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2014年のKOTY(クソゲーオブザイヤー)は、
二大巨頭の睨み合いに割って入ったヒーローが、劇的な勝利を収めた。
『仮面ライダー サモンライド!』……。
歴代ノミネート作の魂を宿し、見るものを魅了する稀代の「劇場型クソゲー」であった。
そして、そんなヒーローの姿にかつての強敵(とも)たちの面影を見出しながら、
我々は、かつて思い悩んだ自らの在り方について確かな答えを得ていた。
誰よりもクソゲーのことを深く知ろうとする我々だからこそ、
誰よりもクソゲーのことを愛することができる。
クソゲーを語ることは、間違っていなかったのだ、と。
高騰する開発費、日々減るゲームの発売本数……。
この修羅の道がどこかで途絶えぬ保障など、何もない。
それでももう、立ち止まることはないだろう。
まだ見ぬ不幸の徒花を探して、我々は2015年の旅に出た。
***
2015年、最初に発見されたクソゲーは、あまりにも「意外」であった。
PS4/Xbox One用ダウンロードソフト、『テトリスアルティメット』(通称「テトアル」)。
本作の情報がスレに飛び込んできたとき、誰もが耳を疑った。
というのも、あの「テトリス」。
公式に定められた仕様が存在しており、本来的にクソゲーになりようがないジャンルである。
だが、「百聞は一プレイに如かず」。
最初にオンライン周りで、次いで一人プレイでの検証を進めた結果、スレで出された結論は、
「本作はテトリスではなく突き抜けた何か、いわば、『テトリヌ』である」というものであった。
まずは一人プレイでの特徴を見ていこう。
本作が壇上に上がった第一の要因は、その【究極すぎる難度】にある。
一般的に、テトリスは、プレイし続けると徐々にゲームスピードが速くなるものだ。
だが、本作の場合、あまりにも速くなりすぎて光の速度を超えてしまうのか、
時折、≪時間が飛ぶ≫という怪現象が起きる。
ラインを消去したと思ったら、次のブロックが下に着いていた……。
ブロックを置いたと思ったら、いつの間にか、次のブロックも同時に置かれていた……。
何を言っているかわからないかもしれないが、誤解や錯覚では断じてない。
秒間60コマの録画でビデオ判定された結果、これらのバグが起きている決定的瞬間が確認されたのである。
これまでにも高難度のテトリスは存在した。
テトリスという単純なゲームを難しくするためにメーカーは工夫を凝らし、プレイヤーもそれに真摯に応じてきた。
だが本作のように、プレイヤーが頑張れば頑張るほどゲームの動作が怪しくなり、
バグによって半強制的にゲームオーバーに追いやられるという超難度には、誰も納得しないだろう。
【ユニークな演出】もまた味わい深い。
グラフィックについては次世代機らしさを意識したのか、ラインを揃えると光輝く壮大なエフェクトが付く。
あまりに壮大過ぎて光の海が消えない中、待ち切れずに次のブロックがボチャンと飛び込んでいく様子は鬱陶しいことこの上ない。
サウンドに関しても独自路線をとっている。
BGMはテトリス定番のロシア民謡のアレンジだが、モードごとに完全固定で、ゲーム全体を通しても全3曲。
悲壮感漂うアレンジと、「ドクン、ドクン……」と不安を煽り立てる迫真のSEとが相まって、
まるでテトリスに誰か殺されたかのような異様な雰囲気を醸し出している。
問題点はまだまだ積み上がる。
続いて、【カオスなコンピュータ対戦】について説明しよう。
本作では強さ別の4種類のAIと対戦できるが、そこでプレイヤーは異様な光景を目にすることになる。
一つは、セミのようにやかましく儚い、最強AIの存在だ。
試合開始から高橋名人の全盛期を軽く超える秒間20連打で猛然と積みはじめ、
けたたましい操作音を立てながらひとりでに自爆していくその姿に誰もが圧倒されることだろう。
そしてもう一つ、プレイヤーを唖然とさせる点が、
対戦テトリス史上初と思われる≪試合放棄≫現象である。
接待プレイでも実装したつもりなのか、本作のAIは、対戦中にいきなり勝負を投げ出してしまうことがある。
糸が切れたようにぷっつりと操作をやめ、ただじっと自殺を待つ光景は、見る者に強烈な印象を与えるものになっている。
以上の通り、一人でプレイしてもアルティメットすぎる本作であるが、
信じがたいことに、多人数でプレイすることでさらなるアルティメットぶりを見せつける。
以下、【史上最低クォリティのオンラインモード】について述べよう。
プレイヤーはまず、各種ランキングが盛大にバグっていることに嫌な予感を抱くことだろう。
40ライン揃えるまでのタイムアタックを0秒や1秒でクリアした、といった不正なスコアが上位に鎮座している。
そして、オンライン対戦を有効にすることでその予感は的中する。
まず、国内Xbox One版ではそもそも試合開始にこぎつけることすらできず、
「対戦開始まであと23時間待て」といった衝撃的な指示が画面に表示される。
一方、PS4版では多少プレイ人口が多いのか、繋がるには繋がるのだが、
そこに待っていたのはまた地獄……いや、地獄のそのまた最下層にあるコキュートスそのものであった。
その光景を克明に描き出した事件があるので、一部始終を紹介しよう。
それは2015年7月13日、「ニコニコ生放送」にて、本作の販売元メーカー公式チャンネルにて起こった。
何を血迷ったのか、オンラインバグ未修正の本作のプロモーションを、
メーカー自ら、全世界同時中継で配信してしまったのだ。
司会進行役のお笑い芸人、メーカーの女性スタッフ、そして対戦テトリス名人の3人で行われた本番組……。
のちに語り草となる、≪クソゲー公式生実況≫である。
冒頭15分、どう見ても相手側のテトリスが上端まで積み上がっているのに死なない「ゾンビ」現象が起きる。
見てはいけない光景を前に凍り付く三人。
