2015年 総評
2015年 次点

総評案1 (アジト×タツノコレジェンズ)

(3/5 15時修正)
(3/5 23時50分修正:軽微な誤字など)
(3/25 2時修正:軽微な修正)

2014年のKOTY(クソゲーオブザイヤー)は、
二大巨頭の睨み合いに割って入ったヒーローが、劇的な勝利を収めた。
『仮面ライダー サモンライド!』……。
歴代ノミネート作の魂を宿し、見るものを魅了する稀代の「劇場型クソゲー」であった。

そして、そんなヒーローの姿にかつての強敵(とも)たちの面影を見出しながら、
我々は、かつて思い悩んだ自らの在り方について確かな答えを得ていた。

誰よりもクソゲーのことを深く知ろうとする我々だからこそ、
誰よりもクソゲーのことを愛することができる。
クソゲーを語ることは、間違っていなかったのだ、と。

高騰する開発費、日々減るゲームの発売本数……。
この獣道がどこかで途絶えぬ保障など、何もない。
それでももう、立ち止まることはないだろう。
まだ見ぬ不幸の徒花を探して、我々は2015年の旅に出た。

***

2015年、最初に発見されたクソゲーは、あまりにも「意外」であった。

PS4/Xbox One用ダウンロードソフト、『テトリスアルティメット』(通称「テトアル」)。

本作の情報がスレに飛び込んできたとき、誰もが耳を疑った。
というのも、あの「テトリス」。
公式に定められた仕様が存在しており、本来的にクソゲーになりようがないジャンルである。
だが、「百聞は一プレイに如かず」。
最初にオンライン周りで、次いで一人プレイでの検証を進めた結果、スレで出された結論は、
「本作はテトリスではなく突き抜けた何か、いわば、『テトリヌ』である」というものであった。

まずは一人プレイでの特徴を見ていこう。

本作が壇上に上がった第一の要因は、その【究極すぎる難度】にある。
一般的に、テトリスは、プレイし続けると徐々にゲームスピードが速くなるものだ。
だが、本作の場合、あまりにも速くなりすぎて光の速度を超えてしまうのか、
時折、≪時間が飛ぶ≫という怪現象が起きる。
ラインを消去したと思ったら、次のブロックが下に着いていた……。
ブロックを置いたと思ったら、いつの間にか、次のブロックも同時に置かれていた……。
何を言っているかわからないかもしれないが、誤解や錯覚では断じてない。
秒間60コマの録画でビデオ判定された結果、これらのバグが起きている決定的瞬間が確認されたのである。
これまでにも高難度のテトリスは存在した。
テトリスという単純なゲームを難しくするためにメーカーは工夫を凝らし、プレイヤーもそれに真摯に応じてきた。
だが本作のように、プレイヤーが頑張れば頑張るほどゲームの動作が怪しくなり、
バグによって半強制的にゲームオーバーに追いやられるという超難度には、誰も納得しないだろう。

【ユニークな演出】もまた味わい深い。
グラフィックについては次世代機らしさを意識したのか、ラインを揃えると光輝く壮大なエフェクトが付く。
あまりに壮大過ぎて光の海が消えない中、待ち切れずに次のブロックがボチャンと飛び込んでいく様子は鬱陶しいことこの上ない。
サウンドに関しても独自路線をとっている。
BGMはテトリス定番のロシア民謡のアレンジだが、モードごとに完全固定で、ゲーム全体を通しても全3曲。
悲壮感漂うアレンジと、「ドクン、ドクン……」と不安を煽り立てる迫真のSEとが相まって、
まるでテトリスに誰か殺されたかのような異様な雰囲気を醸し出している。

問題点はまだまだ積み上がる。
続いて、【カオスなコンピュータ対戦】について説明しよう。
本作では強さ別の4種類のAIと対戦できるが、そこでプレイヤーは異様な光景を目にすることになる。
一つは、セミのようにやかましく儚い、最強AIの存在だ。
試合開始から高橋名人の全盛期を軽く超える秒間20連打で猛然と積みはじめ、
けたたましい操作音を立てながらひとりでに自爆していくその姿に誰もが圧倒されることだろう。
そしてもう一つ、プレイヤーを唖然とさせる点が、
対戦テトリス史上初と思われる≪試合放棄≫現象である。
接待プレイでも実装したつもりなのか、本作のAIは、対戦中にいきなり勝負を投げ出してしまうことがある。
糸が切れたようにぷっつりと操作をやめ、ただじっと自殺を待つ光景は、見る者に強烈な印象を与えるものになっている。

以上の通り、一人でプレイしてもアルティメットすぎる本作であるが、
信じがたいことに、多人数でプレイすることでさらなるアルティメットぶりを見せつける。
以下、【史上最低クォリティのオンラインモード】について述べよう。

プレイヤーはまず、各種ランキングが盛大にバグっていることに嫌な予感を抱くことだろう。
40ライン揃えるまでのタイムアタックを0秒や1秒でクリアした、といった不正なスコアが上位に鎮座している。
そして、オンライン対戦を有効にすることでその予感は的中する。
まず、国内Xbox One版ではそもそも試合開始にこぎつけることすらできず、
「対戦開始まであと23時間待て」といった衝撃的な指示が画面に表示される。
一方、PS4版では多少プレイ人口が多いのか、繋がるには繋がるのだが、
そこに待っていたのはまた地獄……いや、地獄のそのまた最下層にあるコキュートスそのものであった。
その光景を克明に描き出した事件があるので、一部始終を紹介しよう。

それは2015年7月13日、「ニコニコ生放送」にて、本作の販売元メーカー公式チャンネルにて起こった。
何を血迷ったのか、オンラインバグ未修正の本作のプロモーションを、
メーカー自ら、全世界同時中継で配信してしまったのだ。
司会進行役のお笑い芸人、メーカーの女性スタッフ、そして対戦テトリス名人の3人で行われた本番組……。
のちに語り草となる、≪クソゲー公式生実況≫である。

冒頭15分、どう見ても相手側のテトリスが上端まで積み上がっているのに死なない「ゾンビ」現象が起きる。
見てはいけない光景を前に凍り付く三人。

「違うんですこれ! これ違うんです……違うんです……! 一戦目でぇぇぇ……!」

そんな女性スタッフの悲鳴をよそに、その後も仕切り直しのたびにゾンビ現象が発生し、淡々と死体蹴りが行われる。

「勝ったんですけど、ずっとできるんですね……あっ、ウィニングランみたいな」

そうこうしているうちに異常な光景にも徐々に慣れ始めた三人であったが、
次はブロックの挙動が異臭を放ち始める。
消えたはずのラインが高速で明滅し、ネオン広告のごとく強烈な存在感を放ち続ける「エレクトリカルパレード」や、
消えたはずのラインが「消えたかな? いや、どうかな?」とでも言いたげに消滅と復活を高速で繰り返す「踏み台昇降」が発生。
そんな中、今度はゾンビ現象とは逆に、相手側がまだ積み上がっていないのにいきなり決着してしまう。

一同しばし絶句の後、起死回生のフォロー。

「セコンドの方、タオル投げましたかね……?」

対戦テトリスのルールに「TKO(テクニカルノックアウト)」が書き加えられた歴史的瞬間であった。
なお、最終試合も案の定、ゾンビ現象が発生してグダグダになりかけたが、
テトリス名人が盤面を使ってアートを描くことで場を和ませ、事なきを得たことを記しておこう。
こうして、1時間連続、17試合中15試合で何かが起きるという前代未聞の放送事故が終了したのであった。

この事件、バグを直しきれなかった開発陣に最大の過失があったことは言うまでもない。
だが、よりによってそれを全世界生中継の場で発露させる神のいたずらは、あまりにも、あまりにも容赦ないと言えよう。
ともあれ、この奇跡の光景が2015年のクソゲー界を象徴するベストシーンであることは間違いない。
「一体全体、テトリスをどう作ったらクソゲーになるんだよ」という驚嘆の声とともに、
本作は無事、恥の殿堂に奉納されたのであった。

***

「不作」と言う言葉がある。
期待したほどクソゲーが出なかったことを指す、不謹慎な言葉だ。

2015年、11月を迎えた時点で選評が提出されていたのは『テトアル』一本しかなく、
それすらも未だ審議中の状態であった。
このまま終わるならば、例年と比べて穏やかな、平和な年だったと言えるだろう。

しかしながら、本当に「不作」だろうか?

否、違う……。

スレ住人は気づいていた。
空でもなく、海でもなく、地の底から放たれる、かつてない瘴気に。

あまりの凄まじさに「選評を書く気も起きない」とまで言わしめた怪物が、
我々の立つこの大地の下に、闇の根城を築き上げていたのだ。

***

遡ること5か月前、6月25日に『それ』は世に出ていた。

地鳴りとともに大地から現れた巨大な影。
空にそびえる鬼岩城。

Xbox One専用ソフト、『アジト×タツノコレジェンズ』(以下、「アジノコ」)である。

『アジト』と言えば、「秘密基地作成シミュレーション」というジャンルを確立したPS時代の名シリーズ。
その名のとおり秘密基地を地下に建設し、怪人やヒーローを思うさま配置し、敵陣営と戦うゲームだ。
そんな『アジト』1作目の版権を買い取り、再販やリメイクをしていたメーカーが、次世代機での完全新作を発表した。
さらに、今回は「ガッチャマン」、「ヤッターマン」等で有名なタツノコプロとコラボし、参戦ユニット数は60を超えると言う。
旧作ファンの間では否が応にも期待が高まるばかりであった。

だが、3ヶ月の発売延期を経て世に出たのは、
【モノを売るというレベルではない何か】だった。

それは、≪比喩でも揶揄でもない、本物の有料デバッグ≫であった。
のっけから、操作を一つ間違えただけで進行不能になるチュートリアル。
何もしていないのに勝手に壊れる基地施設、地中を飛び交う戦闘機。
そして何より、基地建設にかけた長大なプレイ時間を一瞬で吹き飛ばすフリーズの連続。
その他、敵と交戦中にセーブするとロード時に100%強制終了し、
メニュー画面からオンラインモードを選択するだけでも100%強制終了する。
もはや、「バグ祭り」としか言いようのない地獄絵図である。
中でも、「魔のエレベーター」と呼ばれる一連の現象はひときわ鮮烈な印象を残した。
巨大ロボを発進させた際、それに連動して、エレベーターが上下いずれかの方向に突き抜けていくのだ。
エレベーターと一緒に空の彼方、あるいは、地球の奥深くマントルに消えていった戦闘員は、永遠に帰ってこない。
呼び戻そうとすると、誰も歩いていない基地の中に謎の足音が響き渡るのは怨念のなせる業だろうか。

この有様では評価のしようがない。
おとなしく修正を待つほかないだろう。
なお、あまりの惨状に、ダウンロード版は発売1日で配信停止されたことを補記しておこう。

***

発売日から3週間後、修正パッチが配信された。
バグの発生頻度が軽減され、かろうじて評価できる程度には動作するようになった。
スレでの検証が本格的に開始したのもこのパッチ以降である。
だが……。

