2016年のKOTYノミネート作品たちは、
どれも理想と現実の乖離がもたらした悲劇の忌み子たちであった。
こんなゲームを作りたい、こうすればもっと面白くなるはず、
そうやってクリエイターたちは夢を描く。
しかし悲しいかな、現実は無慈悲であり、納期、予算、技術力といった壁の前に夢は潰え、
子は失敗作となって世に出て、散々に罵られ、悪評のみを残して、
やがては記憶の彼方に忘れられていく。
大賞に輝いた『古き良き時代の冒険譚』もそんな忌み子たちの1人であり、
彼もまた忘却の海に消えていくのであろう。「クソゲー」という評価だけを残して。
そんな誰からも祝福されない哀れな子供たちのために、
我々ができることは「語り継ぐ」ことである。
クソゲーというレッテルだけでなく、具体的にどんなゲームであったのか、
そして何故クソゲーと呼ばれたのかを記録する。
そうすることで、彼らはこの世に生まれた証を確かに残すことができるのだ。
あとは、次代のゲーム製作者たちが同じ過ちを繰り返し、
再び忌み子たちを世に送り出すことの無いよう祈るばかりである。
4月19日、2017年のKOTYに一番乗りで蹴り込まれたのは、
WiiU向けDLソフト、『SHOOT THE BALL』だ。
画面の中心に時計回りで回転する円形の発射機があり、
その周りを輪状の障害物が反時計回りに回転している。
発射機から障害物の隙間を目がけて、照準の方向が変わる球を、
GamePadをタッチしてタイミング良く撃つという、極めて単純なゲームである。
しかし、このゲームはその単純さにも関わらず、あまりにも問題点を抱え過ぎていた。
問題点を順番に挙げていこう。
まず、このゲームはあまりにも中身が薄い。障害物の輪は常に1重で種類も4つしか無い。
タイミングよく球を撃つことで1点を獲得し、
5点ごとに背景色と障害物がランダムで変わり速度が上がる。以上である。
操作方法はタッチのみであり、BGMも単調な1曲だけで効果音の類は一切無い。
300円という値段を考慮しても、これではあまりにもボリュームに欠ける。
このゲームでできることは、ただひたすらにスコアアタックに励むことだけだが、
ゲームを終了すると得点は記録されずに消えてしまう。
何か別の媒体に点数を記録すればいい、と思うかもしれないが、それをやる意味も薄い。
というのも、このゲームは運要素がかなり大きい。
障害物の種類ごとに難易度の差が激しく、前述したとおり障害物は完全にランダムで決定され、
同じ障害物が連続で選ばれることもあるため、
得点の高低は簡単なステージをどれだけ多く引けたかに左右される。
高得点を取っても、それは運が良かっただけである、とすぐに理解できてしまい、
ハイスコア更新時の達成感のようなものはまるで無い。
達成感が無い代わりに疲労感はたっぷりであり、
単調なゲーム性の割に遊ぶためにかなりの集中を必要とする。
前述のステージ変更は得点表示以外に何の予告もなく急に行われ、
障害物と一緒に変更される背景色はきつい色彩のものが多いため、眼にも負担をかける。
そして苦労して取ったハイスコアはソフトの終了とともに消え、
肉体的な疲労に加え精神的な疲労までもがプレイヤーに襲い掛かるのだ。
まだ終わりではない、これほど単純なゲームにも関わらず本作にはバグが多い。
最も深刻なのは「スコアバグ」と呼ばれるもので、
球を撃ち出すことに成功しても得点が加算されなかったり、されてもタイムラグがあったりする。
これは見かけ以上に深刻なバグであり、ステージ変更のタイミングが得点に依存するため、
ステージ変更がされそうでされなかったり、はたまた唐突にされたりという、
不安定な挙動がプレイヤーのミスを誘発する。
他にも、球が突然急加速する、巨大化する、1度に2つ出現する、などと様々なバグを抱えており、
まともにプログラムを作れていないことがよくわかる。
そして極めつけは、本作は他機種版の下位互換でしかないということだ。
そもそもこのゲームはもともと、
ゲームエンジンの「Unity」に搭載された無料の学習用サンプルを許可を得て、
