの占領統治下におかれ、KOTYスレには絶対的な平和が訪れた。

だが、それはうわべだけの幸福であった。

我が身を脅かす恐怖から解放される一方で、極限に生きてきたスレ住人の心は一向に満たされない。

灰色の日々に身も心も倦んでいく中で、気がつくともう9月。

そのとき、ある一人のつぶやきによって事態は風雲急を告げる。



「何か、忘れていることはないか?」



そう。

住人たちが牙を抜かれている間、遡ること三ヶ月、新たな舞台はすでに幕を切って落としていたのだ。

ふと空を見上げると、そこには極彩色の戦場が広がっていた。

PS3向け、ダウンロード販売専用ソフト、



ビビッドレッド・オペレーション -Hyper Intimate Power-』(通称「HIP」)。



2013年初頭に放映された同名の深夜アニメを、5500円のフルプライスでゲーム化したものである。

原作について簡単に説明すると、「ホットパンツと"尻"の描写にひたすらこだわった、空中バトル活劇」、といったところだろうか。

地球を狙う謎の勢力に対して4人の美少女戦隊が立ち上がり、友情パワーで「合体(ドッキング)」することで勝利を掴んでいく。

しかしながら、それらの要素を遺憾なく取り入れたゲーム版は、凄惨な合体事故の現場と化していた。

それでは、全12回のアニメ本編を、クリアまでわずか3時間、629MBの容量までブラックホール圧縮したその内実を見ていこう。



はじめに、本作は、原作の最も重要なコンセプトである「友情」を大胆に削ることで大幅な容量削減に成功している。

4人の美少女戦隊のうち、操作できるのは主人公1人だけ。他の3人は戦場に姿を見せず、「合体」時に蒸着されるだけの存在だ。

そのあまりの寂寥感は、「悟空とそのフュージョン形態しかいないドラゴンボール」と言えば伝わるだろうか。

そんな主人公のために誂えたかのように、ステージは「精神と時の部屋」仕様である。

空一面の殺風景、3分間のタイムリミットが処理落ちで9分に化けるほどの時流の歪みが、静かにプレイヤーの精神を蝕んでいく。



そして、そんな舞台にふさわしく、プレイ時間の大半を占めるアクション部分は「全編トレーニングモード」だ。

本作のジャンルはメーカー曰く「空翔けるビビッド・アクション」であるが、それはただの妄言であり、

実際には「空みたいなとこを浮遊する、雑魚狩りアクション」である。

それが証拠にまず、このゲームには上下移動が存在しない。

主人公は地を這うように平面上を滑るのみであり、空かける躍動感や疾走感は欠片もないのである。

雑魚敵も全ステージ共通で2種類しかおらず、ウニっぽい奴とボールを潰して回るだけの潮干狩りが延々と続く。

ビビッドどころか離乳食よりも歯ごたえの無い難易度の一方で、操作性は最悪であることも補足しておこう。

「怒りどころか何の感情も湧いてこない」と言わしめるゲーム性の中で、理不尽な被弾だけがプレイヤーの感情を逆撫でする。



キャラゲーの命であるストーリーも、本作独自の解釈によって大胆に再構成されている。

原作の複雑な設定を全てかなぐり捨て、以下の2行にまとめきっている。



「私あかね14歳。3人の友達と一緒に敵と戦ってるよ。お鍋食べたり、遊びにいったりもするし、妹も可愛いよ。

 れいちゃんって子を助けたけど、鍵が無いってなぜかキレられた。探してあげよう。あ、れいちゃんだ、おーい!(終)」



清々しいまでに伏線を放り投げた「打ち切り」EDに、プレイヤーは本当の意味で言葉を失うことだろう。

ロケットでつきぬけたスタッフの皆様におかれては、ぜひそのまま太陽系から出て行っていただきたいところだ。

なお、この「れい」は重要人物であり、故郷を救うために人知れず悪に手を染めているのだが、本作ではそんな事情などガン無視である。

浜辺で満身創痍になっているところを保護され、シャワールームで意味不明な独り言、と、周囲から見たありのままの姿で描かれる。



だが、これらにまして最終的に『HIP』の地位を不動のものとしたのは、

本作のテコ入れとして作られた「販促ソフト」の存在であろう。

その名も、