『アジノコ』第二形態。
そこに待っていたのは、さらなる絶望だった。

まず目につくのは、
【やり過ぎの次元をはるかに超えたコスト削減】だ。
本作では、「どこに金をかけたのか全くわからない」ほどの高レベルな倹約が行われている。
それを可能にした最大の要因は、
キャラゲーの常識を覆す≪原作ディスリスペクト≫。
本作には「米粒ほどの大きさで描かれたタツノコキャラのドット絵」以外に評価できる点がなく、
その他すべてが版権元に喧嘩を売る出来になっている。
例えば、顔グラフィックは原作アニメのキャプチャで、カットインは音声なしのアニメ本編を数秒垂れ流すだけ。
また、版権モノと言えばどこまで原作のキャストを呼べるかという点に注目が集まるが、
本作のキャストは全員、アニメ声優の専門学校から動員した素人である。
なお、実際にこれらの姿勢に対して考えるところがあったのか、
タツノコプロ公式サイトでは本作の発売について一言も触れられていない。
では、キャラゲー以外の面ではどうなのか?
端的に言えば、旧作素材によって作られた≪フランケンシュタインの怪物≫だ。
公式サイト上で自画自賛する「こだわりのドット絵」は、旧作素材を拡大して手直ししただけであり、
一部にいたっては旧作からそのままコピペして3倍に引き延ばしただけ。
このほか、内部パラメータ、説明文、ボイスにいたるまで、ほぼ全ての旧作素材をフル活用。
その使い方も、旧作ヒロインの死に際ボイスがザコ怪人の断末魔に使われていたりと、
シリーズ初プレイでも異常性に気が付くレベルの雑コラ加減になっている。

続いて、ゲーム内容を詳しく見ていこう。
本作には、大きく分けて「戦闘」と「基地経営」の2つのフェーズがある。

先に戦闘フェーズについて述べると、
本作には、こちらが相手の基地に攻め入る「侵攻戦」と、相手がこちらの基地に殴りこんでくる「防衛戦」がある。
このうち【侵攻戦】は、AIの機嫌次第で全て決まる≪祈りゲー≫だ。
本作のゲームバランスは「タツノコ>それ以外」であり、
多大な費用と時間をかけてタツノコキャラを戦地に送り出す必要がある。
だが、本作のAIはそんな苦労などつゆ知らず、敵基地に爆弾一つ仕掛けて勝手に帰還する戦闘放棄を繰り返す。
言ってしまえば、タツノコではなくアホの子である。
出撃命令を出すたび、全員一斉に目的地の逆方向に歩き出して壁にぶち当たる様子や、
ほかに通路があるのにエレベーター前で何日も行列を作る様子を眺めることになる。
もう一方の【防衛戦】はと言うと、むなしいだけの≪消化試合≫だ。
第一に、一部のタツノコ関連ロボが強すぎて、せっかく作った基地に敵が入ってくる前に焼き尽くしてしまう。
第二に、よしんば基地の中に敵が入って来ても、砂を噛むような味気ない世界が広がっている。
白衣の研究員を20人並べた部屋で敵戦闘員をリンチする、
お行儀よくエレベーター待ちする敵を無抵抗のまま後ろから撲殺する、といった光景に一体誰が心躍るだろうか。

次に基地経営フェーズについて述べると、
「作業ゲー」と「ヌルゲー」、「待ちゲー」と「連打ゲー」とをコンクリートミキサーにかけてぶちまけた、
【地獄の100時間耐久ルーチンワーク】になっている。
まずは≪作業ゲー≫、≪ヌルゲー≫の側面に関して。
本作にはミッションが30個用意されているが、プレイ開始から全面クリアまでやることがほとんど変わらず、
徹頭徹尾同じパターンの行動を繰り返すだけである。
続いて、≪待ちゲー≫。
本作の1ミッションあたりの時間は3,4時間ほどだが、何もすることがない時間がおよそ半分に相当する。
そして、残り半分の時間は≪連打ゲー≫だ。
ゲームの半分は、劣悪なUIのせいで十字キーと決定ボタンをひたすら連打させられる時間なのである。
このようにして、本作ではクリアまでの100時間以上、何ら創造性のないルーチンワークが延々と続く。
終わりのない単純労働によって徐々に精神を削られ、疲弊していくその様子は、言うなれば「タツノコ絶望工場」。
あまりの苦行ぶりに、パッチからたった3ヶ月でソフト本スレの住人は絶滅したのであった。

ただ、ここで脱落したプレイヤーはある意味で幸運だったのかもしれない。
ここから先の真の地獄を知らずに済んだのだから。

11月17日、本作の検証が続く中、勇者の口から不意に、不吉な一言が発せられる。

「こんな時期に新パッチ来たんだが」

今思えばこれが、長い長いラストバトルの幕開けであった。

***

突然の知らせにスレ住人は総毛立った。

まさか、さらに凶悪になるのか?
いや、今度こそ、良い方に生まれ変わるはずだ。

祈りにも似た気持ちで待った結果、土埃の中から現れたのは、
なおいっそう禍々しく変貌した「大魔王」の姿だった。

『アジノコ』第三形態、
最後の審判の時である。

このパッチではフリーズの頻度が改善され、グラフィックやボイスの素材も追加された。
だが、それと同時に、ある一つの特大バグが混入してしまった。

「セーブデータが毎回リセットされる」。

ゲームを一度終了し、再開するたびに、100%の再現率で、
育てたはずのデータが、なぜか初期化されているのである。

本作では、「ミッションの進行度」と「入手したタツノコキャラ」のデータとが分けて管理されている。
このうち、進行度は全く変わらないまま、手持ちのタツノコキャラが忽然と姿を消すのが今回のバグの概要だ。
RPGに例えれば、
「シナリオが進んだ状態でセーブ&ロードすると、毎回、装備やレベルだけが初期データにリセットされる」
という事態に等しい。

勇者は、震える声でこう紡いだ。

これは、【賽の河原】のようだ、と。
石を積むたび、地獄の鬼があざ笑うかのようにやってきて、一つ残らず崩していくのだ、と。

このバグが起きてから、本作のゲーム性は激変した。
もともと「地獄の100時間耐久ルーチンワーク」だった苦行がさらに、
「初期データ縛り」か、「ぶっ通しプレイ縛り」かの2択を強要するようになったのだ。
前者を選ぼうにも、本作のゲームバランスは「タツノコ>それ以外」であり、
タツノコキャラなしで進めるのは絶望的だ。
一方で後者を選べば、数十日かけて進めたデータが、
ただ一度のフリーズや進行不能バグによって水泡に帰してしまう。
つまり、どちらに進んでも、死、あるのみである。

(知らなかったのか……? 大魔王からは逃げられない……)

そんな幻聴さえ聞こえてくるような、かつてない絶望が辺りを包み込んでいた。

最終的に、72日間の死闘の末に勇者は本作を制することに成功した。
だが、そこに笑顔はなかった。
……本作にEDが存在しないことは、以前から薄々わかっていたことだった。

最後のパッチ配信から四か月経過した現在、この「賽の河原」バグは未だ修正されていない。
本作が数多の問題点を修正し、皆に笑顔で受け入れられる「第四形態」に変わる日を願ってやまない。

***

さて、以上2つが本年のノミネート作である。
役者がそろったところで本年の大賞発表をしよう。

不作かとも思われた2015年……。
現れた両雄は、例年であれば何作かに分かたれるはずの不幸のエッセンスを凝縮し、
見たこともないほど強大な存在に結実していた。
神のいたずらさえも味方につけ、笑いの奇跡を引き起こした≪究極≫の光の戦士『テトアル』か、
人の手によって禍々しく進化を遂げ、プレイヤーの嘆き悲しみを歴史に刻んだ≪伝説≫の大魔王『アジノコ』か。
いずれも、これまでの大賞作品に勝るとも劣らない、当代きっての英傑である。

光と影、苦と楽……。
正反対の方向に大きく振り切った最強者たちの激突。
純粋なるエネルギーとエネルギーのぶつかり合いが、激しく火花を散らし、
あらゆるものを飲み込んで破滅させていく。
万物創成の様相をなしたこの新たなる神話の戦いを制し、新世界の領主として名乗りを上げたのは……

『アジト×タツノコレジェンズ』である。

本作の勝利を決定づけたもの……
それは、「質と量の両面で最高峰を成す、規格外のクソさ」である。

いわゆるクソゲーには、大きく分けて2つの類型がある。
一つは、クソ要素の数が多いもの、すなわち量で勝負の「バラエティ」型。
もう一つは、飛び抜けて大きなクソ要素を持つもの、すなわち質で勝負の「インパクト」型だ。
これまでのノミネート作品を振り返っても、概ねどちらかの傾向に分類できると言えるだろう。

その点を踏まえて2015年のノミネート2作品を比較してみよう。
『テトアル』は、インパクト型の典型である。
テトリスとして最低限プレイできることがプラス評価の材料になりながらも、
「試合放棄AI」や「史上最低クォリティのオンライン」などの離れ業によって大きく逆方向に打ち返している。
かたや、『アジノコ』はどうだろう。
「魔のエレベーター」のインパクトはあったものの、
それよりも、どこを切っても隙の無いバラエティ型としての強さが際立っている。
だが、第三形態になったことで『アジノコ』は劇的な変貌を遂げた。
不可避的にセーブデータが初期化される「賽の河原」バグと、
それに連なる「クソゲーなのに縛りプレイ強要」という、
クソゲー史においても記録的な、特大のインパクトを持つクソ要素を手に入れてしまったのだ。
言うなれば、本作はただでさえ打率10割のバッターでありながら、
それに加えて場外ホームランを飛ばしてしまった。
このような規格外の存在を前にしては、どんなクソゲーも道を譲らざるを得まい。

それにつけてもクソゲー史に残るインパクトを誇る作品が2015年に二つ集結してしまったとは、
『テトアル』の不運が悔やまれてならない。
一方で、『アジノコ』はXbox系列ハードの作品としてはKOTY史上初の受賞となる。
奇しくも、パッチによる進化という共通項を持つ同門の『ジャンライン』の雪辱を見事に果たしたと言えよう。

***

タツノコプロと言えば、タイムボカンシリーズに登場する「三悪」の存在がつとに有名だ。
目先の欲望から悪だくみに走り、毎度人々を困らせるものの、すぐに露見して手痛いしっぺ返しを食らう。
そんな、永遠の憎まれ役。
だが、三悪がいたからこそ、ヒーローたちの物語は輝いていた。
影があってこそ映える光であり、悪があってこそ引き立つ正義なのである。

思えば、クソゲーもまた、三悪に相通ずるところがあるのではなかろうか。

クソゲーそのものは、買った人々を不幸にする忌むべき存在である。
だが、クソゲーを通じて人は、憤りを機知に昇華し、苦しみをおどけに転じることができる。
そうして結局、誰も憎むことのない、笑顔に満ちた世界が形作られるのだ。
この不思議なパラドックスに我々はいつも心惹かれてきた。
だからこそ我々は、
クソゲーが生まれることを悲しみながらも、
心のどこかでクソゲーを待ち望んでしまうのかもしれない。

「負けない。くじけない。何度もよみがえる」。

クソゲーにはこれからも、三悪のようなしたたかな存在であり続けてほしい。

それはそれとして、実際に本作をクリアした筆者の率直な感想を、
往年の名作にしてタツノコプロの代表作「ヤッターマン」の決め台詞から拝借することで、本年の締めくくりとしたい。

「勝利のポーズ! ヤッター、ヤッター……やってられんわ!!!!」

総評案2 (アジト×タツノコレジェンズ)

(3/13 11時43分修正)