「違うんですこれ! これ違うんです……違うんです……! 一戦目でぇぇぇ……!」
そんな女性スタッフの悲鳴をよそに、その後も仕切り直しのたびにゾンビ現象が発生し、淡々と死体蹴りが行われる。
「勝ったんですけど、ずっとできるんですね……あっ、ウィニングランみたいな」
そうこうしているうちに異常な光景にも徐々に慣れ始めた三人であったが、
次はブロックの挙動が異臭を放ち始める。
消えたはずのラインが高速で明滅し、ネオン広告のごとく強烈な存在感を放ち続ける「エレクトリカルパレード」や、
消えたはずのラインが「消えたかな? いや、どうかな?」とでも言いたげに消滅と復活を高速で繰り返す「踏み台昇降」が発生。
そんな中、今度はゾンビ現象とは逆に、相手側がまだ積み上がっていないのにいきなり決着してしまう。
一同しばし絶句の後、起死回生のフォロー。
「セコンドの方、タオル投げましたかね……?」
対戦テトリスのルールに「TKO(テクニカルノックアウト)」が書き加えられた歴史的瞬間であった。
なお、最終試合も案の定、ゾンビ現象が発生してグダグダになりかけたが、
テトリス名人が盤面を使ってアートを描くことで場を和ませ、事なきを得たことを記しておこう。
こうして、1時間連続、17試合中15試合で何かが起きるという前代未聞の放送事故が終了したのであった。
この事件、バグを直しきれなかった開発陣に最大の過失があったことは言うまでもない。
だが、よりによってそれを全世界生中継の場で発露させる神のいたずらは、あまりにも、あまりにも容赦ないと言えよう。
ともあれ、この奇跡の光景が2015年のクソゲー界を象徴するベストシーンであることは間違いない。
「一体全体、テトリスをどう作ったらクソゲーになるんだよ」という驚嘆の声とともに、
本作は無事、恥の殿堂に奉納されたのであった。
***
「不作」と言う言葉がある。
期待したほどクソゲーが出なかったことを指す、不謹慎な言葉だ。
2015年、11月を迎えた時点で選評が提出されていたのは『テトアル』一本しかなく、
それすらも未だ審議中の状態であった。
このまま終わるならば、例年と比べて穏やかな、平和な年だったと言えるだろう。
しかしながら、本当に「不作」だろうか?
否、違う……。
スレ住人は気づいていた。
空でもなく、海でもなく、地の底から放たれる、かつてない瘴気に。
あまりの凄まじさに「選評を書く気も起きない」とまで言わしめた怪物が、
我々の立つこの大地の下に、闇の根城を築き上げていたのだ。
***
遡ること5か月前、6月25日に『それ』は世に出ていた。
地鳴りとともに大地から現れた巨大な影。
空にそびえる鬼岩城。
Xbox One専用ソフト、『アジト×タツノコレジェンズ』(以下、「アジノコ」)である。
『アジト』と言えば、「秘密基地作成シミュレーション」というジャンルを確立したPS時代の名シリーズ。
その名のとおり秘密基地を地下に建設し、怪人やヒーローを思うさま配置し、敵陣営と戦うゲームだ。
そんな『アジト』1作目の版権を買い取り、再販やリメイクをしていたメーカーが、次世代機での完全新作を発表した。
さらに、今回は「ガッチャマン」、「ヤッターマン」等で有名なタツノコプロとコラボし、参戦ユニット数は60を超えると言う。
旧作ファンの間では否が応にも期待が高まるばかりであった。
だが、3ヶ月の発売延期を経て世に出たのは、
【モノを売るというレベルではない何か】だった。
それは、≪比喩でも揶揄でもない、本物の有料デバッグ≫であった。
のっけから、操作を一つ間違えただけで進行不能になるチュートリアル。
何もしていないのに勝手に壊れる基地施設、地中を飛び交う戦闘機。
そして何より、基地建設にかけた長大なプレイ時間を一瞬で吹き飛ばすフリーズの連続。
その他、敵と交戦中にセーブするとロード時に100%強制終了し、
メニュー画面からオンラインモードを選択するだけでも100%強制終了する。
もはや、「バグ祭り」としか言いようのない地獄絵図である。
中でも、「魔のエレベーター」と呼ばれる一連の現象はひときわ鮮烈な印象を残した。
巨大ロボを発進させた際、それに連動して、エレベーターが上下いずれかの方向に突き抜けていくのだ。
エレベーターと一緒に空の彼方、あるいは、地球の奥深くマントルに消えていった戦闘員は、永遠に帰ってこない。
呼び戻そうとすると、誰も歩いていない基地の中に謎の足音が響き渡るのは怨念のなせる業だろうか。
この有様では評価のしようがない。
おとなしく修正を待つほかないだろう。
なお、あまりの惨状に、ダウンロード版は発売1日で配信停止されたことを補記しておこう。
***
発売日から3週間後、修正パッチが配信された。
バグの発生頻度が軽減され、かろうじて評価できる程度には動作するようになった。
スレでの検証が本格的に開始したのもこのパッチ以降である。
だが……。
『アジノコ』第二形態。
そこに待っていたのは、さらなる絶望だった。
まず目につくのは、
【やり過ぎの次元をはるかに超えたコスト削減】だ。
本作では、「どこに金をかけたのか全くわからない」ほどの高レベルな倹約が行われている。
それを可能にした最大の要因は、
キャラゲーの常識を覆す≪原作ディスリスペクト≫。
本作には「米粒ほどの大きさで描かれたタツノコキャラのドット絵」以外に評価できる点がなく、
その他すべてが版権元に喧嘩を売る出来になっている。
例えば、顔グラフィックは原作アニメのキャプチャで、カットインは音声なしのアニメ本編を数秒垂れ流すだけ。
また、版権モノと言えばどこまで原作のキャストを呼べるかという点に注目が集まるが、
本作のキャストは全員、アニメ声優の専門学校から動員した素人である。
なお、実際にこれらの姿勢に対して考えるところがあったのか、
タツノコプロ公式サイトでは本作の発売について一言も触れられていない。
では、キャラゲー以外の面ではどうなのか?