そのまま流用したものである。
スマホやブラウザ向けに別の会社から同じ内容のゲームが無料で出ており、
広告が出ることを除けばハイスコアが記録される、効果音が有る、バグが無い、などと、
本作の上位互換である。
同じ会社からも3DS向けに「SHOOT THE BALL」が発売されており、
そちらはなぜかバグが無いので、やはり本作の上位互換である。
以上より、あえてWiiU版のこのゲームを選ぶ意味は全くない。
かつて携帯KOTY大賞の栄冠に輝いた「対戦チンチロリン」は、
「このゲームを買うぐらいなら実際に道具を買ってきて現実でチンチロリンを遊べばいい」
と酷評されたが、それにしても道具を買うのにお金がかかる。
有料でありながら無料の他機種版の劣化であるというのは前代未聞であり、
本作の存在意義の無さは史上最凶と言っても過言では無い。
かくして、華麗なシュートでKOTYに蹴り込まれた本作は、
見事2017年のゴールキーパーとしてスレ住民に迎え入れられることになった。
キックオフから1週間後の4月27日、
宣戦布告とともに見慣れた戦車の大群がスレに侵攻してきた。
大本営SSα率いるPS4専用ソフト、
『現代大戦略2017~変貌する軍事均衡!戦慄のパワーゲーム~』である。
グラフィックやUIの粗さはいつものSSαクオリティなので省略するとして、
本作最大の特徴は「クラッシュの弾幕」である。
戦闘でクラッシュ、占領でクラッシュ、拠点でクラッシュと、
ありとあらゆる場面でクラッシュが頻発し、
プレイヤーはさながら目隠しされた状態での地雷原踏破を強要される。
それでも、運が良ければ地雷原を踏破できるだけまだマシというものであり、
特定の状況下では確実にクラッシュが発生する。
中でも致命的なのは「士官の練度が最大になるとクラッシュする」というものである。
士官が戦闘で経験を積み、練度を貯めるとステータスが上がっていくのだが、
この練度が最大まで貯まると確定でクラッシュを起こす。
そのため、士官が最大まで成長「しない」ようバランス良く育成を行う必要が有るのだが、
どうしてもそれが回避できない場合には玉砕してもらう他無い。
もちろん、死んだ人間を生き返らせる手段など無い。
このように戦争の悲惨さ、人命の尊さを雄弁に語る本作であるが、
一方でお金の大切さについてはルーズである。
資金はどのマップでも99999というように数字の9の羅列で表示され、
しかも資金を使用しても表示は変わらず、表示以上の額を使うこともできる。
しかし、当然ながら資金は無限ではない。にも拘わらず表記上はいくら使っても変わらないため、
調子に乗って使いすぎるとある時突然赤字になり、それ以上の使用ができなくなる。
さながら粉飾決算の発覚した企業の末路である。
かつて大日本帝国軍は緒戦の敗北を隠し、国民には連戦連勝であると嘘を発表し続けたが、
そのうちに劣勢を隠しきれなくなり、最後は悲惨な敗戦を迎えることになった。
一方、第四次中東戦争でイスラエル軍は劣勢に立たされていたが、
その事実を正直に国民に発表するなど現実と正面から向き合ったことで、
徐々に戦況は好転し最終的には勝利を収めた。
これは、戦争において現実と向き合うことの大切さをプレイヤーに伝えようとする、
SSα流のメッセージなのかもしれない。
ともかく、最早何度目かもわからない大本営の強襲の前に、スレ住民は相次いで投降することとなった。
スレが大本営に占領されてから2ヶ月後、
日本海の向こうから、大本営に対しさらに宣戦布告がなされた。
6月22日発売、PS4向け基本無料型FPS 『Operation7 Revolution』である。
本作は韓国のパブリッシャーPARK ESMが発売した対戦専用FPSゲームであるが、
FPSとしてあまりにも破綻が多い。
まず、本作に登場する武器は、
良くて乱造品のAK47並み、悪いものは中世のマスケット銃並みの粗悪品ばかりである。
たとえば、最初に支給されるM4で20m先の的目掛けて射撃をした時、
最大限努力しても的に命中する弾は25%程度であり、的の中心にはほぼ当たらない。