強力な軍事力により2014年の門番となった2作品。
半端な笑いでは門に近づくことすら許さぬ負の力を持っていた。
こんな一種の膠着状態を打ち破った、10年の狂宴を想起させたヒーロー達の登場。
住人たちは友たるクソゲーへの愛を改めて胸に刻み、2015年という新たな無明世界を進み始めた。

2015年KOTY開幕である。

そんな住人達を祝福しているのか、2015年の春は穏やかなものであった。
ハンターは無沙汰は無事の頼りといずれ来るであろう強敵との戦いの前に平和を噛み締めていた。

季節は過ぎ夏。天から矢継ぎ早にブロックが落ちてきた。
6/10発売 PS4/Xbox one ユービーアイソフトより テトリスアルティメット(以下テトアルとする)

~基本情報~
テトリスといえば言わずと知れた落ち物パズルゲームの始祖である。
この作品は、ザ・テトリスカンパニー及び親会社BPSからライセンスの許諾を得ている公認テトリスであり、誰もが羨む血統書付きである。

そんな期待を一身に受けるゲームを起動すると、開発会社のロゴが処理落ちしている。
つかみとしては十全である。
本作には、失敗するまでブロックの落下速度等がシビアになる(レベルの増加)などのオフラインモードと対戦を行うオンラインモードの2つに大別できる。
それでは、オフラインモードとオンラインモードのそれぞれを見ていこう。

~オフラインモード~
 従来のテトリスでは、一列の横ラインにブロックを埋めるとちょっとして演出(エフェクト)が発生し、当該列のブロックが消え猶予時間の後に次ブロックの落下が始まる。
 本作では、横ライン消去時に発生するエフェクトが異常に壮大であるため、処理落ちを誘発させ、次のブロックの操作までの猶予時間まで食ってしまう。
 猶予時間が0.5秒ということもあり、処理落ちの影響で実質猶予がない事態が起こる。
 この現象は、対人や対CPUが横ラインを消した時にも発生し、全員が諸刃の剣で乱闘する地獄絵図が完成する。
 また、対CPUでは、誰か一人が負けると他のCPU全員が試合を放棄し、ブロックを操作せずただ積み上げるだけの放置状態となる。
 恐らく、CPUはテトリスしかできないので気晴らしにタバコでも吸いに行ってるのだろう。

~オンラインモード~
 選評者曰く「過去最低のクオリティだと断言できる。」とのことである。
 まず、ブロックの落下時において数秒毎にゲームの進行が止まり、操作を受け付けない現象がプレイヤーをおもてなしする。
 オフラインモードの処理落ちはもちろん、同期ずれるも多発する。
 自分の画面からみると、すでに画面の上部まで積み上がって負けているはずの他プレイヤーがブロックを永遠に積み続けている光景は、非日常的なものであり日頃の喧騒を忘れさせてくれる。
 さらには、特殊効果が発動できるモードにおいて、同期ズレが起こっている状態で「雨あられ」という特殊効果を発動させる。
 そうすると大音量で不快音が鳴り「雨あられ」が止まない現象も発生する。
 一度この現状が起きてしまえば、オンラインから切断するかPSホームからゲームを終わらせるまで操作を受け付けない。
 プレイヤーは、雨あられが止まない画面を見ながら、なぜこの状態でオンラインモードを実装したのかという疑問の雨が止まないとこだろう。

~締め~
 テトリスできないテトリスとして一時は住人に歓迎をうけた本作。
 しかし、2,400円という低価格、オフラインは遊べないこともないや選評者がテトリス上級者だからこそ辿りつけた本作の弊害故、初心者~中級者にはさほど問題がないのではないかなど懸念があり、再検証が必要となった。
 こうしてテトアルは暫定ではあるが門番となり、半年に及ぶ飢饉から解放されたスレ住民は心の栄養を取り戻した。
 
そして季節は冬となる。肥沃な土地であるためか、よく育った作物でスレ住人は飢餓の恐怖を忘れていた。
ここで警戒をするべきだった。肥沃であることには必ず理由があることを。
そう、次なる友は土の下を住処としていたのだ。

6月25日発売 5,500円 Xbox one ハムスター社 アジト×タツノコレジェンズ(以下アジトとする)
AZITOといえば、地下に秘密基地を拵え、防衛などを行う秘密基地作成シミュレーションである。

此度、そんなAZITOの友軍としてタツノコプロダクションが参戦した。
みなしごハッチやガッチャマンを有する日本アニメーション制作の大御所である。

ただ、あまりに強大な力を得た者はその身の破滅を招く。人類史でも散見することである。
本作がどのような結末を迎えたのか、順を追って見ていこう。

このアジト、実はテトアルと同時期にスレで話題になっていた。
Xboxoneがあるからと特攻した豪傑やアジトの為に本体ごと購入する英雄が現れた。
しかし、誰もが満身創痍となりスレッドに断片的な情報を届けた後、神隠しにあったかのように姿を消していった。

スレ住人達は恐怖した。英雄豪傑であっても難攻不落の秘密基地はその攻略の糸口すらつかむことが出来なかったのである。
そんな絶望の中、ついに「目覚めた人」が現れた。11月22日、遂に選評が届いたのだ。

本作は2度のパッチがあり、改善点と多くの改悪点がある。
まず、パッチにより変更が無かった点について代表的なものを挙げていく。

・防衛戦と侵攻戦について
 防衛戦はあまりにも難易度が低い。中盤以降はとある兵器を使えば地上戦だけで敵を殲滅し、基地内で工夫した戦術が日の目を見ることがない。
 使わなければいいのではないかと思われるだろうが、そうなると戦闘時間が長引き退屈な戦いを永遠と見続けることになる。
 難易度を求めるものは時間を対価に捧げ、虚無の時間を味わうことになる。

 侵攻戦は冗長の極みである。
 まず、侵攻戦ではプレイヤーが戦況に関与することができない。
 戦闘員の才覚を信じ、現場に任せることしか出来ない。唯一許された操作は撤退を命令するだけである。
 侵攻戦では戦闘員が敵総司令部という施設を爆弾で破壊すれば勝利であるが、この戦闘員は爆弾を一個しか持てず、一回設置すると自軍の基地に帰還する。
 施設は敵の開発室など多岐にわたるため、総司令室が運良く爆破できるまで戦闘員に何往復もご足労願うことになり、ゲーム後半では、敵基地の施設の数や深度も増してくるため、膨大な時間を要する。
 また、このゲームでは研究員などの非戦闘員が異常に強く、戦闘員を返り討ちにすることが多々ある。
 戦闘員は量産が厳しいが非戦闘員は量産が容易であるため、味方として使った時は心強いのだが、敵として見た時は難攻不落の施設と化してしまう。
 このように操作・指揮ができないにも関わらず、運に頼ることしかできない上に、敵の防衛はかなり強いため異常に時間がかかる。
以上の要素により、防衛戦と侵攻戦共に時間だけが掛かる待ちゲーの極みとして完成していた。

・自由度の無い基地作成
 ゲーム説明にて「思いのままに基地を作って攻めてくる敵を撃退」とある。
 断言するが、このゲームにそんな自由は存在しない。
 このゲームでは資金や土地に余裕があっても設置できる施設の数に上限が存在する。
 施設の他にも、通路や階段にも設置数に上限があり、広大な基地は絶対に作れない。
 プレイヤーはいつの間に自由のない自由を選択したのだろうか。

・バグ
 アジトに置いて最もインパクトのあり、代表的なエレベーターバグを紹介する。
 戦闘員がエレベーターにのり、上昇している状態で格納庫より巨大ロボを発進させた時、巨大ロボとエレベーターのカゴが連動し、カゴごと空へ天高く射出される。
 カゴが連動しているため、戦闘員は降りることが出来ず、ロボと共に射出されてしまう。
 その後、エレベーターも戦闘員も帰ってこないが、エレベーターを撤去し、再設置すれば使えるようになる。
 エレベーターを再設置すると、射出した戦闘員が帰還している。
 ただ、誰も利用していないエレベーターが勝手に上下に移動し、誰も動いていないのに足音や階段の昇降音が聞こえる。
 ゲームのキャラが死して意思を持ち、祟りを起こしたのであろうか。

・キャラゲーとしての側面
 本作ではミッションモードにてアジトとタツノコの世界観を交えたストーリーが展開される。
 いつの時代も秘密基地を作るのは善悪問わずそれ相応の理由がある。
 本作の主人公は善でも悪でもなく、なんの理由もなく秘密基地を作るよくわからない存在であった。

 何の説明もなく知らない世界に放り出された主人公はなぜか秘密基地を作るのだ。
 そして、ある程度基地を作ると以下の様なストーリーで侵攻や防衛を行うことになる。
  1.先住民や近所の人から何勝手に基地を作っているんだと言われ襲撃される
  2.返り討ちにした後、報復として後腐れの内容に、皆殺しにする。
 以上である。非常に簡潔である。
 時には、海の近くに基地を作り、許可を取っていなかったためか原住民からクレームがきたので原住民を皆殺しにして解決する。
 そんな中、脈絡もなくガッチャマンが敵に囚われているから助けましょう!とオペレーターから助言を受けるが、これらについてのストーリーや説明もない。
 ただ、そこに素材があったのでとりあえず使いましたと言わんばかりの乱雑さである。
 
 声優を期待しても、OPクレジットの限りでは専門学校生の生徒であり、オリジナル声優ではない。頑張って声真似をしているが、キャラゲーであるからこそ本家本元を起用して頂きたかった。
 これにより、他作品とのクロスオーバーなどファンサービスも無いため、ファンアイテムとしても価値はない。
 なお、このゲームにはEDがなく、最終ミッションを4時間掛けて攻略してもミッション選択画面に戻されるだけである。
 キャラゲーによく存在するクリアのご褒美もなく、ただ義務と割りきってプレイヤーはミッションをすすめるしか無い。

このように、キャラゲーとして必要である説明やストーリー、声優の共演などもなくキャラゲーとしての存在価値は疑わざるをえない。

それでは、パッチによる変更点を見ていこう。
KOTYでは該当年における最後のパッチが適用された状態で評価を行う。
7月18日と11月17日に配布があり、最終評価は11月17日パッチであるが7月18日の内容も備忘録として記しておく。
~7月18日パッチ~
・改善点
 ロードに不具合があり、ロード中にゲームがクラッシュすることへの対応
 頻出されたフリーズの対応(ただし、頻度が減っただけで猛威を振るう)
・賛否両論点
 資金調達の調整(同一の方法による計測の結果、およそ10分の1まで低下)
・改悪点
 本作において、ゲーム内スピードの変更やスキップ機能は存在せず、ゲーム内1ヶ月=現実の24分固定である。
 パッチ前は防衛戦の際、1ヶ月前に通知されるのでおよそ24分で準備をすることになる。
 パッチ後は、2~4ヶ月前から通知されるようになり、最大96分待たされる。
これが7月18日パッチの参考程度の情報である。

~11月17日パッチ~
年内最後のパッチである11月17日パッチは安定性の向上が目的であり、フリーズの発生もかなり抑えられゲームプレイ自体は改善された。

確かに、初期のこのゲームはおぞましい物の怪であったが、ゆっくりとではあるが確実に進歩している。変わろうとしている。
そんな成長を目の当たりにしてプレイヤーは一種の感動を受け、これからの成長を温かい目で見守ろうと思わせるのだった。
そう思わせることこそが、このアジトの策略であった。
追求を避けさせ、時間を稼いでいる間に土中では遂にアジトが難攻不落の要塞として完成した。
ゲームとしての進化はハリボテであったのだ。ハリボテの先にあった実態とは歴代の王者と肩を並べることに遜色のない鈍色の輝きを放った作品であった。