端的に言えば、旧作素材によって作られた≪フランケンシュタインの怪物≫だ。
公式サイト上で自画自賛する「こだわりのドット絵」は、旧作素材を拡大して手直ししただけであり、
一部にいたっては旧作からそのままコピペして3倍に引き延ばしただけ。
このほか、内部パラメータ、説明文、ボイスにいたるまで、ほぼ全ての旧作素材をフル活用。
その使い方も、旧作ヒロインの死に際ボイスがザコ怪人の断末魔に使われていたりと、
シリーズ初プレイでも異常性に気が付くレベルの雑コラ加減になっている。
続いて、ゲーム内容を詳しく見ていこう。
本作には、大きく分けて「戦闘」と「基地経営」の2つのフェーズがある。
先に戦闘フェーズについて述べると、
本作には、こちらが相手の基地に攻め入る「侵攻戦」と、相手がこちらの基地に殴りこんでくる「防衛戦」がある。
このうち【侵攻戦】は、AIの機嫌次第で全て決まる≪祈りゲー≫だ。
本作のゲームバランスは「タツノコ>それ以外」であり、
多大な費用と時間をかけてタツノコキャラを戦地に送り出す必要がある。
だが、本作のAIはそんな苦労などつゆ知らず、敵基地に爆弾一つ仕掛けて勝手に帰還する戦闘放棄を繰り返す。
言ってしまえば、タツノコではなくアホの子である。
出撃命令を出すたび、全員一斉に目的地の逆方向に歩き出して壁にぶち当たる様子や、
ほかに通路があるのにエレベーター前で何日も行列を作る様子を眺めることになる。
もう一方の【防衛戦】はと言うと、むなしいだけの≪消化試合≫だ。
第一に、一部のタツノコ関連ロボが強すぎて、せっかく作った基地に敵が入ってくる前に焼き尽くしてしまう。
第二に、よしんば基地の中に敵が入って来ても、砂を噛むような味気ない世界が広がっている。
白衣の研究員を20人並べた部屋で敵戦闘員をリンチする、
お行儀よくエレベーター待ちする敵を無抵抗のまま後ろから撲殺する、といった光景に一体誰が心躍るだろうか。
次に基地経営フェーズについて述べると、
「作業ゲー」と「ヌルゲー」、「待ちゲー」と「連打ゲー」とをコンクリートミキサーにかけてぶちまけた、
【地獄の100時間耐久ルーチンワーク】になっている。
まずは≪作業ゲー≫、≪ヌルゲー≫の側面に関して。
本作にはミッションが30個用意されているが、プレイ開始から全面クリアまでやることがほとんど変わらず、
徹頭徹尾同じパターンの行動を繰り返すだけである。
続いて、≪待ちゲー≫。
本作の1ミッションあたりの時間は3,4時間ほどだが、何もすることがない時間がおよそ半分に相当する。
そして、残り半分の時間は≪連打ゲー≫だ。
ゲームの半分は、劣悪なUIのせいで十字キーと決定ボタンをひたすら連打させられる時間なのである。
このようにして、本作ではクリアまでの100時間以上、何ら創造性のないルーチンワークが延々と続く。
終わりのない単純労働によって徐々に精神を削られ、疲弊していくその様子は、言うなれば「タツノコ絶望工場」。
あまりの苦行ぶりに、パッチからたった3ヶ月でソフト本スレの住人は絶滅したのであった。
ただ、ここで脱落したプレイヤーはある意味で幸運だったのかもしれない。
ここから先の真の地獄を知らずに済んだのだから。
11月17日、本作の検証が続く中、勇者の口から不意に、不吉な一言が発せられる。
「こんな時期に新パッチ来たんだが」
今思えばこれが、長い長いラストバトルの幕開けであった。
***
突然の知らせにスレ住人は総毛立った。
まさか、さらに凶悪になるのか?