ビビッドレッド・オペレーション あかねとマヨっとオペレーション?』(通称「マヨ」)。



スレ住人の度肝を抜いた『マヨ』のゲーム内容は、

「ビビオペの主人公・一色あかねが、料理にマヨネーズをかける」。

以上で全てだ。

大事なことなのでもう一度繰り返すが、本作の内容は

「スティックを回して、料理の上にマヨネーズでとぐろを巻くだけ」であり、

10分足らずでクリアどころかトロフィーコンプリートまでも可能という、正真正銘の「ゲー無」である。



かつて味の素が放った意欲作『もと子ちゃんのワンダーキッチン』では、マヨネーズを使った実用的なレシピが紹介されていたが、

本作では、チョコクッキーに一本丸ごとマヨネーズ、あんころもちに一本丸ごとマヨネーズなど、ただのグロ画像しか登場しない。

一応、本作を買うことでHIP本編が割引になり、つごう200円分の利得が生じるのであるが、

本作の内容は「お金をもらってもやりたくない」類であり、加えて、販促先の『HIP』は完膚なきまでのクソゲーである。

かくして『HIP』と『マヨ』の投下でスレは爆心地と化し、両者の融合体である「ケツマヨ」のAAが溢れかえる事態となった。

無限の霧、そして門番の占領統治から逃れ出たスレ住人は、また新たな魔境へと迷い込んでしまったと言えよう。



***



それから程なくして新たな刺客が現れたのは、またしても空からであった。

けたたましいローターの音と共に、あるいは、耳をつんざく亜音速の翼の音と共に飛来する、鋼鉄の棺。

PS3/Xbox 360向けソフト、



エア コンフリクト ベトナム』(通称「エアコン」)。



米軍から見たベトナム戦争を題材に、戦闘機や戦闘ヘリコプターによる空戦を描くフライトシューティングだ。

本作の場合、グラフィックに関してはさほど問題はなく、ジャンル相応の頑張りを見せている……と思いきや、

肝心の操縦感は、おもちゃの国から迷い込んできたかのようだった。

墜落寸前でもボタンひとつで水平飛行に戻る爆撃機、アウトボクサーのごとき鋭い回避を見せるヘリコプターなど、

コミカルな所作の数々に噴飯せざるを得ない。

キー配置も常軌を逸しており、「コントローラの右側を両手で持たざるを得なかった」という選評者の証言が興味深い。



狂気に囚われた世界観にも触れておきたい。

ベトコンに横流しでもされたのか、機体を切り替えると装備がどこかへ消え去っていることがあり、

僚機は撃墜してくれと言わんばかりにその場を旋回するのみ。攻略法としても、墜落した味方を見殺しにすることが推奨されている。

オンラインプレイに救いを求めても、過疎すぎて誰とも通信できない有様である。

スレ内有志を募ることでようやく対戦が実現したが、そこに待っていたのはまた地獄だった。

「5分以内に旗を奪って帰ってくる勝負なのに、片道だけで4分30秒かかったんだが……」、

「敵なのにこっちの空母から飛んでて驚いたよ」などの衝撃的なやり取りが記憶に新しい。



この通り、ある意味で非常に秀逸な出来の本作であるが、

何よりも、プレイヤーの心をへし折る巧妙な「物語構造」について特筆しておきたい。

終わりのない戦争の中、人の尊厳が失われていったベトナムの惨禍を、主人公「ジョー・トンプソン」の物語は淡々と描く。

自分が従軍している間に本国の娘は反戦思想に染まり、罵詈雑言の嵐を吐く。

自分を慕っていた弟は鬱病になって戦死し、愛する妻からは三行半。

それでも懸命に働いた自分は元帥の地位を手に入れるが、むなしく孤独死を遂げる。

スタッフからすれば、「因果応報」、そしてこの上ない悲劇によるカタルシスを狙ったのだろう。

だが、それが成立するのは、プレイヤーが感情移入し、ジョーになりきれた時だけだ。

本作ではプレイヤーの選択の余地は一切なく、どう見ても悪化していく状況に対し、ジョーは何も語らないし、何もしない。

このような状況ではプレイヤーは物語から完全に締め出され、どこまでも「蚊帳の外」である。

一方で、プレイヤーはジョーを操作し、クソゲーの苦楽を共にすることで、「自分の分身」として一体感を覚えていることも事実だ。

相反するこの二つの性質が、一体何を織りなすか?

