2007年の「四八ショック」、2008年の「七英雄」……
神話の時代に遡ったかのような大災厄を立て続けに受けたKOTY(クソゲーオブザイヤー)スレを2009年に待っていたのは
「修羅の国」と呼ばれるエロゲー業界から来た黒船『戦極姫』による身の毛もよだつ侵掠であった。
苦行と称されるゲーム性、尽きることのないバグの嵐、残虐非道なメーカー対応……
終わりのない苦しみや絶望という暗黒面において、前年王者もまた最強の名に相応しい猛者であったと言えよう。
「クソゲーなんて1本も出ないのが一番良い」
とある勇者が遺したこの言葉を、これほど実感させるゲームはかつて無かったかも知れない。
しかし、そんな平穏を祈る思いは早くも打ち砕かれることとなる。
総評完成からわずか2日後の1月28日、突如吹き荒れた季節外れの熱風がKOTYの門を破ったのである。
日本一ソフトウェア渾身のPS3専用RPG『ラストリベリオン』(通称「スベリオン」)。
直訳で「最後の反逆」というタイトルに恥じない果敢なチャレンジ精神は、一部のマニアに絶賛された。
まず戦闘面であるが、HPの成長はレベルが上がるごとに前代未聞の指数関数曲線を描き、
物理攻撃にいたっては「レベルを3上げたらダメージが3倍になる」というサイヤ人仕様。
むろん、このインフレの前では、メーカーが謳う斬新な戦闘システムや
「火、氷、風、(中略)、銀、銅、アダマン」等の多彩(過ぎて理解不能)な属性魔法も全く意味をなさない。
雑魚敵からラスボス、裏ボスにいたるまで装備や魔法で工夫する余地はほとんど存在せず、
攻略スレではどんな質問も「レベルを上げて物理で殴れ」の一言で解決する異常事態となった。
かつて物理学者アインシュタインは「物事は全て、出来る限り単純にすべきだ」という言葉を残したが、
【 レベルを上げて物理で殴ればいい 】の一言に集約されるこのゲームの戦闘はまさに真理を体現していると言えよう。
他方、戦闘以外の面でも前衛的な試みが随所に散りばめられている。
手始めに、フィールド上では敵シンボルから超高速でどこまでも追いかけられ、
どう見ても2キャラ分は離れた状態から、初代スト2版ザンギエフ並の理不尽な吸い込みによって強制的に戦闘に突入する。
画面右上に表示されたミニマップは高低差も地名もほとんど読み取れず、冒険の手探り感をたくみに演出している。
参考までに、本作の平均クリア時間はRPGとしては異例に短い13時間ほどだが、このうち3時間は迷子になる前提である。
会話場面はフル音声であるが、なぜか全編英語であり、日本語化対応は字幕のみ。
紙芝居のごとく動かないイラストに乗せて、リスニング教材さながらの三文芝居を延々と聞かされる。
BGMが蚊の鳴くような極小音量に設定されているのも、「学習に集中できるように」という温かい心配りであろう。
肝心のシナリオはと言うと、「登場人物をどう数えても10人前後にしかならない」という驚異的なスケールの小ささが光る。
何やら国家存亡の危機が起きていることが何度も説明されているが、町内会にも満たない人数では何の説得力もなく、
そもそもゲーム中には「国」はおろか、普通の人間が生活している痕跡が何一つ描写されていない。
話の根幹が全く練られていない一方で裏設定と思しき固有名詞は異常に多く、中学生の黒歴史ノートとよく似た臭いが漂っている。
なお、全編英語にした甲斐もなく、海外大手レビューサイトでは「存在する必要がまるでない」とバッサリ切り捨てられており、
日本一ソフトウェア米国法人の社長から、「発売してしまって本当に申し訳ない」という衝撃的な発言が飛び出す一幕もあった。
反逆の行方はあえなく玉砕と相成ったと見るべきだろう。
4月末、爽やかな初夏の香りとともに一枚の若葉が舞い込んできた。
PS2ソフト『ラブルートゼロ KissKiss☆ラビリンス』(通称「√」)。
本作は「異世界に飛ばされた女子高生が、脱出するまでの約1ヶ月を8人の美男子と協力して過ごす」という