いや、今度こそ、良い方に生まれ変わるはずだ。
祈りにも似た気持ちで待った結果、土埃の中から現れたのは、
なおいっそう禍々しく変貌した「大魔王」の姿だった。
『アジノコ』第三形態、
最後の審判の時である。
このパッチではフリーズの頻度が改善され、グラフィックやボイスの素材も追加された。
だが、それと同時に、ある一つの特大バグが混入してしまった。
「セーブデータが毎回リセットされる」。
ゲームを一度終了し、再開するたびに、100%の再現率で、
育てたはずのデータが、なぜか初期化されているのである。
本作では、「ミッションの進行度」と「入手したタツノコキャラ」のデータとが分けて管理されている。
このうち、進行度は全く変わらないまま、手持ちのタツノコキャラが忽然と姿を消すのが今回のバグの概要だ。
RPGに例えれば、
「シナリオが進んだ状態でセーブ&ロードすると、毎回、装備やレベルだけが初期データにリセットされる」
という事態に等しい。
勇者は、震える声でこう紡いだ。
これは、【賽の河原】のようだ、と。
石を積むたび、地獄の鬼があざ笑うかのようにやってきて、一つ残らず崩していくのだ、と。
このバグが起きてから、本作のゲーム性は激変した。
もともと「地獄の100時間耐久ルーチンワーク」だった苦行がさらに、
「初期データ縛り」か、「ぶっ通しプレイ縛り」かの2択を強要するようになったのだ。
前者を選ぼうにも、本作のゲームバランスは「タツノコ>それ以外」であり、
タツノコキャラなしで進めるのは絶望的だ。
一方で後者を選べば、数十日かけて進めたデータが、
ただ一度のフリーズや進行不能バグによって水泡に帰してしまう。
つまり、どちらに進んでも、死、あるのみである。
(知らなかったのか……? 大魔王からは逃げられない……)
そんな幻聴さえ聞こえてくるような、かつてない絶望が辺りを包み込んでいた。
最終的に、72日間の死闘の末に勇者は本作を制することに成功した。
だが、そこに笑顔はなかった。
……本作にEDが存在しないことは、以前から薄々わかっていたことだった。
最後のパッチ配信から三か月経過した現在、この「賽の河原」バグは未だ修正されていない。
本作が数多の問題点を修正し、皆に笑顔で受け入れられる「第四形態」に変わる日を願ってやまない。
***
さて、以上2つが本年のノミネート作である。
役者がそろったところで本年の大賞発表をしよう。
不作かとも思われた2015年……。
現れた両雄は、例年であれば何作かに分かたれるはずの不幸のエッセンスを凝縮し、
見たこともないほど強大な存在に結実していた。
神のいたずらさえも味方につけ、笑いの奇跡を引き起こした≪究極≫の光の戦士『テトアル』か、
人の手によって禍々しく進化を遂げ、プレイヤーの嘆き悲しみを歴史に刻んだ≪伝説≫の大魔王『アジノコ』か。
いずれも、これまでの大賞作品に勝るとも劣らない、当代きっての英傑である。
光と影、苦と楽……。
正反対の方向に大きく振り切った最強者たちの激突。
純粋なるエネルギーとエネルギーのぶつかり合いが、激しく火花を散らし、
あらゆるものを飲み込んで破滅させていく。
万物創成の様相をなしたこの新たなる神話の戦いを制し、新世界の領主として名乗りを上げたのは……
『アジト×タツノコレジェンズ』である。
本作の勝利を決定づけたもの……
それは、「質と量の両面で最高峰を成す、規格外のクソさ」である。
いわゆるクソゲーには、大きく分けて2つの類型がある。
一つは、クソ要素の数が多いもの、すなわち量で勝負の「バラエティ」型。
もう一つは、飛び抜けて大きなクソ要素を持つもの、すなわち質で勝負の「インパクト」型だ。
これまでのノミネート作品を振り返っても、概ねどちらかの傾向に分類できると言えるだろう。
その点を踏まえて2015年のノミネート2作品を比較してみよう。
『テトアル』は、インパクト型の典型である。
テトリスとして最低限プレイできることがプラス評価の材料になりながらも、
「試合放棄AI」や「史上最低クォリティのオンライン」などの離れ業によって大きく逆方向に打ち返している。
かたや、『アジノコ』はどうだろう。
「魔のエレベーター」のインパクトはあったものの、
それよりも、どこを切っても隙の無いバラエティ型としての強さが際立っている。
だが、第三形態になったことで『アジノコ』は劇的な変貌を遂げた。
不可避的にセーブデータが初期化される「賽の河原」バグと、
それに連なる「クソゲーなのに縛りプレイ強要」という、
クソゲー史においても記録的な、特大のインパクトを持つクソ要素を手に入れてしまったのだ。
言うなれば、本作はただでさえ打率10割のバッターでありながら、
それに加えて場外ホームランを飛ばしてしまった。
このような規格外の存在を前にしては、どんなクソゲーも道を譲らざるを得まい。
それにつけてもクソゲー史に残るインパクトを誇る作品が2015年に二つ集結してしまったとは、
『テトアル』の不運が悔やまれてならない。
一方で、『アジノコ』はXbox系列ハードの作品としてはKOTY史上初の受賞となる。
奇しくも、パッチによる進化という共通項を持つ同門の『ジャンライン』の雪辱を見事に果たしたと言えよう。
***
タツノコプロと言えば、タイムボカンシリーズに登場する「三悪」の存在がつとに有名だ。
目先の欲望から悪だくみに走り、毎度人々を困らせるものの、すぐに露見して手痛いしっぺ返しを食らう。
そんな、永遠の憎まれ役。