本作では、「感情移入は全くできないが、あたかも自分が責められ、報いを受けているかのような感覚」に陥るのである。

そこにカタルシスは一切なく、「何、この……何?」という強烈な残尿感と、言いがかりをつけられた後味の悪さだけが残る。

ゲームの最後、とってつけたように

「この作品をベトナム戦争で亡くなった全てのひとに捧ぐ」などと表示されるが、

こんなクソゲーを押し付けられては戦没者の方々もたまったものではないだろう。



***



KOTYスレにとって、2013年の9月は奇跡の月であったと言える。

『HIP』、『エアコン』と立て続けにクソの金塊が空から舞い落ちる中、地上でも新たな金鉱が掘り起こされたのだ。

XBox 360ライブアーケード(XBLA)向け作品、



ダブルドラゴンII - ワンダーオブザドラゴン?』(通称「DD2」)。



80年代生まれの『ダブルドラゴンII ザ・リベンジ』を北米向けにリメイクし、日本に逆輸入した作品だ。

『ダブルドラゴン』シリーズは、テクノス社の『熱血硬派くにおくん』の兄弟作であり、

カプコンの『ファイナルファイト』でお馴染み、「ベルトスクロール」系ゲームの元祖でもある。

そんな原作に、3Dグラフィックと高性能なAIによって新たな命を吹き込んだ結果、生まれたもの……

それは、暴力がすべてを支配する世紀末であった。



本作を一言で言い表すと、真性の「マゾゲー」だ。

高難度のゲームを指してマゾゲーと言うことはよくあるが、これは性癖的な意味での「マゾヒスト向けゲーム」。

ふつうベルトスクロールと言えば、群がる敵を一箇所にまとめて一方的にタコ殴る爽快感が醍醐味であるが、

本作の目指したゲーム性はそれとは全く逆だったようだ。

8方向から押し寄せる攻撃によって文字通り「袋叩き」されるようになり、一方的に殴る蹴るの暴行を受けるゲームと化している。

道行く敵はどこで拳法を身につけたやら、ジャンプには対空パンチ、逃走にはダッシュからのストレートの超反応。

「殴られるごとにスタミナが減る」という、ある意味でリアルすぎる仕様も相まって、リンチからの脱出は困難だ。



やはり、世紀末を生き抜けるのは強者、つまりCPUのみなのだろうか?