FPSでは「動きながら撃つ」のが基本だが、こんな銃でそんな戦い方をしてもまともに当たらない。
敵に命中させるためには敵前で堂々と棒立ちして狙いを定めて撃つことになるが、
当然ながらそんな事をすれば良い的であり、
結果的にこのゲームの戦闘は、ショットガンの散弾で命中率の悪さをごまかすか、
命中率が高いスナイパーライフルで遠くから狙撃するかのどちらかに二極化している。
それでも、銃は弾が当たれば敵にダメージを与えられるだけマシである。
ナイフの当たり判定はさらにおかしく、
どう見ても切っ先が敵に当たっているのに全くダメージを与えられない事が日常茶飯事であり、
敵同士が団子になってお互いナイフを振り回しても、
なかなか当たらずにもみ合いになるシュールな光景が繰り広げられる。
さて、他シューターでしばしば問題になるのが、いわゆる「リスキル」である。
敵に倒されたプレイヤーが復活して戦線に復帰するとき、敵のすぐ近くに復活してしまい、
またすぐに殺されてしまう、という問題だ。
この問題に対して、本作はある革命的な対策を用意した。
それは、「復活後しばらく無敵になる」というものである。
この無敵時間は発砲したとしても解除されることは無く、
また、復活する場所そのものへの配慮は無いので、敵の目前でも背後でも当然のように復活する。
その結果どうなるか?
倒したと思った敵が突然目の前に現れ、無敵時間を盾に一方的に殺される、
復活した者同士が無敵時間が切れるまで牽制しあう、
敵リーダーを倒すのが目的のルールで、敵を倒しても倒しても無敵付きで復活してくるため、
さっぱり敵リーダーのところに進めない、などといった事態が頻発する。
これらだけでも十分にFPSとして破綻しているが、これらはこのゲームのクソ要素の一部に過ぎない。
本作最大の問題点は、FPSに「Pay to Win」、
つまり、多く課金をしたものが勝利する、という姿勢を持ち込む禁忌を犯したことだ。
このゲームに登録したプレイヤーは、
登録後2週間でメイン武器を除いた、サブ武器に近接武器、グレネード、その他アイテムなどを、
すべて没収されて、丸裸の状態にされる。
これらを再び使うためにはゲーム内キャッシュで再度解禁する必要があるが、
解禁は期限付きであり、またゲームを遊んで得られるキャッシュはスズメの涙ほどである。
しかも、そのスズメの涙のうち大半はメイン武器の修理代に費やされるため、
無課金で装備を維持しようと思うと1日あたり20マッチほどは必要である。
また、このゲームに体力の自動回復はなく、回復するためには回復薬を購入して使用する必要があるが、
これにもやはり多大なキャッシュが必要であり、無課金では到底手が出るものでは無い。
さて、ここまでは一応無課金でも頑張ってゲームをすればなんとか維持できるものである。
しかし、はっきり言って、本作では無課金者と課金者とでは勝負にならない。
と、いうのも、課金者には課金者専用のキャッシュが与えられる。
これを使うことで、ゲーム内キャッシュへの変換はもちろん、
通常3つしか持てない特殊能力を最大10個まで持てるようになる特権を得ることができ、
しかもその能力の内容も無課金者用のものよりはるかに強力である。
他にも通常ハンドガンしか持てないサブ武器枠に、
ショットガンやスナイパーライフルを持てるようになるガチャを引けたり、
強力な特殊技能を使えるようになったりと豪華特典が目白押し。
なお、これらはすべて期限付きアンロックであるため、
最大限のスペックを維持するためには月額にして2万円は必要である。
また、PSNにてゲーム内で入手できる武器の大幅上位互換が当然のように販売されているが、
これは永久アンロックであるだけまだ良心的と言えるだろう。
以上のように、
本作では無課金者と課金者との間に絶望的なまでの戦力差が開き、もはや勝負にならない。
無課金者はお金の力で強化された超人軍団に蹂躙され、
課金者は能力を維持するために多大なお金を払い続けるのだ。
これほど大きな問題点たちの前ではもはや余談でしかないが、