では、11月17日パッチにより発生した大きな不具合を見ていこう。
・ログインできないログイン画面
 ゲームを終えた時、ゲーム機本体の電源を切る。
 この行為は自然なものである。24時間本体の電源を入れ続けるのは余程の理由がないかぎり無いだろう。
 Xboxoneはサインインした状態で電源を切ると、自動的にサインアウトされるため次に電源を入れるとサインアウトしている状態である。
 アジトもサインアウト状態でも遊べるが、セーブができないやオンラインゲームができない等わざわざオフラインモードでやる意味はない。
 そこでアジトのゲーム内からXboxoneのオンラインへサインインするのだが、アジトから正式な手順でサインインを行っても、ゲームからサインインしてないと警告される。
 サインイン自体は成功しているが、この状態ではセーブ等できないオフラインモード状態である。
 この状態を解決するには、アジトを一旦終了させ本体からサインインし、改めてアジトを起動させる必要がある。
 この解決法を思いつくまで、セーブができないアジトをプレイすることになる。

・賽の河原
 本作ではミッションモードにおいてミッションを攻略すると、「CLEAR!」と「解放!」という2種類のしおりが各ミッションにつく。
 ここで大切なのは「解放!」であり、兵器などの開発がアンロックされる。これは以降のミッション攻略に必要不可欠と言っても過言ではないものである。
 ここでプレイヤーを襲うのは、この「解放!」フラグを初期化し、開発ができないようになる現象である。

 クリアのフラグは残っているため、途中からでも再攻略などをすることは出来る。
 ただ、この状態では初期状態のため、勝つことは困難であり、
 FFで例えるなら、過去のカオスの神殿に初期装備、Lv1で挑むようなものである。
 よって、また最初からミッションを攻略することが必要となる。
 この現象は多発し、どれだけミッションを積み上げても鬼が来て成果を崩されてしまう。
 検証の結果、原因は不明であるがどのような行為により初期化されるかは判明した。
 ・ゲームをセーブしないでゲーム機の電源をきる   ・ゲーム中に入力機器を本体から外す
 ・ゲームを中断した状態で、他のゲームをプレイする ・中断したゲームをサインインしないで再開する
 判明したのはこの4つである。
 これから導かれるこのゲームをプレイする際の推奨プレイスタイルは
 「電源を切らず、他のゲームで遊ばず、アジトのみをプレイし続ける」となる。
 ヤンデレやメンヘラを扱ったゲームはあれど、ゲーム自身がメンヘラ狂人とは恐れ入る。

 確かに、過去にはセーブデータが消えやすいゲームは多く存在した。カセット時代では多々あることであった。
 しかし、ここで問題となるのはゲームとしての土台の違いである。
 何回セーブデータが消失してもやり直しが苦ではないことは良きゲームの証拠である。
 これに対しアジトはどうか。土台が隙間なくクソであり、やり直しは言わずもがな苦行である。
 基礎がクソであるが故に、その脅威は加速度的に増していく。
 この賽の河原こそ、幾人のプレイヤーを神隠しした最大の要因である。

以上がアジトである。
膨大な待ち時間(待ちゲー)と初期化・やりがいのなさ(ゲー無)を極めた至高の一品である。

そんな作品と向き合うには一種の悟りを開く必要があったのではないのだろうか。
ゲームという苦行により悟りへの道を歩ませる。そう思わせる圧倒的な負の力が確かに存在した。

アジトの選評・検証により今年の大賞はアジトという考えがスレ住人に広まっていた。
昨年を髣髴とさせる一強状態。しかし、これほどの力に対抗できる作品は存在しないだろう。
しかし対抗する作品が現れた。長く緻密な検証により、真の力を得たテトアルの帰還である。
7月31日に選評が到着し、2016年2月の初め頃まで続いだ検証の結果を見ていこう。

60FPSで録画し検証を行うことで、テトリスの検証が行われ様々な事象が証明された。
まず、選評で触れたエフェクトによる処理落ちである。
これは処理落ちではなかった。開発から意図的に仕組まれた催眠であったのだ。
本作においては、ライン消去24フレーム+ブロックが落ちるまでの猶予6フレームの計30フレームがある。つまり0.5秒の猶予が与えられている。
だが、ラインが消えた時のエフェクトは無駄に壮大であるため、50フレーム以上演出が続く。
ここに20フレーム以上の差異が生じる為、エフェクトにより操作の猶予時間がラグにより消える様な錯覚を覚える。
ブロックの落下速度の遅い序盤では体感し辛いが、中盤以降シビアな操作が要求されるとこの現象によって猶予が無くなってしまったと誤認してしまう。
つまり、処理落ちによるバグではなく、仕様書通りに作られたプレイへの妨害である。
さらには、ラインを揃えた時にエフェクトが発生し、次のブロックの落下が始まるまでの猶予時間が0になるバグの発生も確認された。
仕様書通りの錯覚というストロングスタイルとバグのドラ。2つを同時に併せ持ち翻弄する本作。プレイヤーはテトアルをプレイする意味を失う。

テトリスがテトリスという価値を自己否定する様は哲学者シモーヌ・ヴェイユを彷彿とさせるものであった。
彼女は美しいものによる自己否定こそが真理への道としており、不幸な状況にあるものこそが真理に到達できる資格を持つと考えていた。
テトアルにおいて、過剰な演出(美しいもの)により自己否定(CPUの試合放棄・プレイ自体の無意味)となり、不幸な状況にあるものとはプレイヤー自身である。
テトリスアルティメットは、我々を真理への道へ誘うアルティメットの名にふさわしい逸品ではないのだろうか。

以上が2015年の大まかな流れである、

では、大賞及び次点の発表である。
大賞 アジト×タツノコレジェンズ 次点 テトリスアルティメット とする。

ここでとある作品における発言を紹介したい。
「『つまらないと』と言われると逆にやってみたくなる・・・
それは良し悪しの違いだけで感情を動かされるという点において、神ゲーとクソゲーは実は同義語だからぞなっ」
プラスとマイナス、まさに対極の存在であろうとも、絶対値は同じである。
つまり、神ゲーを神ゲーたる理由があるように、クソゲーはクソゲーたる理由がある。方向性は違っても負の力を極めれば人々に記憶される。
 
つまり、より特化した独特の色合いを持ち、他の追随を許さない圧倒的なマイナスこそが評価されるのではいのだろうか。
その点では両者は歴代の王者達と遜色のない輝きを放っていた。

アジトは、ゲームという土台が隙間なくクソであり、基礎が完全に腐っている。そこに賽の河原が発生し無常・無情の極みである。
そう、プレイヤー全員にとって等しく脅威となる力を持っていた。商品として成立していないと言われても仕方のない出来である。
これに対しテトアルだが、テトリスというジャンルが問題となった。
今作の問題点は、選評者が上級者であるからこそ異変に気が付き、検証して初めてテトリスとして崩壊しているという事実を確認できたことである。
初~中級者ではあくまで違和感として感じられる程度のものあったことが大きく影響した。
勿論、テトリスとしてもオンラインモードが議論不要のクソであり、雨あられのバグ等も備えているため全員であると感じる部分もある。
しかし、そこは個人の判断で回避が可能である。アジトは全てがクソであり、このゲームをプレイする時に回避は不可能である。
ここが大きな差であった。万人がプレイした際にその全員がクソゲーであると感じるのはアジトである。

以上の点により、万人がプレイした際、口をそろえてクソゲーというのはどちらであろうか。

これがアジトを大賞とした理由である。

ただ、心理学によれば、ネガティブな記憶は短期的には強く残るが、長期的な記憶になるとポジティブな記憶が強く残るのである。
クソゲーそのものは負の力であり、ネガティブな記憶である。
マイナス点を理屈もなく、思慮もなく、愛もなく誹謗中傷するだけでは人心は荒み、良き思い出の一つもなく時間だけが過ぎていく。
そして、人々から忘れ去られ、その存在を知るものはいなくなってしまうだろう。
 
KOTYではクソゲーを笑いに昇華し、マイナスをプラスにするのが目的である。
我々がマイナスを笑い飛ばし、プラスに変換することにより、クソゲーを少しでも多くの人の記憶に残す。
忘却という恐怖から愛するものを守るために戦う。
それこそが、KOTYスレッドの選んだ道である。

ハムスター社が開発した作品名をお借りして、満面の笑みでハムスター社の背中を押し、ここに総評の筆を置く。
次にクソゲーを作ったら『逮捕しちゃうぞ』

総評案3 (アジト×タツノコレジェンズ)

(3/21 13時45分 掲載)
(3/24 12時18分 微修正)

2014年は、KOTYにおいて図らずも節目の年となった。
歴代最強の2大門番を破り、見事大賞に輝いた「サモンライド」の、これまでのノミネート作を彷彿とさせる七変化は、
スレ住人が歩んだ10年を振り返るまたとない機会を与えてくれた。

あの苦しかった過去の日々も、今となっては愛おしい思い出。
スレが怨嗟の止まぬ煉獄と化した後にも、無限に続くかに思われた戦いの果てであっても、
いつも最後には、クソゲーを肴に笑い合える時があった。
この思い出を糧として、住人たちは2015年へと歩み出す。
どこかで産声を上げる、新時代の異形を迎えるために。
そしてその先にまた、皆で笑い合える、平和な未来があることを願って。

***

だが、そんなスレ住人の願いは思わぬ形で叶えられた。
時は流れ早11月。にも拘らず、大賞候補と目される作品は、ゼロ。
かつて無い不作。なんの変化もなく穏やかに時間が過ぎゆく。
本来クソゲーとはあってはならないもの。それが存在しないのならば、これほど幸せなことはない。
このまま1年が過ぎ去ればいいと談笑する住人たちだったが、
言葉とは裏腹に、スレに渦巻く不満と不安は消え去ることはなかった。
これまでもそうだった。年末ほど騒動に縁のある時期はない。
誰もが気づいていたのだ。この平和が、上辺だけのものでしかないことに。

運命の時は来た。地の底に密かに築き上げられた巨大な要塞が、ついにその姿を現した。

Xbox One専用ソフト、『アジト×タツノコレジェンズ』(以下、「AZITΩ」)。満を持しての登壇である。

「アジト」とは、「秘密基地経営シミュレーション」という独自のジャンルで初代PSに展開され、
今なおコアなファンから支持を受ける隠れた名シリーズ。
タツノコプロとのコラボを引っさげたそのシリーズ最新作は、国内では珍しいXbox One専売ということもあり、
発売前から一部で注目を集めていた。

