2007年の覇者『四八(仮)』がクソゲーオブザイヤーに与えたショックはあまりにも大きかった。
物語、システム、バグ、メーカー対応、制作者……全方位に渡って王者の風格を見せつけての完全制覇。
クソゲーが出にくいADVというジャンルで起こった未曾有の大災厄は、住人の心にある一つの不安を残していった。
「四八(仮)の前ではどんなクソゲーも霞んで見え、以前の様に楽しむ事は出来ないのでは」と。
そんな中、2008年の開幕投手を務めたのが『メジャーWii 投げろ!ジャイロボール!!』だ。
投げた瞬間に分かるストライク判定、投打に必ず挿入されるキャンセル不能のデモ、おまけと言わんばかりの極限にまで圧縮されたストーリー。
一試合に二時間以上かかるというリアリティは最早ネタとしても楽しめる範疇に無く、むしろゲーム自体を「投げろ!」と言う心の声との戦いを強いられる。
”ひょっとすると今年も何かが来るかも知れぬ”……そんな予感をはらむ幕開けとなった。
続いて現れたのが、数ある推理小説のノウハウを一切無視した意欲的な「本格推理ADV」である『奈落の城 一柳和、2度目の受難』。
推理の余地もなく総当りしかない捜査、見にくく迷って酔うばかりの3D移動、解読不可の暗号、行方不明者を放置したままの脱出劇。
挙句の果てには、死んだはずの人物が平気で屋敷内を歩いており自身の死について尋ねると「テキストがまだ無い」と語るなど、
ミステリーの意味を取り違えたとしか思えない、どんでん返しの域を越えた衝撃的展開の前にはどんな名探偵も奈落の底へ真っ逆さまだろう。
だが、未だ「四八ショック」から立ち直りきれない住人は「"オブザイヤー"がこの程度ではあるまい」と身構え、手放しで喜ぶことはなかった。
これ以降朗報は途絶え、06年以前ならノミネートされてもおかしくなかったソフトがことごとくスルーされていった。
長い干ばつに飢えるKOTYに恵みの雨が降り注いだのは6月のこと。二年の長きに渡り延期を重ねた超大作、『大奥記』の上洛である。
大奥での女の争いという需要不明な題材で、膨大な空き部屋とロードに耐えつつ聞き込みをする「延々サマルトリアの王子を探すだけ」の内容。
歩行はホバリングで襖は自動ドア、キャラは終始無表情で、果てにはプレイヤーを江戸時代から一気に現実世界に引き戻す「これkら」という誤字。
二年も時間をかけたのは尻のポリゴンだけなのかと思える質素さに、開発会社が関与に否定的な発言をする「リアル申し開き」を始める有様。
さすがに、ファミ通レビューでクソゲー界の征夷大将軍『デスクリムゾン』に並ぶ13点を叩き出した前評判は伊達ではなく、
上半期の作品ながら今年はこれで決まりかと皆が思い始めていた。クソゲーが『真の地獄』の片鱗を見せ始める9月までは……
その先鋒となったのはXbox360向け麻雀ソフト『ジャンライン』。本作はテーブルゲーム、つまりADV以上にクソゲーになり得ないジャンルである。
だが蓋を開けてみれば、フリーズ頻発、点数計算の表示異常、同プレイヤー同士での連戦不可。発売当日には公式サイトに謝罪文が載った。
素人ボイスをDL販売するも返金騒動となり、公式ブログ作者は麻雀素人であることを自白。「安牌」を掴んだはずが、まさかの核地雷であった。
突然の波乱に沸くスレに、老舗・IF(アイディアファクトリー)も満を持して刺客を送った。『神代學園幻光録 クル・ヌ・ギ・ア』(通称「ヌギャー」)である。
転生學園シリーズの絵師をパッケージに起用し、タイトルも似せて同作品のファン層を狙ったが、本編に関連性は一切なく、学園物ですらない。
出会った瞬間に恋人になるというスピーディーな電波シナリオで、クリアまで僅か6時間。ラスボスを含め殆どの戦闘が麻痺させてオートで済む。
合体技では痛々しい掛け合いと共にシュールな静止画が15秒間表示され、決め台詞は「ゆゆうじょうパパワー!」(=友情パワー)と壮絶にずれる。
常に低品質ながら一線は越えないという定評があったIFだが、今作はコンセプト、シナリオ、システム、など「どこを切ってもクソ」という隙の無さで、
