このページは、2021年度KOTY総評の案を集めるページです。総評の審議に役立てば幸いです。
2020年、KOTYの試練を突破し覇者となった『ファイナルソード』は、
クソと表裏一体の取り柄を持つ独特のスタンスが人々を惹き付けた。
無が跋扈する「苦難の新時代」において一種の清涼剤とでも評せる彼の者には、
2021年末の「RTA in Japan」内で、続編が約束されていると明らかになったことも記憶に新しい。
未だ見ぬ冒険者が、我々とは無縁の世界へと誘われんことを心から願ってやまない。
それはさておき、2021年のKOTYも粛々と、同時に一抹の不安を抱えながら幕が上がった。
ややあって、昨年の総評が示唆したクソゲー界隈の魑魅魍魎ぶりをスレ住人は垣間見る。
我らの信念は、どこまで通用するのか…その真価が問われる1年だったと言えよう。
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2021年2月。全国的に暖冬傾向となった日本の一角で、
強烈な悪寒に襲われ、震えていたスレ住人の姿があった。
海外インディーズ作品の渡来、そして戦塵の焔。
近年においてはさほど珍しくもない光景が、三度繰り返されようとしていた。
祈り虚しく、二月足らずで弾が飛び交う激戦区へと変貌を遂げたスレに対し、
我々は頭を抱えるほかに為す術が無かったのである。
2月5日、ドイツから飛来せし稲妻の轟音。それは長きに渡る戦歌の序曲であった。
『Pacific Wings』(通称「パシフィック」)は、1942年のミッドウェイ海戦を舞台に、
並み居る旧日本軍機を撃墜すべく、米軍戦闘機P-38を操るレトロ調シューティングゲームだ。
題材からして往年の名作『1942』を思い起こさせるが、
手本としたのは機体のパクったガワだけ、としか言い表せない安直さが制空権を握っていた。
本作の基本操作は、移動とショット。以上である。
時たま取得するパワーアップは4段階のショット強化を施した後、
残機代わりのライフが淡々と増えていくだけ。
かつて簡単に撃墜できる「ペロハチ」と呼ばれた屈辱をよほど根に持っているのか、
敵機は皆、何の工夫も要することなく、
数発当てれば呆気無く倒せる文字通りの雑魚にまで落ちぶれている。
ボスが一機たりとも現れず、一切のボーナスも与えられない全20ステージで、
パイロット達の手元に残るは天下無双の勲章とは程遠い、ただただ戦争の虚しさばかりとなろう。
「パシフィック」の犯した過ちは、古き良き時代の意味を履き違えていることだ。
「レトロ調」は決して、本作のおざなり具合や冒涜に対する免罪符たり得ないのである。
アドリブ性の欠片もないBボタン連打一択のゲームシステム、延々と流れるBGM2種、
海と島だけのループ背景になけなしの555円を払うぐらいならば、
本作の2週間後に配信された基本無料ソフト『カプコンアーケードスタジアム』に収録された、
『1943 ミッドウェイ海戦』をプレイする方が余程有意義ではあるまいか。
かくして双胴の悪魔は、極東の地の軍法会議に掛けられる運びとなったが、
2月中旬、その独演に異議を唱えるかのごとく、一発の銀弾(シルバーブレッド)が楔を打ち込む。
『パチ・パチ!ON・A・ROLL』(通称「オナロール」)が、スペインから鳴り物入りで登場したのだ。
パチンコを融合させたピンボールと、美女の脱衣要素が売りの本作は、
遊ぼうと思い立った理由すら見失わせる、「単調かつイライラする」出来栄えである。
ゲーム面においては、一度玉を打ちだしたらどこかの穴に入るまで次の玉を打てず、
ボーナスが入ると操作不可の演出が30秒近く挟まれるなど非常にテンポが悪い。
その玉数を稼ぐには、非常に強く運が絡むパチンコを基軸としながら、
酷いものだと「動き回る的に一定回数玉を当てる」といった、
闇夜に針の穴を通すようなミッションに挑まなくてはならない。
そんなクソの相乗効果に耐え忍んででも、「下着止まり」であったとしても、
プレイヤー達は脱衣要素に一縷の望みを託すだろう。
だがその実態は、キャラが何の動作を挟むこともなく、
少し喘いで1枚ずつ地味にひん剥かれるだけの味気なさ。
華麗なるプロの泥棒らしい彼女らが何故、カジノを飛び出して西部劇・宇宙・
中世ファンタジーの世界にて痴態を晒すに至ったのかは謎のままであり、
最後まで「背景でクネクネしてる巨乳」というオブジェクトでしかない。
ここまで記せば、吐き出す暇を与えないどころか、逆にストレスを溜めさせる本作であっても、