しかし、3ヶ月の延期を経て発売した後に挙がったのは、衝撃的な報告の数々だった。
「発売前日に公式が強制終了バグの存在を発表」
「ダウンロード版が1日で販売停止」
「戦闘機が地中を飛んだ」
「チュートリアルで詰んだ」
「セーブ機能が機能していない」……。
まごうことなき有料デバッグに悲鳴と怒号は止まず、
内外からKOTYに推す声が挙がり続け、事実上の門番状態となっていた本作。
その一方で最初の選評が届くまでには、発売から実に5ヶ月近い時間を要した。
というのも、Xbox One専売というハードルの高さや品薄状態に加えて、
「パッチが配信された後に本スレが悲鳴すら無い廃墟と化した」ことに「ゲー霧」の再来を感じ恐怖に竦む者が続出。
僅かに現れた購入者も次々に消息を断ち、検証がなかなか進まなかったのだ。
「伝説は伝説のまま、闇に消えてしまうのか……」
平和の裏、そんな嘆きが住人たちに広まりつつあったなか、ようやく一人の勇者が生還を果たす。
命からがら調べ上げられたその内容に、歓喜に湧く住人たちの顔は瞬く間に凍りつく。
そこには、かつて無いほどの瘴気に満ちた絶望の世界が広がっていた。

まずは、公式自らがアピールポイントとして挙げているグラフィックを見てみよう。
なるほど、本作オリジナルのタツノコキャラのドット絵は、
特徴を的確にとらえた、往年の職人芸らしさが光るクオリティだ。
……が、それだけである。
実際はこのドット絵も米粒サイズで実に画面映えせず、巨大メカも動きのない一枚絵。
顔グラフィックは原作アニメの切り抜きで、
出撃時のアニメーションは原作の一部から音声を抜いた「無声動画」だ。
音声面も、タツノコキャラ含む新録ボイスはすべて専門学校の素人を起用。この時点でキャラゲーとしての価値も完全にふいにしている。
では、それ以外の素材はといえば、公式が謳う「時代への逆行」を文字通りに体現。
グラフィック、サウンドどころかテキスト、イベント、オリジナルキャラクター、内部データに至るまで、
大半が初代「アジト」の素材を「適当に」使いまわしている。
「百合キャラ女博士から爺博士へのセクハラ」や、
「旧作ヒロインの断末魔を上げるザコ敵」はそんな雑仕様の極北たる誰得要素。
版元、旧作ファンどころか新規プレイヤーにすら喧嘩を売りに行く姿勢には脱帽する他無い。

このように構成する細胞からして腐臭が漂っているが、当然ゲーム内容も脅威の全編発狂仕様。
本作の基本は「待ちゲー」。
本作のミッションモードのクリアまでの時間はおよそ100時間だが、
検証者曰く、その半分以上がプレイヤーに介入する余地のない「待ち時間」である。
リアルタイムシミュレーションに多少の待ち時間はやむ無しだが、
メーカーは早送り等便宜を図るどころか、
バランス調整の結果か、パッチで待ち時間を数倍に膨れ上がらせるという暴挙に及んでいる。
せめて待っている間の映像にでも楽しみを見出したいところだが、
廃墟や失踪者を生むようなクソゲーがこの程度で引き下がるはずもない。

ゲームの流れを簡単に説明すると、「経営フェーズ」で基地の建設、資金集め、部隊の編成を行い、
「戦闘フェーズ」で敵基地への侵攻や基地の防衛を行う。
まず、「経営フェーズ」は「待ち」どころか操作中さえストレスフル。
チュートリアルが説明不足過ぎて最序盤こそ手探りだが、
大半の要素がはじめから解禁されているため、手法を確立したが最後
30のミッション全てで同じことを繰り返すルーチンワークが続く。
劣悪なUIがもたらす膨大かつ単調なボタン連打も含め、
その内容はコンピューターゲームでありながら手書き時代の事務作業を髣髴とさせる。
そんな苦行の間に用意されているのは、一転してコントローラーを握る必要すらない完璧な「待ち」。
その上、必要な情報すら通知されないことがあり、
いつまで待つのかわからないばかりか、酷い時にはそのままゲームオーバーになる仕打ちが待っている。

その先にある戦闘フェーズは「侵攻戦」が「ストレス培養器」、「防衛戦」が「虚無」だ。
前者ではプレイヤーは撤退命令を出すことしか出来ず。
超広大な敵の基地の中のキャラクターを手動で追いかけまわすことになる。
目的は常に「司令室を爆破する」ことであるが、信じて送り出したタツノコキャラたちは、
行きがかりの適当な部屋に爆弾をおいて即座に帰ってしまう。
小さくなった部隊は妙に強い敵の「非戦闘員」に壊滅させられかねないため、
部下たちの愚行への感情を抑えながら、何度も撤退と侵攻を繰り返す羽目になるのである。
他にも、何日もエレベータを待ち続けたり、全員揃って道を間違えたりと頭痛の原因は枚挙に暇がない。
多大な時間と資金を投下して作り上げたタツノコキャラへの愛着も、
ご覧の有様ではみるみる消え去っていくことだろう。
では後者はといえば、中盤に入手できるヤッターメカを用いれば余裕で敵を殲滅完了。
基地内でも非戦闘員数十人のリンチや、エレベータ待ちの敵を背後から不意打ちといった外道な裏ワザで
必勝といった具合の純然たるヌルゲー。
「工夫を凝らした基地によるタクティカルな勝利」という本作のコンセプトは堂々形骸化している。
無論これらを封印することもできるが、余計な待ち時間、数時間の作業が灰燼に帰すリスクに対し、
得られるのは迫力ゼロの殴り合い映像と棒読みの断末魔だけであり、
苦労に見合う報酬なのかどうかは甚だ疑問と言わざるをえない。

さらに、これらのデスマーチに彩りを添えるのが「バグ」である。
パッチによる改善は「かろうじて遊べるようになった」程度であり、
聞こえるはずのない声が聞こえる、いないはずの人間がいる、いてはいけない場所に人がいる、
といったホラーのキャッチコピーじみた現象にツッコミを入れる余裕があるうちはまだ幸せ。
数々の進行不能バグ、フリーズは今もなお根絶されておらず、
先述のゲーム性、オートセーブの無い仕様も相まって凶悪さは倍増。
数時間の苦労が一瞬で無に帰る様は怒りや哀しみを超えた脱力感を誘う。
巨大ロボと連動したエレベータが天井を破り宇宙へと垂直飛翔する「天元突破エレベータ」が住人たちに
ささやかな笑いをもたらしたものの、
最終的にリセットすることに変わりはなく、プレイヤーにとってはなんの救いにもならないのであった。

***

勇者の生還を心から祝う住人たち。
だが、宴に湧く時間など用意されてはいなかった。
勇者が選評を書き記すことと前後して、沈黙を続けていたメーカーが突如動きを見せたのだ。
11月17日。まさかの新パッチ配信である。

予想だにしなかった展開に焦る住人たちをよそに、その身を引きずるように再び死地へと赴く勇者。
「真の平和が訪れるかもしれない」、その一心で。
だが、現実はそう優しくはなかった。
目の前には凄惨な光景。
「AZITΩ」の異名は飾りではない。我々が手をこまねいている5ヶ月を経て、
本作はより禍々しく、絶望的な存在へと進化を遂げていたのだ。

いない。開放したはずの、タツノコキャラたちが、どこにも。

新たに混入したバグ。それはミッションの進行状況だけを残しながら、
タツノコキャラの解禁情報だけが再起動の度にリセットされるというもの。
本作のゲームバランスは、開放したタツノコキャラを前提として組まれている。
すなわち、もとより過酷な耐久レースだったゲーム性に、
さらに初期ユニット縛り強制による「無理ゲー」要素が加わってしまう。
人が労働に耐えるためには、自分は着実に何かを果たしている「達成感」が不可欠である。
その達成感すら奪われては、一体苦行を耐える価値がどこにあるのだろうか。
このバグを確実に回避する方法は発見されておらず、強いて言えば、
「本体の電源を切らず、他のゲームに手を出さず、フリーズや進行不能バグや停電など
不測の事態が起こらないよう祈りながら、本作を遊び続ける」ことしかない。
ひとたび手を出したが最後プレイヤーを縛り付け、ひとたび目を離そうものなら
その身を以ってこれまでのすべてを水泡に帰す……。
己の存在すら否定する狂気のスタイルは、住人たちに「ヤンデレゲー」と恐れられた。
だが、本作に「デレ」などありはしない。
72日の死闘の果て、年明け後に再び生還を果たした勇者から届いたのは、
結局本作にはEDなどなかったという報告だった。
その手元には、クリアの痕跡すら立ち消えたセーブデータだけが虚しく残っていたのだった。

***
素材、ゲーム性、バグ……。その身の全てから絶望を生み出し続ける最凶の存在を相手に、2度も生きて帰った勇者。

住人たちは心から、ねぎらい、感謝し、崇め奉った。ここに、勇者は1つの「伝説」となったのだ。
そして同時に、誰もが疑わなかった。疑えるはずもなかった。
既に年も明け、これに敵うクソゲーが今更出てくるはずなど無かろう。
いや、こんなものが年に何本もあっていいはずがないと。
だが、一時の宴に弛緩する住人たちは気づいていなかった。
自分たちの頭上には、既にもう1つの強大な「何か」が迫っていたことに。

ふと空を見ると、そこには流星の如きブロックの雨。
それは誰もが知っており、同時に、あまりにもこの場にそぐわないもの、のはずだった。

PS4/Xbox One用ダウンロードソフト、『テトリスアルティメット』(通称「テトアル」)の降臨である。

本作の発売は6月、最初の選評が届いたのは7月のこと。
テトリスといえば、言わずと知れた「落ち物パズル」の原点。
その生誕30周年記念である本作は、
プログラム設計まで厳密に仕様を定める、公式の認定を受けた「エリートの中のエリート」。
当然ながら誰もが耳を疑った。「テトリスがどうしてクソゲーになるんだよ!」と。
だが、オンラインモードの映像によって、一転して誰もが目を疑い、
そして、印象は一変。そこに写っていたのは、ある意味記念作として相応しい、
テトリスの常識を覆す光景だった。

では、処理落ちするメーカーロゴより始まる本作の内容を見ていこう。

最もわかりやすい本作の問題は、先述した「カオスなオンライン対戦」。
オンラインといえば、通信のラグに起因する処理の遅延がつきもの。
本作にも当たり前のように搭載されており、数秒ごとに画面が止まっては、
精緻を要するプレイヤーの操作に狂いを生じさせる。
だがそれは前座にすぎない。真の問題は、「テトリス」のルールそのものに異を唱える「怪現象」だ。

ニコニコの「公式生放送」の全世界同時配信で頻発した「窒息してもなおブロックを積み続ける敵」
敵の消したはずのブロックが残ったまま点滅し続ける「エレクトリカル・イルミネーション」
自分の消したブロックが、復活と消滅を繰り返す「踏み台昇降」

レアケースながらフリーズやリザルトの改竄まで確認されるなど、
「テトリス」というブランドに対する信頼が、嫌すぎる現実を前に脆くも崩れ去る現場がそこにはあった。
しかし、生まれたのは悲劇だけではない。
先述の生放送における、お笑い芸人の絶妙なフォローによって、
これらのバグはある種の「ネタ」として生まれ変わった。いわば「超次元テトリス」として本作は視聴者に受け入れられたのだ。
放送中の本作のダウンロード報告がその証明と言えよう。
KOTYスレの本懐、「クソゲーのエンタテインメントへの昇華」を象徴する記念の一幕として、
この事件は住人たちの記憶に刻まれる運びとなった。

こうして1度俎上に載った本作であるが、「正」の側面だけではクソゲーの頂点には程遠い。
事実、オフラインでの問題報告が少なかったこともあり、
最初の選評時点ではあまり長期に話題にはならず、やがてアジトの台頭を経て年末になるころには、
本作は、住人たちから「選外」の意見も出るほどに軽んじられていた。

……しかし、本当にそれは正しいのか?