購入者をして「買って数千円をドブに捨てたいのなら、実際にドブに捨てる方が時間の浪費が無いだけ建設的」とまで言わしめた。
息もつかせぬ波状攻撃はさらに続く。『プロゴルファー猿』がファミ通レビュー史上初のオール3点の快挙を引っ提げ参戦した。
この偉業に対して同編集部も「現代で、こういうゲームに出会えるのは、ある意味貴重」と、讃辞を惜しまない。
誰がどう打っても数ヶ所しかない定位置に球が落ちるというすごろくのようなシステムで、メーカー曰く「ゴルフゲーム」でなく「なりきりゲーム」である。
キャラゲーなのにストーリーモードはなく、使えるキャラは原作ファンが首を傾げそうな微妙な人選の6人。開始からエンディングまで約10分である。
バグやフリーズ等の問題を抱えた他のクソゲーとは対照的に、「仕様通り問題なく完成している(と思われる)のにクソ」と言う男らしい姿勢がスレを沸かせ、
そんな内容を想像させないPVの素晴らしいクオリティーは、「ワイは詐欺や! プロモーション詐欺や!」という改変コピペで讃えられた。
こうして飽食ムードで審議に入ろうとしていた12月であったが、またもや波乱が起きた。
これまでの強豪たちを一蹴するかのごとく強力な二体の「魔物」が降臨したのである。
「年末には魔物が潜む」……この法則は今年も健在だったと言えよう。
一体目の魔物は、修正パッチを当てることによりクソゲーとしてさらなる「進化」を遂げた『ジャンライン』。
元来パッチはゲームの修正・改善の為にあり、クソゲーやバグゲーを出したメーカーに残されたオンライン時代ならではの選択肢である。
今年も、未出走馬が優勝、「0着」の存在、超絶ラグのオンライン対戦等を搭載した『ダービータイム オンライン』が修正され選外となった。
だが、そんな「後でパッチで直せばいいや」と言う悪しき風潮に警鐘を鳴らすべく、ジャンラインはパッチによって全く逆方向へと変貌したのだ。
麻雀は本来「同じ色や柄・数字の牌を集めて役(上がり条件)を作る」というルールなのだが、揃えた牌に突然違うものが混じっていたり、
他人の手牌を勝手に奪って牌の数がバグる「亜空カン」や、役が完成し、上がった瞬間なぜか順番外のプレイヤーが上がってしまう「先ヅモ」等、
ジャンラインはもはやルール以前に全てが崩壊していた。メインメニューに戻る選択肢に「はい」が3つ並ぶ理不尽仕様も忘れがたい。
フリーズは直るどころか頻度が激増、十字キー入れっぱなしで簡単に再現でき、オンライン対戦の切断ペナルティが深刻化した。
ファミコン時代から各社が研究を重ねている「麻雀ゲーム」とは明らかに一線(ジャンライン)を画する『四次元麻雀』がそこに存在していた。
プレイヤーを阿鼻叫喚の渦に陥れた開発会社のレコムは公式掲示板とブログを閉鎖し、社員から「覚悟しています」と言われたという本スレの電凸報告や
キモ可愛さで一躍スレ住人の心を掴んだ有料追加キャラ《ジャッシー》等、更なる炎上を引き起こすホットな話題を我々に提供し続けた。
二体目の魔物は、タイトルの通り2008年のKOTYのクローザーの座を狙うかの如く現れた『メジャーWii パーフェクトクローザー』(通称「メジャー2」)。
今年の開幕投手を務め、DSでもハイレベルなクソゲーを出して中継ぎを終えたばかりのメジャーが、脅威のトリプルヘッダーを成し遂げたのだ。
開発会社にクソゲーマイスターとして名高い「ドリームファクトリー」(ドリフ)を選択したことからもタカラトミーの本気が伺えるだろう。
ドリフ側もプログラマー3人という製作体制で見事これに応え、「追求したのは、本格野球ゲーム」と豪語するその出来は、確かに一味違った。
まずは《走》。走者は一切操作できず、勝手に盗塁しては犬死にを繰り返し、犠牲フライはタッチアップ無しで得点として認められる等やりたい放題。
続いて《攻》。打球が砲丸のように重く、落ちてすぐ止まる一方で、垂直にぶつかった球が斜めに反射し、3イニングに10本の割合で本塁打が飛ぶ。