なるほど確かに人は「賢者」の境地に達することができる、と分かる。
"ON・A・ROLL"(好調)とエールを送るタイトルとは真逆の、
パチンコで盛大に擦ったかのような面持ち"(・A・)"で、画面を見つめ続ける──
その成れの果てで構わなければ、の話だが。
「パシフィック」と「オナロール」による無為な撃ち合いが開始してから約1ヶ月後、
「銃なんか捨ててかかって来い」と言わんばかりのアメリカンな漢が上陸した。
2021年のニンテンドーeショップにて、実に55ものタイトルを販売した新進気鋭のインディーズ、
「Pix Arts」が贈る対戦格闘ゲーム『Urban Street Fighting』(通称「アーバン」)。
発売前より不穏なムードが漂う中迎えられた本作、もといメーカーの厚顔無恥は、
以前より警戒されていた、据置ゲーム業界の粗製濫造の再来を象徴するものとなった。
微妙な造形の6人の戦士達の内、3人は外見以外何一つステータスが差別化されておらず、
2人は何故か一方が他方の完全下位互換キャラなので、使用できるキャラは事実上3人。
30年の歴史を持つ格ゲーの最新作とはとても思えない、
「操作説明がない」「トレーニングモードがない」
「仕方がないのでPVPで疑似トレーニングしようにも、
コントローラ1台では1Pと2Pの動きが連動して練習にならない」
「中断機能が付いていない」と無い無い尽くしの「アーバン」の惨状を見て、
どうしてこうなってしまったのかと訝しむのも無理はない。
そこで、昨今問題視されている「アセットフリップ」の単語を挙げておこう。
すなわちKOTY2017にて物議を醸した『SHOOT THE BALL』と同種の問題点を、
「アーバン」も抱えている前提であれば…先の疑問に対し、嫌になるほど筋が通って来る。
Unity向け格闘ゲーム制作ツールである「Universal Fighting Engine」、
そのテスト用サンプルゲームやアセット類を本作は流用しているのだから、
モーションもコマンドも全くの同一であるコンパチキャラや劣化キャラの存在、
崩壊した対戦バランス、モードや機能の未実装といった不可解な欠陥…
それら全てが、ひとえに開発者の手抜きに起因すると容易に想像できてしまうのである。
恐らく開発者が直接手を付けたであろう数少ない箇所であるステージ背景の一部も、
何故か手前に設置されたオブジェクトで操作キャラが目視できなくなる問題があり、
とどのつまり、素直に褒められる箇所は皆無に等しい。
だが、本作で示した懸念点は何も本作単体に留まらないのだ。
思い出して欲しい…Pix Artsが、この1年間でリリースしたゲーム本数を。
ようやく弾一辺倒の時代を拳で止めたかと思えば、
「あれは嘘だ」と、今度はPix Arts単独によるババカン砲の恐怖が押し寄せていた。
ここに来てはじめて、スレ住人は事の重大さを認識し立ち上がる。
「このまま蹂躙される様を傍観しているだけでいいのか?」
議論の末、KOTY2021は「アーバン」を最後にインディーゲーの選考対象からIARCを外し、
CEROの審査を受けたゲームに限定するという暫定措置がとられる事態にまで発展したのである。
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功を奏したと言えるか、異邦からの来襲者が一旦鳴りを潜める。
しばしの間、我々は己の手で勝ち取りし平和のありがたさを噛み締めることとなった。
しかし所詮はKOTYスレ。波乱を渇望する界隈の「ナギ節」が、永遠の名を冠することはない。
それは、12月に入って間もなくのこと。
厳格化された選考基準のディフェンスを擦り抜け、どこからか飛んできたボレーシュート。
我々はこの、脳天直撃の突き刺さるような痛みを知っている。否、忘れようにも忘れられない。
令和のファンタジスタが、2年の雌伏の時を経て華々しくスレへと凱旋を果たしたのだ。
10月7日発売の『Super Arcade Soccer 2021』(通称「蹴球2021」)は、
KOTY2019次点の『スーパー アーケード サッカー』の続編の名に恥じることなく、
恥をかなぐり捨てたパフォーマンスを次から次へと披露し、
下から数えてトップストライカーの健在ぶりを証明してみせた。
新要素を引っ提げてもなお、「蹴球2021」のサッカーゲームとしての完成度は低い。
相変わらずルールブックを読み込まずに思い付きで判定を取るどころか、