否、弱者たるプレイヤーにも、唯一すがれるものが存在していた。

北斗神拳ならぬ、「コンティニュー拳」である。

本作ではコンティニューから復活する際、地団駄を踏みながら周囲に闘気を撒き散らす謎の必殺技が発動するのだ。

その威力たるや、通常技の数十倍。ボスもこれだけで倒せる、お手軽な護身術である。

ゲームバランスが崩壊し、死兆星もとい「死調整」が煌々ときらめくこの街にあって、まさに死中に活ありと言えよう。



「マッドマックス」を越えるバイオレンスの巨編を描ききった本作に対し、海外の各メディアも最大級の賛辞を惜しまない。

「新たなチャンピオンに道をあけよう。これを超えるには世界が終わるほどの酷さが必要になるはずだ」、

「過敏性腸症候群のインタラクティブ版。史上最も奇妙な駄作の一つである」、など、

言葉の意味はよくわからないが、とにかく尋常ならざる畏敬の念を払っていることは感じて取れる。

ライブアーケード公式ページでのユーザー評価も見事、5段階中の1.5という、昇順でダントツ1位のスコアを記録し、

世に出ると同時にしめやかに葬儀が行われたのであった。



***



やがてゴールドラッシュの狂騒も収まり、年の終わりが近づくと、スレ住人は安堵し始めていた。

今年もまた、なんとか生きのびることができた。

願わくは、残されたわずかな日々を、つつがなく過ごせることを。

だがその時、スレ住人はまだ知る由もなかった。

願いむなしく、「黒いクリスマス」がすぐそこまで迫っていたことを……。



12月25日、街は一瞬にして血に染まった。



ガイアブレイカー』(通称「ガイア」)。



年末の魔物、満を持しての登場である。



本作はSTGであるが、プラットフォームはなんとWii U。つまりはKOTY史上初、第8世代機からの参戦だ。

スマートフォンから据置の最新機種へ、3倍の値上げとともに鳴り物入りで忠実移植を果たした本作……。

その尋常でない妖気は、公式DLページのレーティングで23人中23人が☆1をつけるという驚異的な記録からも窺える。



このゲームを一口に言えば、「インベーダーゲームの自機でプレイする弾幕STG」だ。

すなわち、左右方向にしか移動できない古典的なシステムで、武装は貧弱、

その上に、タブレット画面を利用したタッチ操作、手に汗握る敵弾の嵐といった、現代特有の要素が加味されている。

その結果、本作はどうなったか?