だが、三悪がいたからこそ、ヒーローたちの物語は輝いていた。
影があってこそ映える光であり、悪があってこそ引き立つ正義なのである。
思えば、クソゲーもまた、三悪に相通ずるところがあるのではなかろうか。
クソゲーそのものは、買った人々を不幸にする忌むべき存在である。
だが、クソゲーを通じて人は、憤りを機知に昇華し、苦しみをおどけに転じることができる。
そうして結局、誰も憎むことのない、笑顔に満ちた世界が形作られるのだ。
この不思議なパラドックスに我々はいつも心惹かれてきた。
だからこそ我々は、
クソゲーが生まれることを悲しみながらも、
心のどこかでクソゲーを待ち望んでしまうのかもしれない。
「負けない。くじけない。何度もよみがえる」。
クソゲーにはこれからも、三悪のようなしたたかな存在であり続けてほしい。
それはそれとして、今回の検証を終えた率直な感想を、
往年の名作にしてタツノコプロの代表作「ヤッターマン」の決め台詞から拝借することで、本年の締めくくりとしたい。
「勝利のポーズ! ヤッター、ヤッター……やってられんわ!!!!」
強力な軍事力により2014年の門番となった2作品。
半端な笑いでは門に近づくことすら許さぬ負の力を持っていた。
こんな一種の膠着状態を打ち破った、10年の狂宴を想起させたヒーロー達の登場。
住人たちは友たるクソゲーへの愛を改めて胸に刻み、2015年という新たな無明世界を進み始めた。
2015年KOTY開幕である。
そんな住人達を祝福しているのか、2015年の春は穏やかなものであった。
ハンターは無沙汰は無事の頼りといずれ来るであろう強敵との戦いの前に平和を噛み締めていた。
季節は過ぎ夏。天から矢継ぎ早にブロックが落ちてきた。
6/10発売 PS4/Xbox one ユービーアイソフトより テトリスアルティメット(以下テトアルとする)
~基本情報~
テトリスといえば言わずと知れた落ち物パズルゲームの始祖である。
この作品は、ザ・テトリスカンパニー及び親会社BPSからライセンスの許諾を得ている公認テトリスであり、誰もが羨む血統書付きである。
そんな期待を一身に受けるゲームを起動すると、開発会社のロゴが処理落ちしている。
つかみとしては十全である。
本作には、失敗するまでブロックの落下速度等がシビアになる(レベルの増加)などのオフラインモードと対戦を行うオンラインモードの2つに大別できる。
それでは、オフラインモードとオンラインモードのそれぞれを見ていこう。
~オフラインモード~
従来のテトリスでは、一列の横ラインにブロックを埋めるとちょっとして演出(エフェクト)が発生し、当該列のブロックが消え猶予時間の後に次ブロックの落下が始まる。
本作では、横ライン消去時に発生するエフェクトが異常に壮大であるため、処理落ちを誘発させ、次のブロックの操作までの猶予時間まで食ってしまう。
猶予時間が0.5秒ということもあり、処理落ちの影響で実質猶予がない事態が起こる。
この現象は、対人や対CPUがラインを消した時にも発生し、全員が諸刃の剣で乱闘する地獄絵図が完成する。
また、対CPUでは、誰か一人が負けると他のCPU全員が試合を放棄し、ブロックを操作せずただ積み上げるだけの放置状態となる。
恐らく、CPUはテトリスしかできないので気晴らしにタバコでも吸いに行ってるのだろう。
~オンラインモード~
選評者曰く「過去最低のクオリティだと断言できる。」とのことである。
まず、ブロックの落下時において数秒毎にゲームの進行が止まり、操作を受け付けない現象がプレイヤーをおもてなしする。
オフラインモードの処理落ちはもちろん、同期ずれるも多発する。
自分の画面からみると、すでに画面の上部まで積み上がって負けているはずの他プレイヤーがブロックを永遠に積み続けている光景は、非日常的なものであり日頃の喧騒を忘れさせてくれる。
さらには、絵柄付きブロックを消すと特殊効果が発動されるモードで、同期ズレが起こっている状態で「雨あられ」という特殊効果を発動させる。
そうすると大音量で不快音が鳴り、オンラインから切断するかPSホームからゲームを終わらせるまで操作を受け付けず「雨あられ」が止まない現象も発生する。
プレイヤーは、雨あられが止まない画面を見ながら、なぜこの状態でオンラインモードを実装したのかという疑問が止まないとこだろう。
~締め~
テトリスできないテトリスとして一時は住人に歓迎をうけた本作。
しかし、2,400円という低価格、オフラインは遊べないこともないや選評者がテトリス上級者だからこそ辿りつけた本作の弊害故、初心者~中級者にはさほど問題がないのではないかなど懸念があり、再検証が必要となった。
こうしてテトアルは暫定ではあるが門番となり、半年に及ぶ飢饉から解放されたスレ住民は心の栄養を取り戻した。
そして季節は冬となる。肥沃な土地であるためか、よく育った作物でスレ住人は飢餓の恐怖を忘れていた。
ここで警戒をするべきだった。肥沃であることには必ず理由があることを。
そう、次なる友は土の下を住処としていたのだ。
6月25日発売 5,500円 Xbox one ハムスター社 アジト×タツノコレジェンズ(以下アジトとする)
AZITOといえば、知る人ぞ知る名作シリーズであり秘密基地作成シミュレーションである。
此度、そんなAZITOの友軍としてタツノコプロダクションが参戦した。
みなしごハッチやガッチャマンを有する日本アニメーション制作の大御所である。