いわゆる「乙女ゲー」であり、同ジャンルとしてはKOTY史上初めてのノミネートとなる。
完成前から「見えている地雷」と評されながらも、計13ヶ月・5度の延期を経て花開いたその晴れ姿は、
2008年上半期にKOTYスレを震え上がらせた女傑『大奥記』を彷彿とさせるものがあった。
今をときめく杉田智和氏、神谷浩史氏、中村悠一氏らをCVに迎え、鳴り物入りで発売した本作であるが、
購入者から即座に「長所は声優が豪華なことだけ」とまで断言されたそのクォリティは尋常ではない。
一例を挙げると、本作のプレイ時間の大半を占めるRPGパートでは、敵がたった1種類の「ゼロ」という黒蛇しか登場しない。
ダメージ表現さえ実装せず、たった1枚の静止画で押し通す倹約ぶりには潔さすら感じられる。
キャラによってはアイテム未装備の初期状態でも900以上のダメージを出したり(上限は999)、
状態異常の「麻痺」をくらうと治癒⇔麻痺の無限ループに陥るなど、世紀末的な戦闘バランスも哀愁を誘う。
連打作業でしかないRPGパートを超えた先に待っているのはさらなる地獄である。
本作は同名の携帯コミックが原作であるが、ゲーム化に際して元のストーリーの根幹部を大胆に削っており、
そのしわ寄せとして、登場人物の一人である物理教師・西岡輝政がジェバンニも真っ青なご都合キャラと化している。
何をどう計算したのか分からない「数式」を用いて異世界脱出のための手筈を一人で整え、
物語最後では「誰かが犠牲にならなければいけない」はずの世界存亡の危機を謎の「薬品」であっさり解決する超人ぶりには
スベリオンの一件と合わせて「物理」とは一体何であるのかという根源的な疑問を抱かされる。
また、恋愛AVGと言えばCGやイベントをいかに効率よくコンプリートするかが攻略の肝となるが、
本作の場合は全ての通常イベントの発生条件がランダムであるため、ひたすらセーブ&ロードする以外の攻略法が存在しない。
前述の豪華キャストの演技は秀逸だが、各キャラルートの会話イベントはたった5回しかなく、
一部のキャラにいたっては音量調整ミスで声がほとんど聞こえないため、声優ファンすら匙を投げている。
開発元のディンプルは本作の発売からわずか3ヶ月後に廃業、原作を描いた漫画家は本作の惨状について陳謝しており、
「このゲームが世に出ることで一体誰が得をしたのだろうか」と考え始めると落涙を禁じえない。
こうして、2010年のノミネート基準を決める二本の「門番」が出揃ったKOTYスレに再び緊張が走ったのは6月末。
大荒れの海から見覚えのある大きな影がやってくるのをスレ住人は見逃さなかった。
システムソフトアルファーの『戦極姫2〜葉隠の乙女、風雲に乗ず〜』(通称「姫2」)。
前年王者『戦極姫』がエロゲーに移植されたのち、わずか三ヶ月足らずでXbox360への再移植を果たしたのである。
一縷の希望とともに検証が行われたが、残念ながら前回猛威を振るったバグは今回も健在であった。
前回同様お金やコマンド実行ポイントは0を下回るといきなりMAXになり、特定の操作をすると100%フリーズ。
悪名高い「ブラックホール城」の再現性はやや低くなったが、その代わりに
武将との会話画面に謎の白枠が出現するようになり、『四八(仮)』の悪夢をフラッシュバックさせる。
その他、もっさりしたUIと敵側AIの長考は次世代機の処理速度を全く感じさせず、一周の所要時間は優に200時間を超える。
数多の有料デバッガー達の尊い犠牲のもと、前年見せた圧倒的な破壊力は鳴りをひそめていたものの、
選評者をして「これでまだ前作よりマシって前作はどんだけ酷かったんだよ!!」とまで言わしめたのはさすがの貫禄と言うべきか。
11月。『姫2』に遅れること半年、数奇な縁を思わせる訪問者がKOTYの門を叩いた。
Wiiソフト『人生ゲーム ハッピーファミリー』(以下「人生2」)、
2009年KOTYで惜しくも『姫』に敗れたあの「ゲー無」の後継者である。
前年の『人生』はパッケージ版から機能を削り過ぎたことが問題となったが、