第2の勇者による詳細な検証報告が、運命を変えた。
「百聞は一プレイに如かず」。もたらされた情報は風向きを変え、年明けのスレに新たな嵐を引き起こした。
オンラインの「光」に隠れるかのように、深刻な「闇」が本作には内包されていたのだ。

新たに見つかったのは、テトリスに集中するプレイヤーを死角から襲う「地味ながらも凶悪な嫌がらせ」の数々だった。

手始めにCPU戦を楽しもうとしてみれば、そこに待つのは「まるで子供のような最強CPU」。
台パンもかくやといったけたたましい操作音はさすがCPUと言いたいが、
実のところそれは毎秒20連打のチートであり、
しかも速さについていけないのか、あっという間に自滅してしまう。
加えて、唐突にぷっつりと操作を停止する「試合放棄」まで搭載。
かつて無い斬新な個性だが、練習相手としては失格なのは言うまでもない。

それなら今度は己との戦い、とばかりにマラソンやエンドレスに手を出しても、ここにも罠が潜んでいる。
気が早過ぎる心拍音、反響全開のSEは鬱陶しいことこの上なく、気を紛らわそうにもBGMも変更不可。
操作性もまた、横移動のスピードを密かに遅くすることで的確に歯がゆさを生んでいる。
極めつけはゲームの方から能動的にミスを引き起こさんとする2段階のトラップだ。
第1段階は「視覚トラップ」。
本作のブロック消失エフェクトは非常に壮大であり、その時間の長さ故に、ゲームスピードが上がると次のブロックの落下が追いついてしまう。
すなわち、あたかも「ブロックを消した次の瞬間には、既に次のブロックが着弾している」ように見えてしまうのである。
テトリスに慣れているほど引っかかってしまうであろうこのトラップは、
上級プレイヤーの超絶反応に対するまさかの挑戦状である。だが、第2段階は更に先の次元を行く。
言うなれば「キング・クリムゾン」。
最高難度のテトリスは「生えゲー」と称されるほどの超速落下が見ものだが、
本作ではそれと同等、あるいはそれ以上の「ノータイム落下」が前兆もなくランダムに発生する。
つまり、今度は本当に「ブロックを置いたと思ったら、次のブロックが着弾している」のである。
ゲームスピードが上がるほどに発生頻度が上がることも相まって、
わけがわからないまま殺されることは必至であり、回避もほぼ不能。
もはや予知能力でも無ければ攻略不能なこのバグを見て、スレ住人達は気づいた。
本作の求めた「究極」とは、プレイヤーのこと。
この「テトリスのような何か」が抱える混沌は、まだ人類には早すぎたのだ、と。

***

以上2作品のノミネートを以って、2015年の大賞を発表しよう。
かつてない不作かと思われた本年だが、果たして最後に戦場に残ったのは、共に「クソゲー史」に
名を残すに相応しい、それぞれに強大な力を有した2大巨頭。

進化を繰り返し、終わりなき絶望へと遊ぶ者を誘う生きた《伝説》「AZITΩ」
クソゲーの持つ「光」と「闇」を内包し、混沌の力で30年の歴史を覆した《究極》の存在「テトアル」

新時代の王者の座をつかみとった勝者は……、

「アジト×タツノコレジェンズ」である。

今回のノミネート作のノミネート作たる所以は、いわばその「スケールの大きさ」にある。
「AZITΩ」の場合、それは全方位性ならぬ「全次元性」とでも言うべきか。
ただでさえ隙間なく問題が詰まっている中身に加えて、本作は「パッチによってクソさの形態が変化、
進化する」という「時間の変化に伴うバリエーション」を見せてくれた。
これまでにも時間の経過による変化を見せた作品はあったが、「はじめからすべてが崩壊している」状態を保ったままに
大転換を遂げたのは、おそらく本作が初めてであろう。
最終形態で見せた「発生率ほぼ100%のデータリセットバグ」にも注目したい。
苦痛に耐えながら歩んできたプレイヤーの「過去」を無に返し、
縛りプレイを強要することで「現在」の苦痛をさらに強め、
そして「未来」に待っていたはずの自由と成果すら消し飛ばしてしまう。
あらゆる時間軸において己の価値とプレイヤーを徹底して否定するという壮大さは、
歴代の王者に勝るとも劣らない強烈な個性といえよう。
一方で「テトアル」もまた「歴史的偉業性」という点でその壮大さを表現している。
「テトリス」という「古来より完成された存在」をクソゲーとして仕立てあげ、
ヨンパチ、ジャンライン、人生ゲームに連なる「安全神話の崩壊」に新たな1ページを刻んだ功績は、
間違いなく本作にしかない絶対の個性であろう。
加えて、「全世界同時公式クソゲー生実況」と、それに付随するネタ性もまた、
インパクト、唯一性ともに申し分なく、「テトアル」が如何に価値ある存在かを示している。
だが、それが「AZITΩ」と異なるのは、それがあくまで「ドラ」。
クソゲーとして語る上ではあくまで余談にしか過ぎないことである。
「テトアル」のクソゲーとしての本質は、あくまでブロックの理不尽な挙動によるプレイングの妨害。
そしてそれは明確かつ凶悪なクソ要素である一方で、検証に詳細なビデオ判定を要するなど、プレイヤーから遠すぎた。
最低限「テトリス」としての体裁が保たれていることもあり、その不具合の存在に気づかないまま、
「遊べてしまう」プレイヤーが多いことも確かである。
無論、不具合のない代替品がいくらでもある以上、無価値であることに変わりはないが、
クソゲーとしての普遍性にムラがある以上、「いつ、誰がやってもクソ」である「AZITΩ」には一歩及ばない。

よって、「純粋なクソさ」のスケールで勝る「AZITΩ」が、2015年の大賞に相応しいという結論に至った。

***

共に「クソゲー史」に残るべき傑物であった一方で、
長らく見過ごされ、戦場に至ることすら危ぶまれた2本のクソゲーたちは、勇者たちの活躍で、
無事その姿を明るみに出す運びとなった。
なぜ勇者たちは、自ら戦場にその身を投じてまで、クソゲーの真の姿を知ろうとするのだろうか。
おそらく、信じているのだろう。それこそが、ゲームへの「愛」なのだと。
レッテルや風評とともに歴史の闇に埋もれかけ、忘れられんとする真実を、
実際に目にし、語り継ぐことこそが、
本当にゲームと向き合う、ということなのだと。

クソゲーのレッテルを貼られた作品は、ただその汚名だけが独り歩きし、一般人には見捨てられ、
やがてワゴンの底で眠る寂しい生涯を送ることになる。ややもすれば、誰かの逆鱗に触れ、破壊されることすらあるかもしれない。
ゲームとは娯楽である。理不尽にネガティブな感情をもたらすクソゲーを選ぶ必要性はどこにもない。
だが、本当にそれで良いのだろうか。
その身に宿る真の姿はもしかしたら、作品を深く、長く遊んで初めて見えるのかもしれない。
もしかしたら、その評価を覆すこともあるかもしれない。
そうでなくとも、いまだかつて無い「伝説」が宿っているのかもしれない。ゲームの深奥は、
誰よりもゲームを遊びつくした者にしかわからない。
「アジト」の最終形態は、その圧倒的狂気の裏側で、フリーズ頻度の低下、ボイスや新要素の追加
など、愛される存在へと生まれ変わろうとする努力の痕跡が確かにあった。
もしかしたら、あの凶悪なリセットバグは、「見捨てないで欲しい。本当の自分の姿を見て欲しい」という、
人々に唾棄され、忘れられたゲームたちの魂の叫びだったのかもしれない。
なればこそ、勇者たちは今日も旅立つのだろう。誰からも愛されない命の、真の姿を明らかにするために。
たとえ拒まれようとも、騙されようとも、苦しめられようとも、その先には必ず、誰かの笑顔が待っていると信じて。
そしてこのスレが、そんな人知れず戦う勇者をいつでも迎える、温かい場所であり続けることを、切に願う。


最後に、今年度の検証において、身を削って多大なる貢献を果たした勇者たちを讃え、
彼らが見極めた大賞の姿を、
タツノコの名作「宇宙の騎士テッカマンブレード」になぞらえて、本年の締めくくりとしよう。

「あの、古の名作が遂にクソゲーになって登場!」
「アジト×タツノコレジェンズ!」
「本体の電源をつける時、またデータが死ぬ!」
「雰囲気真っ暗に、新品価格5500円で絶賛品薄中!」
「今、人生が暗い」

合成案1 (アジト×タツノコレジェンズ)

2014年は、KOTY(クソゲーオブザイヤー)において図らずも節目の年となった。
歴代最強と謳われた門番2作品を破り、見事大賞に輝いたのは『仮面ライダー サモンライド!』。
これまでのノミネート作を彷彿させる千変万化のフォームチェンジは、
スレ住人が歩んだ足跡をいとおしく振り返る、またとない機会を与えてくれた。
だが、その一方で、ダークヒーローによる痛快なピカレスクロマンは、住人の心に新たな問いを残していった。

はたして、クソゲーが出ることを喜んで良いのだろうか?

あのとき、我々は確かに停滞を打破する絶対強者の登場を望んでいた。
だが、本来であれば「クソゲーなんて1本も出ないのが一番良い」はずだ。

不作を望みながらも、なぜか、心の奥底では魔物が訪れることを願っている。
そんな矛盾を心の奥底に抱えながら、
我々はまた、どこかで咲いているであろう徒花を探しに出たのであった。

***

6月末のこと。
2015年の戦いは、「禁断の地」の発見から始まった。
それは、2012年の『太平洋の嵐』を彷彿させる、深い霧に包まれていた。

地の底に密かに築き上げられた、巨大な要塞、
Xbox One専用ソフト、『アジト×タツノコレジェンズ』(以下、「アジノコ」)である。

『アジト』と言えば、「秘密基地作成シミュレーション」という独自のジャンルを確立したPS時代の名シリーズ。
その名のとおり秘密基地を地下に建設し、怪人やヒーローを思うさま配置し、敵陣営と戦うゲームだ。
本作は、タツノコプロとのコラボを引っさげて現れたシリーズ最新作として、発売前から期待を寄せられていた。

しかし、3ヶ月の延期を経て発売した直後、ソフト本スレは阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。

「発売前日に公式サイトが強制終了バグの存在を発表」
「ダウンロード版が1日で販売停止」
「チュートリアルで詰んだ」
「戦闘機が地中を飛んでいる」
「何もしていないのに基地が勝手に壊れている」
「ボタン1回の操作ミスでセーブデータが吹き飛んだ」等々……。

まさしく、ご覧の有様であり、モノを売るというレベルではない。

「KOTYの選評書く気も起きないくらいクソゲーだから買わないほうがいい 」。

動乱のさなか、ソフト本スレ住人は吐き捨てるように言った。
実際、本作に特攻するスレ住人はなかなか現れず、検証は遅々として進まなかった。
というのも、まだ価格のこなれていない次世代機ということもあり、Xbox Oneの所有者が絶対的に少なかったのである。
もし本作をハード込みで買うとなれば、その値段は4万5千円を優に超える。
酔狂にしてはあまりに痛すぎる出費である。