そして《守》。野手はフェンス直撃のライナーを追い掛けて壁を突き抜けたり、後逸した球を即座に諦めて棒立ちになったり、別の意味で目が離せない。
塁審は一人も存在せず、ファール球が跳ね返ってフェアになったり、3バント失敗がアウトにならないといったルールの誤解が公然とまかり通っている。
ストーリーは原作を尊重し、最終戦では例え5対2で勝っていてもその点差のまま延長戦になり、逆転負けしても勝ちルートのエンディングに突入する。
悪送球を野手が取り損ねた瞬間に映像が乱れてアウトになったり、謎の動きで1キャッチで2アウトを取る通称「ジャイロキャッチ」等バグも完備である。
続々と明らかにされていく「本格野球」にスレ住人のボルテージが高まっていく中、ある一連のバグが発覚したことでついにそれが最高潮に達した。
そこには、キャッチャーが防具を脱ぎ、審判がピッチャーに背を向け、これまた後ろ向きのバッターが何もない空間からセンターに向けて快打を飛ばし、
捕球やベースカバーどころか全く動かない棒立ちの野手を尻目にキャッチャーが一人でセンター前ヒットを追いかけるという未知の光景が広がっていた。
果てには主人公・吾郎の首までもが180度捻れた状態で発見され、球審は説明書の豪快な誤植から《ジョージ・ケツメル(十字・決める)》と命名された。
運命の悪戯か、皮肉にも最後は違う年に生まれていればそれぞれ栄冠を勝ち得たであろう二本の一騎打ちとなった。
このKOTY史に残る名勝負を制し、2008年大賞に輝いたソフト――それは『メジャーWii パーフェクトクローザー』である。
揃って尻を向ける審判と打者や、センター前キャッチャーゴロなど、一度見たら忘れられない強烈なインパクトはスレはおろか外部でも話題沸騰し、
大晦日には公式サイトが謎のパスワード制になる等、最後の最後までKOTYスレを沸かせ続けたその圧倒的なポテンシャルは怪物と言うよりほかない。
また、同時期にメジャー劇場版公開を控えた絶妙のタイミングで子供たちに全力でクソを投げつけた非情さと
見る者を笑わせ、やってみたいとさえ思わせる爽やかさを併せ持った、まさに至高のクソゲーであると言えよう。
だが、先述通りメジャー2と別の年ならば栄冠を得たであろうジャンラインの異形……もとい偉業も決して忘れてはならないのも事実である。
実力は決して劣るものではないが、麻雀ルールの敷居の高さや、感覚的に「クソゲー」よりもPCの「クソアプリ」に近いという点が災いした。
それらはテーブルゲームというジャンルにおける宿命であり、勝負がここまでもつれこまなければ争点となることもなかったであろう。
2008年は前年王者が与えた「四八ショック」と共に始まった。凡庸なクソゲーでは最早満足できないのではないかという、不安に包まれた幕開けだった。
だが、「七英雄」と呼ばれる『メジャー』、『奈落』、『大奥記』、『ヌギャー』、『猿』、『ジャンライン』、『メジャー2』の7作は
いずれも並の年であれば大賞を狙える出来であり、終わってみれば当初の不安とは裏腹に実りの多い年であったと言えるだろう。
特に『猿』は「不条理」ではない純粋なる「無価値」を追究し、『ジャンライン』はパッチによって「進化」する新時代のクソゲーのあり方を示した。
そして『メジャー2』は「コンボイの謎」から続くキャラゲー地雷の老舗・タカラトミーと、クソゲーマイスターと呼ばれたドリームファクトリーの
二つの巨星の名に恥じない、キャラゲーとしてもクソゲーとしても規格外の純粋なる「クソ」の金字塔として、見事その宿命を全うした。
DS用ソフトも含めると、年に3度もファンと原作者に煮え湯を飲ませ続けたその投手リレーは、長く人々の記憶に残ることであろう。
最後に、大賞に輝いた『メジャーWii パーフェクトクローザー』の原作から、茂野吾郎のセリフを借りて2008年クソゲーオブザイヤーを締めくくりたい。
「メーカーをタカラトミーに、開発をドリフにされたら・・・ゲームにならねーんだよ!」