カードという新しい玩具を手にしたことにより試合を更なる混沌の渦に叩き込む審判。
浮き球のセンタリングに尽く対応できないキーパー、
敵味方問わず点を取りに行く・阻止する気概が感じられないポンコツCPU。
新たに追加されたヘディング・スティールは使い勝手が非常に悪く、
結局はボールを奪取せんと退場覚悟のスライディングが横行する世紀末の紳士協定。
前作から改善の跡が見られない操作性もあいまって、
積極的なパス展開よりも孤高のドリブルが勝利の最適解と化す。
まさに「ボール(だけ)はともだち」の状況下で、
ポーズ画面からの復帰時に勢い余って敵に塩を送りかねないヒールキックをかまし、
プレイヤー自身にすら不信を抱くシーンが見受けられる一方、
物理法則無視・透明人間化といった超次元PK戦が繰り広げられるなど、
フィールド上の悲喜こもごもこそがサッカーの醍醐味であると改めて知らしめてくれる。
もじりではあるが、実在チームや選手の再現ステータスを多数実装したことは、
「蹴球2021」の順当進化たる数少ない評価点と言える。
しかしながら、肝心のサッカー要素が依然として劣悪な本作に、
前作より100円高の800円を投じる価値があるかと聞かれれば、
購入後に「メーカーの"sucker(いいカモ)"にされた」と嘆くことになるのが関の山だと、
生暖かく返答するとしておこう。
静寂を打ち破るホイッスルの残響に呼応するかのように、スレ住人の胸中はざわついていた。
やがて来るであろう、罪深き「年末の魔物」に備えなくては……。
だが、予感は意外な形で覆される。
KOTYの門を叩く、最後の来訪者…その名は『バランワンダーワールド』(通称「バラン」)。
発売日は2021年3月26日。発売程なくしてスレ内で話題になるも選評作成は難航を極め、
話題作入りするまで実に11か月ものブランクを生じさせた強者だ。
『ソニック』シリーズの生みの親による新作アクションゲームは、
何故KOTY2021の「日本代表」として祀り上げられることになったのだろうか?
本作の基本動作は、移動と「衣装」に紐付けられた固有アクションとの2つに集約されており、
各ステージに散りばめられた様々な衣装を身に纏いながら冒険していく作りとなっている。
このシンプルな操作の弊害は、戦闘系の衣装に着替えた途端に理解できよう。
何と言っても、アクションゲームの要たるジャンプ操作が一切できなくなるのだから。
あらゆる変身能力を使いこなす『マリオ』でさえ足腰が貧弱になりはしないのに、
何の変哲もない段差を、約2秒間のアニメーションを挟んで乗り越える「バラン」は、
いくら舞台ミュージカルを題材にしているとは言え、些か大仰に過ぎる。
衣装システムの七面倒臭さは、その収集行程にも顕れている。
ステージに置かれた鍵を予め拾わなければ入手できず、ひとところに持てる上限はたったの3着。
ダメージにより失えば、元あった場所まで取りに戻らなくてはならない。
用意された衣装は80種類以上と無駄に多いが、実際問題、差別化が薄く無駄が多い。
ボス戦と局所的なギミックの解除以外では、移動系の衣装を着続けていれば十分であり、
道中の敵はジャンプ攻撃で倒せる上、倒し続けると難易度が上昇するためそもそも倒さない方が楽。
クローゼットの片隅で黴をこびり付かせるぐらいなら、断捨離を覚えることが肝要だ。
全12章のゲームを進めるには、3回心臓に攻撃を当てて倒すだけのボス戦を突破するだけでなく、
各ステージに隠された「バランスタチュー」を一定数集める『マリオ64』方式を採用している。
結果的に無駄な往復、無駄な探索、クソつまらない上に無駄にシビアなQTEを繰り返す中、
断片的に語られるエピソードはどれもこれも「起」と「結」しか窺えず、
劇中のキャラクター達と同様、呆然と眺めているこちらまで負の感情に苛まれそうになる。
エンディングに添えられた「どんな時間も、無駄ではなかった」のメッセージは、
壮大な茶番劇に付き合わされたプレイヤーへの、精一杯のフォローであると信じるほかはないだろう。
「衣装を纏っていたと思ったら、ストレスが纏わりついていた」…
幾人もの失踪者を生んだ「バラン」の底知れぬ実力に感服すると同時に、
己が信念のもと果敢に挑み、ズタボロになりながらも帰還を遂げた一人の戦士へ、
我々は「テネレスケ(Tnellecxe)!!」と、惜しみない称讃を送りたい。