ただ、あまりに強大な力を得た者はその身の破滅を招く。人類史でも散見することである。
本作がどのような結末を迎えたのか、順を追って見ていこう。
このアジト、実はテトアルと同時期にスレで話題になっていた。
Xboxoneがあるからと特攻した豪傑やアジトの為に本体ごと購入する英雄が現れた。
しかし、誰もが満身創痍となりスレッドに断片的な情報を届けた後、神隠しにあったかのように姿を消していった。
スレ住人達は恐怖した。英雄豪傑であっても難攻不落の秘密基地はその攻略の糸口すらつかむことが出来なかったのである。
そんな絶望の中、ついに「目覚めた人」が現れた。11月22日、遂に選評が届いたのだ。
本作は2度のパッチがあり、改善点と多くの改悪点がある。
まず、パッチにより変更が無かった点について代表的なものを挙げていく。
・防衛戦と侵攻戦について
防衛戦はあまりにも難易度が低い。中盤で手に入る巨大ロボを使えば地上戦で敵を殲滅し、基地内で工夫した戦術が日の目を見ることがない。
使わなければいいじゃないかと思われるだろうが、そうなると戦闘時間が長引き退屈な戦いを永遠と見続けることになる。
難易度を求めるものは時間を対価に捧げ、虚無の時間を味わうことになる。
侵攻戦は冗長の極みである。
まず、侵攻戦ではプレイヤーが戦況に関与することができない。
戦闘員の才覚を信じ、現場に任せることしか出来ない。唯一許された操作は撤退を命令するだけである。
侵攻戦では戦闘員が敵総司令部という施設を爆弾で破壊すれば勝利であるが、この戦闘員は爆弾を一個しか持てず、一回設置すると自軍の基地に帰還する。
施設は敵の開発室など多岐にわたるため、総司令室が運良く爆破できるまで戦闘員に何往復もご足労願うことになり、ゲーム後半では、敵基地の施設の数や深度も増してくるため、膨大な時間を要する。
また、このゲームでは研究員などの非戦闘員が異常に強く、戦闘員を返り討ちにすることが多々ある。
戦闘員は量産が厳しいが非戦闘員は量産が容易であるため、味方として使った時は心強いのだが、敵として見た時は難攻不落の施設と化してしまう。
このように操作・指揮ができないにも関わらず、運に頼ることしかできない上に、敵の防衛はかなり強いため異常に時間がかかる。
以上の要素により、防衛戦と侵攻戦共に時間だけが掛かる待ちゲーの極みとして完成していた。
・自由度の無い基地作成
ゲーム説明にて「思いのままに基地を作って攻めてくる敵を撃退」とある。
断言するが、このゲームにそんな自由は存在しない。
このゲームでは資金に余裕があっても設置できる施設等自体に上限が存在する。
施設の他にも、通路や階段にも設置上限があり、広大な基地は絶対に作れない。
プレイヤーはいつの間に自由のない自由を選択したのだろうか。
・バグ
アジトに置いて最もインパクトのあり、代表的なエレベーターバグを紹介する。
戦闘員がエレベーターにのり、上昇している状態で格納庫より巨大ロボを発進させた時、巨大ロボとエレベーターのカゴが連動し、カゴごと空へ天高く射出される。
カゴが連動しているため、戦闘員は降りることが出来ず、ロボと共に射出されてしまう。
その後、侵攻戦が終わってもエレベーターも戦闘員も帰ってこないため、次の戦闘時には戦闘員がエレベーターを使えないため、ゲームの侵攻が不可能となる。
ただ、エレベーターを撤去し、再設置すれば使えるようになる。
ここまでなら笑い話で済むのだが、そう詰めの甘いゲームではなかった。
エレベーターを再設置すると、射出した戦闘員が帰還している。
奇跡的に生きていたことに感動し、仕事を任せると誰も利用していないエレベーターが勝手に上下に移動する。
更には画面上には誰も動いていないのに足音や階段の昇降音が聞こえることとなる。
気味が悪いな と思いながら気分転換に侵攻戦を開始すると、フリーズする。
ゲームのキャラが死して意思を持ち、祟りを起こしたのであろうか。
・キャラゲーとしての側面
本作ではミッションモードにてアジトとタツノコの世界観を交えたストーリーが展開される。
いつの時代も秘密基地を作るのは善悪問わずそれ相応の理由がある。
本作の主人公は善でも悪でもなく、なんの理由もなく秘密基地を作るよくわからない存在であった。
何の説明もなく知らない世界に放り出された主人公はなぜか秘密基地を作るのだ。
そして、ある程度基地を作ると以下の様なストーリーで侵攻や防衛を行うことになる。
1.先住民や近所の人から何勝手に基地を作っているんだと言われ襲撃される
2.返り討ちにした後、報復として後腐れの内容に、皆殺しにする。
以上である。非常に簡潔である。
時には、海の近くに基地を作り、許可を取っていなかったためか原住民からクレームがきたので原住民を皆殺しにして解決する。
そんな中、脈絡もなくガッチャマンが敵に囚われているから助けましょう!とオペレーターから助言を受けるが、これらについてのストーリーや説明もない。
ただ、そこに素材があったのでとりあえず使いましたと言わんばかりの乱雑さである。
声優を期待しても、OPクレジットの限りでは専門学校生の生徒であり、オリジナル声優ではない。頑張って声真似をしているが、キャラゲーであるからこそ本家本元を起用して頂きたかった。
これにより、他作品とのクロスオーバーなどファンサービスも無いため、ファンアイテムとしても価値はない。
なお、このゲームにはEDがなく、最終ミッションを4時間掛けて攻略してもミッション選択画面に戻されるだけである。