とは言え、このまま選評が届かなければ、本作がKOTYの舞台に上がることはない。
伝説は伝説のまま、闇に消えてしまうのだろうか。

苦渋に苛まれながらも、スレ住人は立ち尽くすしかなかった。
後に戦況を打開する勇者が現れる、4ヶ月先まで……。

***

一方、それと並行して、予想だにしなかった珍事が起きていた。
誰もが知っていると同時に、あまりにもこの場にそぐわない、あの「不朽の名作」が姿を現したのだ。

天から降り注ぐブロックの流星群、
PS4/Xbox One用ダウンロードソフト、『テトリスアルティメット』(通称『テトアル』)。

テトリスといえば、言わずと知れた「落ち物パズル」の原点。
その生誕30周年記念を祝して作られたという本作が、よもや失敗作であろうはずもないだろう。
だが、半信半疑で検証を始めたスレ住人の目に飛び込んできたのは、
別の意味で記念作として相応しい、テトリスの常識を覆すカオスなオンラインモードであった。

プレイを開始すると、対戦を始める前から、
タイムアタックランキングの上位陣に0秒でクリアしたことになっている、
「試合開始まであと23時間待て」と表示される、など、不穏な空気が漂っている。
だが、対戦本番ではさらなる衝撃が待っていた。
一体、何が起きていたのか?
その様子を克明に描き出した事件があるので、一部始終を紹介しよう。

それは2015年7月13日、「ニコニコ生放送」にて、本作の販売元メーカー公式チャンネルにて起こった。
何を血迷ったのか、オンラインバグが各地で報告されている状況で何も手を打たないまま、
メーカー自ら全世界同時中継でプロモーション番組を配信してしまったのだ。

のちに語り草となる、【クソゲー公式生実況】である。

開始15分、どう見ても相手側のテトリスが上端まで積み上がっているのに死なない「ゾンビ」現象が起きる。
見てはいけない光景を前に凍り付く出演者一同。

「違うんですこれ! これ違うんです……違うんです……! 一戦目でぇぇぇ……!」
「勝ったんですけど、ずっとできるんですね……あっ、ウィニングランみたいな」

その後も、これが通常運行ですと言わんばかりにゾンビ現象が何度となく発生。
文字通りの死体蹴りが繰り返される中、次第に、ブロックの挙動も異臭を放ち始める。
消えたはずのラインがネオン広告のごとく高速で点滅する「エレクトリカルパレード」や、
消えたはずのラインが「消えたかな? いや、どうかな?」とでも言いたげに消滅と復活を繰り返す「踏み台昇降」が発生。
そんな中、今度はゾンビ現象とは逆に、相手側がまだ積み上がっていないのにいきなり決着してしまう。

「セコンドの方、タオル投げましたかね……」

対戦テトリスのルールに「TKO(テクニカルノックアウト)」が書き加えられた歴史的瞬間であった。
なお、最終試合も案の定ゾンビ現象が発生したが、テトリス名人が盤面を使ってアートを描くことで場を和ませ、
事なきを得たことを記しておこう。

この一件、2015年のクソゲー界を象徴するベストシーンと言っても過言ではないだろう。
17試合中15試合でバグが起きるという奇跡のシチュエーションについてもさることながら、
何より素晴らしかったのは、目の前の大惨事に対して懸命にツッコミ続け、笑いに昇華させようとしたキャストたちのプロ根性だ。
上記の模様を見て生放送中に購入したユーザーも少なからずおり、プロモーションとしては上々であったと言えるかも知れない。

だが、この後、本作の扱いを巡ってスレ住人は頭を悩ませることになる。
というのも、テトリスは一人プレイでも十分遊べるゲームであり、オンラインのクソ要素は不可避的なものではない。
一方、オフラインでのプレイを本格的に検証するには、テトリスに習熟したスレ住人の数が不足していた。
結果として、この段階では『テトアル』の扱いは宙に浮いたままになってしまった。

空には「究極」、地には「伝説」。
昨年とはまた違う、異様なムードの中で、2015年の緊迫した戦局が形成されつつあった。

***

『テトアル』がにわかに盛り上がりを見せる傍らで、
『アジノコ』は、同時期のパッチ配信によってひっそりと変貌を遂げていた。
バグで遊べなかった初期状態を第一形態だとすれば、
かろうじて遊べるようになったパッチ配信後はいわば第二形態。
この段になって、初めて本格的に検証が開始できる状態が整ったとも言えるだろう。

だが……様子がおかしい。

怨嗟の声が一向に収まらず、日に日にソフト本スレがゴーストタウンと化していく。
何か恐ろしいことが起きている予感がする。

そうこうしているうちに時は流れ、11月。
ある一人の勇者が、『アジノコ』の検証から帰ってきた。
数少ない購入者の一人が直前に失踪し、皆が希望を失いかけていた中での奇跡の生還であった

スレ住人の祝福の輪に囲まれながら、傷ついた勇者は静かに語り始めた。
その目には海よりも空よりも深い、地獄の淵を見てきたような闇が広がっていた。

***

『アジノコ』第二形態。
その実態は、かつてない絶望に包まれていた。

まずは、キャラゲーとしてのポイントを見てみよう。
なるほど、公式自らがアピールポイントとして挙げているタツノコキャラのドット絵はなかなかのクオリティだ。
……だが、本作の褒められる点はそれだけである。
顔グラフィックは原作アニメの切り抜きで、カットイン演出は原作アニメから版権音声を消した「無声動画」を数秒流すだけ。
ボイスについては原作キャストを完全無視し、全て専門学校の素人を起用している。
シナリオにいたっては、そもそも存在していると言えないレベルである。
本作には「会話」という概念がなく、誰も彼もがロボットのように2,3の持ち台詞を繰り返すだけ。
まるで、全員が壁に向かって喋っているかのような不気味な茶番を何度となく見ることになる。

では、キャラゲー面以外の特徴はどうだろう。
公式サイトで「敢えて時代に逆行した」と謳うだけのことはあり、
およそ、次世代機のソフトとは思えないコスト削減の限界に挑んでいる。
グラフィック、サウンドどころかテキスト、イベント、キャラクター、内部データにいたるまで、
ほぼ全面にわたって、20年近く前に発売されたPS版『アジト』の素材コピペの嵐だ。
旧作の怪人の声がタツノコロボに使われていたり、
旧作ヒロインの声をザコ怪人に流用したりと、フランケンシュタインの怪物さながらの腐臭を漂わせている。

このように、個々の構成要素からして胃が痛くなる本作であるが、
当然、と言うべきか、ゲーム内容はその上を行く脅威の全編発狂仕様だ。

大前提として、本作の基本は「待ちゲー」だ。
全面クリアまでの時間はおよそ100時間だが、その半分以上がプレイヤーに介入する余地のない待ち時間である。
リアルタイムシミュレーションなので多少の待ち時間は仕方ないところであるが、
本作の場合は何もしていない状況でしか時間が進行しないため、次の操作タイミングが来るまでただ待つしかない。
そして、これを踏まえた上でゲームの流れを簡単に説明すると、
基地の建設、資金集め、部隊の編成を行う「経営フェーズ」と
敵基地への侵攻や基地の防衛を行う「戦闘フェーズ」の2つの局面に分かれている。

まず、経営フェーズは、最初から最後まで、どのミッションでもやることがほぼ変わらない超耐久作業ゲーである。
チュートリアルが説明不足過ぎて最序盤こそ手探りだが、一度手法を確立したが最後、
30個のミッション全てでほぼ同じことを繰り返すルーチンワークが続く。
1つの行動につき数十連打が基本となる劣悪なUIも相まって、そのストレスは想像を絶する。
言うなれば、ベルトコンベアーで流れてきたものを無限に処理する工場労働のように殺伐とした気分で励むことになる。

かたや、戦闘フェーズはと言うと、
「侵攻戦」では幼稚園児なみのAIに悩まされ、「防衛戦」ではプレイする意味そのものに悩まされることになる。
まず、前者ではプレイヤーは撤退命令を出すことしか出来ず、主要なキャラが死ぬ前に退散できるよう常に監視する必要がある。
ところが、自キャラの大きさは米粒大なのに対して、敵基地の広さはテレビ画面にして十数枚分に相当する。
自動で補足する機能などついておらず、ひたすら手動でチビキャラを追いかけ回す「おもり」が続くことになるのだ。
そして、そんなプレイヤーの気苦労を尻目に、味方ユニットは不条理な奇行を繰り返す。
信じて送り出したタツノコキャラたちは、「司令室を爆破する」という単純な命令すら理解せず、
行きがかりの部屋に爆弾を置いただけでさっさと帰還してしまう。
脇道を見つけるたび、「みっけ!」とばかりに単身乗り込んでいき、一人ずつ袋叩きにされて各個撃破されていく。
言ってしまえば、タツノコではなくアホの子である。

後者の防衛戦はと言えば、基地に入る前の段階で、タツノコ系のロボが全自動で敵軍を壊滅させてしまう。
せっかく罠や迷路作りに凝っても、これではただの徒労である。
よしんば基地内に侵入されても、白衣の研究員を数十人並べてリンチしたり、エレベータ待ちの敵を背後から撲殺したりといった、
非人道的な攻略法によって無傷で完勝することが可能だ。
むろん、これらを封印することもできるが、先に挙げた経営フェーズの苦行が余計に長引くだけで、楽しみは全く増えない。
何より、敗北によって数時間の作業が無駄になるリスクを考えれば安全策以外取り得ないのが実情である。
突き詰めれば、「いったい何のためにこのゲームをプレイしているのか」という根本的な疑問に立ち返ることになるだろう。

最後に、ここまで耐えたプレイヤーにとどめを指すのがバグの存在だ。
パッチによる改善はあくまで、「かろうじて遊べるようになった」程度であり、
「聞こえるはずのない声が聞こえる」、
「いないはずの人がいる」、
「いてはいけない場所に人がいる」、
といった、ホラー映画のキャッチコピーじみた怪奇現象は依然として健在。
それどころか、数々の進行不能バグ、フリーズも残っており、
オートセーブの無い仕様も相まって、2,3時間に及ぶプレイが一瞬で吹き飛ばされる危険が潜んでいる。
巨大ロボと一緒にエレベーターが天井を突き破って飛んでいく「天元突破エレベーター」など、一見笑えるバグも中にはあった。
だが、これも含めたほとんどのバグに深刻な実害があり、最終的には乾いた笑いしか出なくなってしまう。

ともあれ、こうして少しずつ、『アジノコ』の全容が明らかになりつつあった。
日に日に疲弊していく勇者の体調を気にかけながらも、検証終了に向けて一丸となって応援するスレ住人たち。
選評執筆にもめどが立ち、ようやく終わりが見えてきた……はずだった。

「こんな時期に新パッチ来たんだが」

11月17日、あの運命の時が訪れるまでは……。

***

突然のパッチ配信の知らせにスレ住人は総毛立った。

まさか、さらに凶悪になるのか?
いや、今度こそ、良い方に生まれ変わるはずだ。

祈りにも似た気持ちで待った結果、スレ住人はさらなる絶望のどん底に突き落とされることになる。

『アジノコ』第三形態、
最後の審判の時である。

このパッチではフリーズの頻度が改善され、グラフィックやボイスの素材も追加された。
だが、それと同時に、ある一つの特大バグが混入してしまった。

「セーブデータが毎回リセットされる」。

ゲームを終了し、再開するたびに、100%の再現率で、
ミッションの進行度合いは変わらないまま、手に入れたタツノコユニットの全てが忽然と姿を消してしまうのである。

RPGに例えれば、
「シナリオが進んだ状態でセーブ&ロードすると、毎回、装備やレベルだけが初期データにリセットされる」
という事態に等しい。むろん、通常プレイの範疇では詰みである。