この『人生2』では逆に、「6000円のフルプライス版であるにも関わらず
約1000円で先行販売された機能制限版とあまりにも差がない」ことで一躍注目を浴びた。
主人公は名前固定の10人のキャラから選ばせ、NPCと子どもはそのパーツを流用してオカマやクローンを量産。
前作に引き続きマップは全1種類で、「職業」「恋愛」要素は大幅に縮小、
「ミニゲーム」「カード」「学校」に到っては削除するなど、旧世代機種で出来ていたことを徹底的に排除。
シリーズお馴染みの「天使」すら躊躇なくリストラする姿勢は「手間を省きたい」という強い意志を感じさせる。
使えて当然のMii機能すら隠し要素にする辺り、もはや末期感が漂っていると言えるだろう。
二週目プレイ前提のゲームバランスにする一方、イベント数は極限まで減らされ、一周目からネタ切れを起こす。
新たに実装された「家族システム」も、単調な毎日の繰り返しによって育児ノイローゼを体験できる親切仕様である。
ともあれ、3年連続でノミネートを続ける古豪タカラトミーが2010年も危なげなく名を連ねることとなった。
さて、以上4つのノミネート作品を紹介し終えたところで大賞の発表に移ろう。
2010年。00年代を終えた、この節目の年に見事KOTYを勝ち取ったゲーム……
それは、『ラストリベリオン』である。
本作は「一つも褒めるところがない」という、KOTY史上でも類を見ない特質を持っており、これが受賞の決定打となった。
例えば『√』の場合、前述の通り「長所は声優が豪華なことだけ」であるが、これも一つの長所には変わりない。
また、CGについても、塗りはさておき線画は原作者による描き下ろしであり、原作ファンにとって一応は評価できる点であろう。
それに対して『スベリオン』は、一流アーティスト達の制作協力がゲームの内容に全く活かされていない。
キャラグラフィックは小林智美女史や美樹本晴彦氏らが寄稿したイラストとは似ても似つかないヒラメ顔のローポリであり、
お通夜会場のように静まり返った場面で影山ヒロノブ氏提供のアツい主題歌が突如鳴り響く有様である。
誰もが羨む高級素材を手にしながら、調理一つで全て台無しにした手腕には感服せざるを得ない。
なお、開発会社の「ヒットメーカー」は『ドラグナーズアリア』で2007年携帯機部門KOTYにもノミネートを果たしており、
今回の受賞により、クソゲー界の「安打製造機」として社名に恥じない地位を確立したと言えるだろう。
そして、2008年の『奈落』、2009年の『ヒッチ』と、優秀な「門番」を立て続けに輩出しながらもタイトルに恵まれず、
三度目の正直で文字通り日本一の栄冠を手にした「日本一ソフトウェア」には最大級の賛辞を贈りたい。
2010年のKOTYにはいわゆる「年末の魔物」は現れなかった。
冒頭にも書いたようにクソゲーが減ること自体は、もちろんゲーム愛好家として素直に喜ぶべきことである。
しかしながらその背景には、据え置き機ゲームの開発費が高騰し、各メーカーが冒険を控えているという事情があり、
「玉石混淆」の賑わいが失われつつあることに一抹の淋しさを感じずにはいられない。
敢えて言うならばクソゲーはゲーム業界全体の持つ活力の、一つのバロメーターでは無かっただろうか。
そんな中、バグに頼らない堅実なクソさと全力のスベりっぷりで門番としての存在感を持ち続けた『スベリオン』と、
それまで遠い異国のような存在でしかなかった「女性向けゲーム」の脅威を知らしめた『√』は
2010年の年間を通じてKOTYスレを盛り上げた功労者であると言えよう。
最後に、大賞を受賞した『スベリオン』の販売元である「日本一ソフトウェア」と開発元の「ヒットメーカー」に向けて、
スレ住人一同から次回作へのエールを送ることで2010年KOTYの結びと代えたい。
──例えこの先どんな困難が待ち受けていようとも、
あるいは、先の見えない苦境に立たされようとも、
それを打開するための答えは、ただ一つ。
「レ ベ ル を 上 げ て 物 理 で 殴 れ ば い い」