キャラゲーによく存在するクリアのご褒美もなく、ただ義務と割りきってプレイヤーはミッションをすすめるしか無い。
このように、キャラゲーとして必要である説明やストーリー、声優の共演などもなくキャラゲーとしての存在価値は疑わざるをえない。
それでは、パッチによる変更点を見ていこう。
KOTYでは該当年における最後のパッチが適用された状態で評価を行う。
前バージョンの選評には検証不可能な事項を除き、改善点などの再検証を行う。
このアジトもパッチが配布され、再検証が必要となった。これこそがアジトが難攻不落たる由縁であった。
それ故に、評価には影響をしないが備忘録として書き記そうと思う。
~7月18日パッチ~
・改善点
戦闘中に中断し、ロードするとゲームがクラッシュする。
オンラインモードでロードするとゲームがクラッシュする。
頻出されたフリーズの対応(ただし、頻度が減っただけで猛威を振るう)
・賛否両論点
資金調達の調整(同一の方法による計測の結果、およそ10分の1まで低下)
パッチ前が簡単に稼げすぎたのでバランス調整ともいえるが、ただ面倒になっただけ等
・改悪点
本作において、ゲーム内スピードの変更やスキップ機能は存在しない。
ゲーム内1ヶ月=現実の24分固定である。
パッチ前は防衛戦の際、1ヶ月前に通知されるのでおよそ24分で準備をすることになるが、これで十分準備が間に合う。
パッチ後は、2~4ヶ月前から通知されるようになり、最大96分待たされる。倍速やスキップができないので膨大な待ち時間が発生してしまう。
これが7月18日パッチの参考程度の情報である。
~11月17日パッチ~
・転送エレベーター実装
この転送エレベーターは基地内の人員を指定したフロアに転送できるものであり、カゴを使用しないため、前述のエレベーターバグが発生しない。
素晴らしいエレベーターであるが、エレベーターバグ自体は放置されてしまった。
・戦闘員や非戦闘員にライフバー追加
人員にライフバーが追加され、撤退のタイミングを図ることが用意になった。
だが、非戦闘時まで表示がされるため、人によっては気になってしまうだろう。
11月22日パッチは安定性の向上が目的であり、フリーズの発生もかなり抑えられゲームプレイ自体は改善された。
確かに、初期のこのゲームはおぞましい物の怪であったが、ゆっくりとではあるが確実に進歩している。変わろうとしている。
そんな成長を目の当たりにしてプレイヤーは一種の感動を受け、これからの成長を温かい目で見守ろうと思わせるのだった。
そう思わせることこそが、このアジトの策略であった。
追求を避けさせ、時間を稼いでいる間に土中では遂にアジトが難攻不落の要塞として完成した。
ゲームとしての進化はハリボテであったのだ。ハリボテの先にあった実態とは歴代の王者と肩を並べることに遜色のない鈍色の輝きを放った作品であった。
では、幾人の検証者を神隠しにした真髄を見ていこう。
・ログインできないログイン画面
ゲームを終えた時、ゲーム機本体の電源を切る。
この行為は自然なものである。24時間本体の電源を入れ続けるのは余程の理由がないかぎり無いだろう。
Xboxoneはサインインした状態で電源を切ると、自動的にサインアウトされるため次に電源を入れるとサインアウトしている状態である。
アジトもサインアウト状態でも遊べるが、セーブができないやオンラインゲームができない等わざわざオフラインモードでやる意味はない。
そこでアジトのゲーム内からXboxoneのオンラインへサインインするのだが、アジトから正式な手順でサインインを行っても、ゲームからサインインしてないと警告される。
再度ユーザーを選択し、サインインできるかを確認するとサインインは成功している。
勿論、この状態ではセーブ等できないオフライン状態である。
この状態を解決するには、アジトを一旦終了させ本体からサインインし、改めてアジトを起動させる必要がある。
この解決法を思いつくまで、セーブができないアジトをプレイすることになる。
・賽の河原
本作ではミッションモードにおいてミッションを攻略すると、「CLEAR!」と「解放!」という2種類のしおりが各ミッションにつく。
ここで大切なのは「解放!」であり、兵器などの開発がアンロックされる。これは以降のミッション攻略に必要不可欠と言っても過言ではないものである。
ここでプレイヤーを襲うのは、この「解放!」フラグを初期化し、開発ができないようになる現象である。
クリアのフラグは残っているため、途中からでも再攻略などをすることは出来る。
ただ、この状態では初期状態のため、勝つことは困難であり、
FFで例えるなら、過去のカオスの神殿に初期装備、Lv1で挑むようなものである。
よって、また最初からミッションを攻略することが必要となる。
この現象は多発し、どれだけミッションを積み上げても鬼が来て成果を崩されてしまう。
検証の結果、原因は不明であるがどのような行為により初期化されるかは判明した。
・ゲームをセーブしないでゲーム機の電源をきる ・ゲーム中に入力機器を本体から外す
・ゲームを中断した状態で、他のゲームをプレイする ・中断したゲームをサインインしないで再開する
判明したのはこの4つである。
これから導かれるこのゲームをプレイする際の推奨プレイスタイルは
「電源を切らず、他のゲームで遊ばず、アジトのみをプレイし続ける」となる。
ヤンデレやメンヘラを扱ったゲームはあれど、ゲーム自身がメンヘラ狂人とは恐れ入る。