プレイしてもプレイしても、苦心して進めたはずのデータが眼前で消えてしまう。
勇者は、震える声でこう紡いだ。

これは、【賽の河原】のようだ、と。
石を積むたび、地獄の鬼があざ笑うかのようにやってきて、一つ残らず崩していくのだ、と。

人が労働に耐えるためには、自分が着実に何かを果たしているという「達成感」が不可欠である。
その達成感すら奪われては、苦行に耐える価値を一体どこに見いだせばよいと言うのだろうか。

このバグを回避する方法は現在のところ見つかっておらず、
「初期データ縛り」か、「ゲーム終了不可縛り」かの2択でしかクリアできない。
だが、前者を選ぼうにも、本作のゲームバランスは「タツノコ>それ以外」であり、
タツノコユニットなしで進めるのは絶望的だ。
後者を選べば、数十日かけて進めたデータが、
ただ一度のフリーズや進行不能バグによって水泡に帰してしまう。

どちらを選んでも、その先には絶望しかなかった。

それでも、最終的に、72日間もの死闘の末に勇者は本作を制することに成功した。
だが、そこに笑顔はなかった。
……本作にEDがないことは、以前から薄々わかっていたことだった。

勇者の特攻を皮切りに何人か本作への挑戦者が現れたが、
2016年4月現在、この「賽の河原」バグは未だ修正されていない。
本作が数多の問題点を修正し、皆に笑顔で受け入れられる「第四形態」に変わる日を願ってやまない。

***

『アジノコ』との決着に前後して、
もう一つの宿敵との戦いも佳境を迎えようとしていた。

『テトアル』である。

本作はクソゲーであるのか。
年をまたいで1月になってもなお、その結論は未だ出ていなかったのだ。
本作のオンラインには確かに、クソ要素に起因する類い稀なネタ性があった。
だが、先にも述べたとおり、オフライン部分が検証されなければ裁定を下すことは出来ない。
再検証ではこの点が大きな争点となり、慎重に進められていった。

まずメスが入ったのは、一人プレイ時の各モードの仕様である。

バトルモードでまず着目されたのは、クスリでもキメているかのような最強CPUの存在だ。
毎秒20連打という圧倒的なチート性能によってプレイヤーを一方的に叩きのめすのだが、
自分自身もその速さについていけないのか、あっという間に自滅してしまう。
それに加えて、CPU全員が唐突に操作を投げ出し、自殺を待つだけの状態になってしまう「試合放棄」バグも明らかになった。
接待プレイでも実装したつもりなのかもしれないが、全くもって余計なお世話である。

一方で耐久モードに手を出すと、演出や操作感の悪さがプレイヤーを苦しめる。
妙に不安をあおる心拍音のSEが鬱陶しいことこの上なく、BGMも異様なまでの鬱曲で固定。
また、ラインを揃えると光輝く壮大なエフェクトが付くのだが、
壮大すぎてエフェクトの最中に次のブロックが落ちるため、タイミングを取りづらいことこの上ない
操作性もまた、横移動のスピードが他のテトリスに比べて4倍遅いというセルフハンディキャップ仕様だ。

オンラインで凄まじい壊れっぷりを見せただけのことはあり、やはりポテンシャルはあったと言えよう。
だが、ここまでの議論では大勢を決することはできなかった。
なぜ数多のテトリスプレイヤーを本作を唾棄したのか、その勘所が見えてこなかったのだ。

転機となったのは、本作発売当初、テトアル本スレに書き込まれていた、ある一つの書き込みであった。

「時々、次のブロックが降り始めるまでの猶予がなくなることがあるよな。
 レベルが上がると発生しやすくなる。エンドレスモードは大体これが原因で殺される」。

……そんな馬鹿な。
前述の壮大なエフェクトがもたらす目の錯覚であろう。当初はそう思われていた。
だが、確認のため、検証者が録画映像を一つ一つ洗い直した結果、驚愕の事実が判明した。

本当に、時間が飛んでいるのだ。

ラインを消去したと同時に、次のブロックが下に着いている。
ブロックを置いたと同時に、次のブロックが下に着いている。
秒間60コマの録画をスロー再生すると、不定期にこれらのバグが起きている決定的瞬間がまざまざと映っていた。

これまでにも、『テトリス ザ・グランドマスター』などの上級者向けテトリスにおいて、
ブロックの落下が瞬間的になることはあった。俗に、「地面からブロックが生える」と言われる状態である。
だが、それらとて最低限、操作の合間の「猶予時間」は保証していたことを強調しておきたい。
そうでなければただの操作不能ゲーと化すからだ。
それに対して、本作ではそういった猶予時間が消し飛んでしまう。
プレイヤーが知覚できないまま、気づいたときにはブロックが既に着地しているのだ。

このバグはゲームスピードが上がるほどに発生頻度が上がり、
一つの誤操作すら命取りになる高レベル帯においては確実な致命傷になる。
しかし、実際に起きたとしてもプレイヤーはわけがわからないまま死ぬこと必至であり、
これまでの検証で見過ごされてきたのも道理であろう。
常人には知覚すら出来ずに殺されるのだから。

もはや第六感でもなければ攻略不能なこのバグが確認されたことで、スレ住人は、はっと気が付かされた。
本作は「究極」すぎる。まだ人類には早すぎる。
「テトリス」ではなく突き抜けた何か……いわば、『テトリヌ』であったのだ、と。

この一件により、オンラインの「光」に隠されていた本作の深い「闇」が暴かれたと言えよう。
異例と言える長期間の審議を経たものの、本作は無事、恥の殿堂に奉納されたのであった。

***

さて、以上2つが本年のノミネート作品である。
役者が揃ったところで本年の大賞発表をしよう。

不作かとも思われた2015年であったが、終わってみれば要らぬ心配であったと言えよう。
現れた両雄は、例年であれば何作かに分かたれるはずの不幸のエッセンスを凝縮し、
見たこともないほど強大な存在に結実していた。

進化を繰り返し、終わりなき絶望へとプレイヤーをいざなう《伝説》の魔王城『アジノコ』。
クソゲーの持つ「光」と「闇」を内包し、混沌の力で30年の歴史を覆した《究極》の戦士『テトアル』。
純粋なるエネルギーとエネルギーのぶつかり合いが、激しく火花を散らし、
あらゆるものを飲み込んで破滅させていく。

万物創成の様相をなしたこの新たなる神話の戦いを制し、新世界の領主として名乗りを上げたのは……

『アジト×タツノコレジェンズ』である。

今回のノミネート作品2つに通底するキーワード……それは「スケールの大きさ」である。

『アジノコ』は何と言っても、質量ともに近年まれに見る最大級のクソゲーである。
本作は、膨大なクソ要素の「広がり」と、どこまで掘ってもまるで全容が見えてこない「深み」を兼ね備えていた。
さらに、そうした「空間」的な重厚さのみならず、
5ヶ月にわたって第一形態、第二形態、第三形態と進化する「時間」的な長大さも併せ持っていた。
いわば、クソゲー界における「時空の覇者」とでも言おうか。

一方、『テトアル』は、存在そのものが壮大な歴史的偉業に他ならない。
本作は対戦テトリスのルールを再定義するオンライン対戦バグの数々から始まり、
最終的には、テトリスのルールそのものを根底から否定する「時間消失バグ」を生み出した。
これまでにもADVという安全地帯を蹂躙した『四八』、テーブルゲームという安牌を脅かした『ジャンライン』があったが、
三十余年続くテトリスという「安全神話」を完膚なきまでに粉砕した本作の功績は、それらと比しても一際大きいと言える。

両雄とも稀代の英傑であり、この段階ではどちらが勝ってもおかしくないと言えるだろう。
そんな中、勝負の明暗を分けた点……

それは、『アジノコ』が「最小限の労力で最大限の苦痛を作り上げたこと」である。

最小限の労力とは、とりもなおさず「手抜き」のことを指す。
本作は、「全員素人ボイス」や「無声動画」からもわかる通り真っ当にキャラゲーを作る気が一切なく、
かといってゲームバランスは無調整で、素材は大部分が20年近く前のゲームからの流用だ。
とにかく、作品を良くしようとする欲目を一切見せず、徹底してコスト削減だけにいそしんでいる。
この通り、「こだわり抜いた妥協」こそが本作最大の特徴と言えよう。

一般に、おざなりに作られたゲームというものは、
良くも悪くも、味わいの薄さやボリュームの無さが際立つことが多い。
裏返せばそれは、ネタ性の裏付けになる痛みや苦しみに欠ける、ということを意味する。
「災い転じて福となす」、がKOTYの理念であるが、
はなから「災い」があまりにも無いものについてはいじりの甲斐がないのだ。
これまでにも手抜きが高じて壇上に上がったノミネート作品は何作かあったが、
虚無を極めれば極めるほどに苦痛が薄くなり、大賞議論の場から離れていくというジレンマを抱えていた。

だが、本作は明確に違った。

開発に注がれたエネルギーはどう見ても「最小限」であるにも関わらず、
プレイヤー側には「最大限」の苦痛を強いることに成功しているのだ。
データだけ切り貼りしてUIやゲームバランスの工夫を投げ出すことで、「100時間耐久ルーチンワーク」のゲーム性を創出し、
テストプレイという義務を否定することで、「賽の河原」バグという史上最悪級の大問題を生み出している。
いわば、「無」から転じて「有」を生み出す「ビッグバン」的クソゲー。
相反する二つの要素を併せ持つ『アジノコ』は、「無」を持たない『テトアル』に対して一枚上手であると言えよう。
以上から、2015年の大賞を『アジノコ』に与えるものとする。

***

タツノコプロと言えば、タイムボカンシリーズに登場する「三悪」がつとに有名だ。
目先の欲望から悪だくみに走り、毎度人々を困らせるものの、すぐに露見して手痛いしっぺ返しを食らう。
そんな、永遠の憎まれ役。
だが、三悪がいたからこそ、ヒーローたちの物語は輝いていた。
影があってこそ映える光であり、悪があってこそ引き立つ正義なのである。

思えば、クソゲーもまた、三悪に相通ずるところがあるのではなかろうか。
そして、冒頭で述べた矛盾に対する一つの答えが、そこにあるのではないだろうか。

クソゲーそのものは、買った人々を不幸にする忌むべき存在である。
だが、クソゲーを通じて人は、憤りを機知に昇華し、苦しみをおどけに転じることができる。
そうして結局、誰も憎むことのない、笑顔に満ちた世界が形作られるのだ。
この不思議なパラドックスに我々はいつも心惹かれてきた。
だからこそ我々は、
クソゲーが生まれることを悲しみながらも、
心のどこかで新たなクソゲーを待ち望んでしまうのだろう。

「負けない。くじけない。何度もよみがえる」。

クソゲーにはこれからも、三悪のようなしたたかな悪役であり続けてほしい。

それはそれとして、検証者の一人として実際に本作をクリアした筆者の率直な感想を、
往年の名作にしてタツノコプロの代表作「ヤッターマン」の決め台詞から拝借することで、本年の締めくくりとしたい。

「勝利のポーズ! ヤッター、ヤッター……やってられんわ!!!!」