答えは容易に想像が付くだろう。

前後に動けないため、安全地帯を求めて画面端に追い詰められる自機を、横殴りの追尾レーザーが確実に狙い撃つ。

タッチ操作の便宜なのか、移動に微妙な慣性が働く自機では回避パターンもまともに構築させてもらえない。

「新しい酒は、古い革袋に盛ってはならない」……。

聖書の一節を聖なる夜に思い起こさせる、ありがたくも理不尽な運ゲーがそこに完成していた。



このように語っていくと、同じく「行き過ぎた難ゲー」であった携帯機KOTY 2010の『鬼帝 [外部リンク]』が思い起こされるだろう。

だが、本作の場合、制作者の「悪意」が取り沙汰された『鬼帝』とはまた毛色が違う。

というのも、本作のゲーム性はオンラインでプレイヤー同士の最高到達地点を競わせるという、いわば「生存競争」にあり、

言い換えれば、プレイヤーが「どこまで死なずに進めるか」という、一種の人体実験だ。

制作者はプレイヤーを殺そうとしているのではなく、モルモットが死ぬまで淡々と負荷を強めているだけなのである。

淘汰を進めるために、制作者は手段を選ばない。

アイテムやパワーアップ、ボム、コンティニューなどといった「甘え」の要素をバッサリと切り捨て。

加えて、ノイズ混じりのBGMに、原因不明のハングアップ、ステージクリア後のブラックアウトなど、

テレビの前のプレイヤーを直接攻撃するオプションサービスも盛り沢山である。

そして駄目押しとなるのが処理落ちだ。このゲームでは、ロードしても敵を倒しても弾幕が増えても画面が一瞬止まる。

限られた上級STGプレイヤーには、時間が止まって見える無我の境地(シューターズ・ハイ)が存在すると言うが、

まさかゲームの側から「止まった時の世界」の勝負を挑まれるとは、夢にも思わないだろう。



最後に、この壮大な駄作をやっとの思いで踏破しても、

一定のスコアを満たしていなければ、タイトル画面に戻るだけで終了する。

スタッフロールを拝むにはノーミスクリアレベルの修練を要求されるが、苦行の対価が戦犯リストでは到底割に合うまい。

ある熟練のプレイヤーは、クリア後、おもむろに公式DLページのレーティングに☆1をつけていたが、

敢えて言うならこれこそが真のEDと言えるだろう。



***



さて、これで本年の全てのノミネート作を紹介し終えた。



一族最強の男、『HFS』。

クソキャラゲーのまさにどん尻、『HIP』。

クソゲー地獄の黙示録、『エアコン』。

救世主のいない世紀末、『DD2』。

そして新機種からの彗星、『ガイア』。



以上の5作品の中から、大賞を発表しよう。

とりどりの陣営から、鈍色の個性を放つ戦士たちが集結した今回。

太陽は暗く、大地は海に沈み、煌めく星は天から落ちる。

煙と火は猛威をふるい、火焔は天を舐める。

全てを滅ぼす最終戦争を見事生き延び、炎の剣を空高く衝き上げたのは……



『ビビッドレッド・オペレーション -Hyper Intimate Power-』である。



本作は、他の候補には見られない特徴を有していた。

それは、長所になりえた点を数多く持ちながら、そのことごとくを捨て去った「悲劇性」である。

「4人の美少女戦隊によるド派手な空中バトル」を、主人公だけが延々と孤軍奮闘する謎の罰ゲームに改変。

せっかくCERO-Cを取得しているのに、原作最大の見所である「美少女たちが半裸を披露する変身・合体シーン」を削除。

お楽しみ要素のCG収集も、ランダムな上に総数すら不明の運ゲー仕様であり、賽の河原で石を積むがごとき苦行と化している。

原作ファン垂涎の特典が大量に付いた限定版が、9月で販売終了になっていることにも着目しておきたい。

そして最後に、『マヨ』の存在だ。

本来であれば本作への期待を高めてくれるはずの販促ソフトすらも、果てしない虚無への扉でしかなかったのである。

随所に可能性を感じさせながらも、その全てを脱ぎ捨て、クソゲーとなり果てていくそのさまは、

さながら、身を飾るヴェールを次々と脱ぎ捨てて破滅への舞を舞う、「サロメ」のごとくであった。



こうして『HIP』は原作ファンの期待を見事に裏切り、不名誉な賞に輝いてしまった。

だが、奇しくも戯曲「サロメ」の作者、オスカー・ワイルドはかつてこう言っている。

「話の種にされるよりも悪いことがたった一つだけある。それは、話の種にもならないことだ」、と。

その点で本作は、見事に大役を果たしたと言えよう。

美しくなりえたものが滅びへと向かっていく悲劇は、語り継ぐにじゅうぶん値するものであった。

わずか四半期でめまぐるしく輪廻する深夜アニメ作品の中で、

『HIP』という存在は、「ビビオペ」の生きた証をしっかと人々の記憶に刻み込んだのである。

見事大賞を勝ち取った『HIP』と、本作の発売元であるバンダイナムコゲームスに対して、最大限の拍手を贈りたい。



***



2013年はひとつの記念すべき年であった。

2ちゃんねるの片隅では人知れずKOTYが10周年を迎え、

一方で、ゲーム業界全体では、次世代機であるWii U・PS4・Xbox Oneの三国志が幕開けした。



ゲームのあり方そのものが激しくうつろうこの時勢に、変わることのないゲームの本質とは一体何だろう。



そんなことを考えるとき、クソゲーの存在は一つのヒントになるかもしれない。

その昔、ゲームの表現力は稚拙だった。

ひらがなだらけのテキストに、絵の具で塗りつぶしたような画面。

美しいパッケージに惹かれ、似ても似つかない画面上のキャラクターに落胆した記憶は誰にでもあるだろう。

だが、そんな中でもプレイヤーは、懸命に楽しんでいた。

足りない分を想像力で補い、自分なりに遊び方を作り上げ、ゲームの限界を超克していたのだ。

そして、ゲームがじゅうぶんな表現力を得た今でも、その本質は変わらないはずだ。

クソゲーハンターは現代でも、クソゲーを徹底的にプレイし、何が何でも楽しもうとしているのだから。

プレイヤーが頑張れば、ゲームはきっと輝ける。

これからも、つまらないゲーム、不出来なゲーム、失望させるゲームが世に出ることはままあるだろう。

そんなゲームに対しても、評判や醜聞だけをあげつらうことなく、

いつまでも、真摯に向き合える我々でありたい。



***



クソゲーオブザイヤーというスレッドがある。

今日もまた、どうしようもない仲間たちが、どこからともなくここに集う。

みんなの恨みを微笑みに、みんなの怒りを喜びに……。

クソゲーと名も無き勇者たちの戦いは永遠に終わらない。

新たな冒険の日々に熱く思いを馳せながら、この言葉で総評の筆を措こう。



「でもバンナムさん、おたくのクソゲーはもうこれでファイナルオペレーションにして下さい!」