以上がアジトである。
膨大な待ち時間(待ちゲー)と初期化・やりがいのなさ(ゲー無)を極めた至高の一品である。
そんな作品と向き合うには一種の悟りを開く必要があったのではないのだろうか。
ゲームという苦行により悟りへの道を歩ませる。そう思わせる圧倒的な負の力が確かに存在した。
アジトの選評・検証により今年の大賞はアジトという考えがスレ住人に広まっていた。
しかしそんな一強状態を崩すために覇者が舞い戻った。
そう、検証が終わり解明されたテトリス・アルティメットの帰還である。
60FPSで録画し検証を行うことで、テトリスの検証が行われ様々な事象が証明された。
まず、選評で触れたエフェクトによる処理落ちである。
これは処理落ちではなかった。開発から意図的に仕組まれた催眠であったのだ。
本作においては、ライン消去24フレーム+ブロックが落ちるまでの猶予6フレームの計30フレームがある。つまり0.5秒の猶予が与えられている。
だが、ラインが消えた時のエフェクトは無駄に壮大であるため、50フレーム以上演出が続く。
ここに20フレーム以上の差異が生じる為、エフェクトにより操作の猶予時間がラグにより消える様な錯覚を覚える。
ブロックの落下速度の遅い序盤では体感し辛いが、中盤以降シビアな操作が要求されるとこの現象によって猶予が無くなってしまったと誤認してしまう。
つまり、処理落ちによるバグではなく、仕様書通りに作られたプレイへの妨害である。
さらには、ラインを揃えた時、エフェクトが発生し、次のブロックの落下が始まるまでの猶予時間が0になるバグの発生も確認された。
特筆はしなかったが、操作性の悪さも指摘されていた。
仕様書通りの錯覚というストロングスタイルとバグのドラ。2つを同時に併せ持ち翻弄する本作。プレイヤーはテトアルをプレイする意味を失う。
テトリスがテトリスという価値を自己否定する様は哲学者シモーヌ・ヴェイユを彷彿とさせるものであった。
彼女は美しいものによる自己否定こそが真理への道としており、不幸な状況にあるものこそが真理に到達できる資格を持つと考えていた。
テトアルにおいて、過剰な演出(美しいもの)により自己否定(CPUの試合放棄・プレイ自体の無意味)となり、不幸な状況にあるものとはプレイヤー自身である。
テトリスアルティメットは、我々を真理への道へ誘うアルティメットの名にふさわしい逸品ではないのだろうか。
以上が2015年の大まかな流れである、
では、大賞及び次点の発表である。
大賞 アジト×タツノコレジェンズ 次点 テトリスアルティメット とする。
ここでクソゲーとはなにかを考えてみる。
クソゲーと一言で表現しても、そこは千差万別である。様々な場所で毎年違う結論と考察がなされており、統一した答えはない。
そう答えがないことが答えではないのだろうか。
そこで、とある作品における発言を紹介したい。
「『つまらないと』と言われると逆にやってみたくなる・・・
それは良し悪しの違いだけで感情を動かされるという点において、神ゲーとクソゲーは実は同義語だからぞなっ」
プラスとマイナス、まさに対極の存在であろうとも、絶対値は同じである。
つまり、神ゲーを神ゲーたる理由があるように、クソゲーはクソゲーたる理由がある。方向性は違っても負の力を極めれば人々に記憶される。
より特化した独特の色合いを持ち、他の追随を許さない圧倒的なマイナスこそが評価されるのではいのだろうか。
その点では両者は歴代の王者達と遜色のない輝きを放っていた。
アジトは、ミッションを進めるための膨大な待ち時間、数々のバグとフリーズ、ゲーム性の放棄という凶器を持ち、最後にあるのはリセットされたセーブデータ。
人の心を折るために考えうる限りの凶器を備えていた。
そう、プレイヤー全員にとって等しく脅威となる力を持っていた。
これに対しテトアルだが、テトリスというジャンルが問題となった。
今作の問題点は、選評者が上級者であるからこそ異変に気が付き、検証して初めてテトリスとして崩壊しているという事実を確認できたことである。
初~中級者ではあくまで違和感として感じられる。
さらに、テトアルはミニゲームという性質にも差が開いた。
アジトは腰を据えてじっくりとプレイすることを強要される。つまり長時間の苦痛を受けることが必然である。
テトリスは、下準備の必要もなくサックリと遊べ、一回当たりのプレイ時間も短い。
以上の点により、万人がプレイした際、等しくクソゲーというのはどちらであろうか。
間違いがなくアジトと答えが帰ってくるのではないだろうか。
これがアジトを大賞とした理由である。
ただ、心理学によれば、ネガティブな記憶は短期的には強く残るが、長期的な記憶になるとポジティブな記憶が強く残るのである。
クソゲーそのものは負の力であり、ネガティブな記憶である。
マイナス点を理屈もなく、思慮もなく、愛もなく誹謗中傷するだけでは人心は荒み、良き思い出の一つもなく時間だけが過ぎていく。
そして、人々から忘れ去られ、その存在を知るものはいなくなってしまうだろう。
KOTYではクソゲーを笑いに昇華し、マイナスをプラスにするのが目的である。
我々がマイナスを笑い飛ばし、プラスに変換することにより、クソゲーを少しでも多くの人の記憶に残す。
忘却という恐怖から愛するものを守るために戦う。
それこそが、KOTYスレッドの選んだ道である。
2015年、締めの言葉を述べて、ここに総評の筆を置く。
「ヤッター!」「ヤッター!」「やってられんわ!」