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さて、2021年を彩る役者達が一堂に会したところで、大賞の発表に移ろう。
ふと気づけば遥か遠くまで瓦礫の海に埋もれ、不毛の地と成り果てたKOTYスレ。
それは決して、暗澹たる絶望に追い込まれたことを意味するものではない。
残された汚穢が痩せ細った大地を肥やし、数多の落涙が潤いを与え、
新時代の黎明を告げる緑の芽吹きを促すことを、我々は知っているからだ。
その導き手となる者が、ただ一人であるということも。
すなわち、新たなるKOTYの王者──
「バランワンダーワールド」こそが、その座にふさわしい。
本年も「無」が話題作入りの条件となるきらいがあった中で、
唯一の非インディーズ・フルプライス・国産ゲーと、図らずも異色の生立ちである「バラン」には、
至らぬところこそ多いものの、それ相応の「有」が認められる。
何より「ワンダーワールド」に、あからさまな手抜きの類は無い。
雰囲気と調和したビジュアルやBGMが他の候補作よりも秀でていることはもちろん、
槍玉に挙げられやすい、ボリューム面やバグ・不具合の致命的な欠点も見受けられない。
本来ならば大賞争いで不利に働くであろう要素を多く擁していながら、勝利の女神が微笑んだ所以。
それは「バラン」が同じく「有」していた、逃れようのない「無」数のストレスにある。
『ソニック』『ナイツ』の系譜ともとれる操作体系や、特色ある衣装システムといった、
本作の目指したエンターテインメントのアプローチに根差す問題点は、枝葉末節に及ぶ。
キャンセルボタンをも取っ払ったUI、時間と労力に見合わないミニゲーム、
何度も繊維喪失を誘発させる気の回らないカメラワーク、etc…。
数に物を言わせたストレスの軍勢が途中で是正されるはずもなく、
他方、遊ぼうと思えば最後まで遊べてしまう、なまじ丁寧な作りであることが、
プレイヤーを更なる深淵へと引き摺り込ませることに加担している点も興味深い。
いつしか迎える「ワンダーワールド」の舌足らずなハッピーエンドとは裏腹に、
プレイヤーにとっての喜劇は、このゲームからようやく解放されることであり、
このゲームの終わりを見届けてしまったことが悲劇である、と言えるかもしれない。
いずれにせよ「感情を共有できないクソゲー」という本作の簡潔にして救いのない結末は、
奇しくも前年の大賞『ファイナルソード』とは対照的である。
まるで端からボタンを掛け違えたように、それぞれの要素が空回りし、
誰もが次々に閉口する不格好さへと仕上がった「バラン」は、
最も「有」を具えた者に許される、破滅的かつ究極の芸当をありありと魅せてくれた。
以上より、近年稀に見るストロングスタイル一筋の質実剛健ぶりで高い評価を得た本作に対し、
我々は本年の大賞とすることで全てを昇華させ、大団円を迎えるものとする。
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2021年は「劇的」の二文字がよく似合う顛末を描いていた。
例年スレを大きく震撼させる「年末の魔物」は終ぞ現れなかったが、
それに勝るとも劣らない「年度末の魔物」が全てを掻っ攫う形となった。
クソゲーは異にして味なもの…これだから語らいは止められない。
そんな我々の姿は、傍から見ればさぞかし卦体であると思われていよう。
一体何が、ここまで彼らを駆り立てるのか。
クソゲーにわざわざ時間を浪費せずとも、もっと「楽しい」ゲームは沢山あるのに…と。
共感は求めまい。しかし、これだけは理解していただきたいと願う。
我々がクソゲーと向き合うのは、禍罪の子に憐憫を垂れる責務のようなおこがましさでなければ、
ましてや羨望の的となる権威でも、独りよがりの承認欲求のためでもない。
あえて言うならば「執念」──
憎悪や無念の感情にも曇らされない、純粋なるただ一つの想いこそが原動力である。
たとえブラックホールへ無慈悲に突き落とされようが、
あるいは虚無の砂漠を尽未来際さまようことになろうが、
飽くなき執着心はクソゲーと渡り合う強さに変わり、遂にはそこから一かけらの黄金を掬い上げる。
それは偏屈な者達に与えられる、取り留めのない、しかし掛け替えのない幸運なのだ。
単にゲームに触れるのとは似て非なる「愉しみ」を忘れぬ限り、探求の旅は今後も続いていくだろう。
だがひとまずは、大賞に輝いた「バランワンダーワールド」のメッセージにあやかり、
KOTY2021を締め括りたい。
「どんなゲームも、無駄ではなかった」