なぜか前後左右と斜め45度の8方向にしかダッシュできない、ストーリーが意味不明、
グレネード禁止部屋でもアサルトライフルのグレネードランチャーが使える、
などといった細かいクソ要素にも事欠かない。
FPSは本来技術がものを言う世界であり、熟練したプレイヤーはまさしく一騎当千の力を発揮する。
そのようなFPSの「アタリマエ」を見直し、競技性をかなぐり捨てて集金に走るその姿は、
結局のところ財力の大きいものが勝利する、戦争という行為の虚しさをプレイヤーに伝えたい、
という開発の世界平和への想いが込められているに違いない。
かくして、3大巨頭による壮絶な紛争によってスレは焼け野原へと化していった。
終わりなき闘争、終末へ向かう世界。苦しむスレ住民を救うべく、天から聖母が降り立った。
10月20日、PS4専用DLソフト『Tear ー終わりとはじまりの雫ー』の降臨である。
本作は、ミステリーとして有名な”ファティマ第三の預言の謎”を軸に展開されるノベルゲームである。
YouTubeにて公開されたティザームービーの説明文にあるURLが間違っていて、
公式サイトにアクセスできない、PSVR対応だったものが直前に対応中止となる、など、
発売前からある意味話題の本作であったが、
発売後に明らかになったゲームの内容は我々の予想を遥かに超えていた。
プレイしてものの数十分で、ヒロインを母としそのまま眠り続けるエンディング、
ヒロインを推しアイドルとしてデビューさせた後に何者かに殺されるエンディング、
肩もみをしたヒロインにバリツで殺されるエンディングという3つのバッドエンドが、
それぞれ選択肢を1つ間違えるだけで立て続けに展開される。
このバリツというのは、
「シャーロック・ホームズ」シリーズでホームズが使用する架空の日本武術のことであるが、
当然、ホームズのファンでもなければ何のことかわからない単語であろう。
しかし、このような簡易な説明すらもなく、
バリツが何なのかすらわからないまま唐突に殺されたプレイヤーは、当然大いに困惑することになる。
この時点で既に酷い異臭が漂っているが、
この程度はこの作品の全貌から見ればまだほんの軽いジャブに過ぎない。
遥か昔に発見され、人々に過去や未来の映像を見せることのできるオーパーツ「Tear」を用いて、
自分の過去や世界の真相に迫っていく、というのが本作の大まかなストーリーの流れである。
この「Tear」は絵で見る限りどう見ても「本」であるが、
ヒロインはこれを「古いスマホ」だと言い出す。
実際「Tear」については「画面が光る」「ぴっという起動音がなる」などという文があるが、
明らかに絵と文の整合性が取れていない。
他にも、「白衣を着た」黒スーツの男であるとか、
奇跡が起きるシーンで、ある人物のまわりに「白い羽が舞っている」のに、 絵でその人物に生えているのは蝶の翅であるとか、
かと思えば文章で「バタフライ」「蝶の模様」という描写があったり、などと、
さまざまな描写の食い違いがまさしくファティマの奇跡のようにプレイヤーを幻惑する。
では、細かい食い違いに目を瞑れば良いのか、というとそうでもなく、
例えばあるシーンの展開を要約すると、
「浜辺で起きた誘拐事件を捜査しに行って、
スイカ割りをしていると謎の特殊部隊がヒロインを誘拐しにきた、
するとそこにこの間知り合った刑事が助けに来てくれたので、
無事花火を打ち上げられたよ、良い思い出ができたね」という具合になる。
これは別に極端な例を持ち出しているわけでは無く、ほぼ全編このような感じであるため、
ライターと登場人物以外にはさっぱり理解が追い付かない超展開に、
プレイヤーは終始困惑させられることになる。
このように、一体目の前で何が起こっているのかすらよくわからない電波シナリオであるが、
それでもまだノーマルエンディングまでは辛うじて作品の体を成している。
問題はノーマルエンディングの後の話で、ここからは登場人物の視点や時間、現実か仮想現実か、
何もかもが定かではない状況で物語が展開されていく。
ヒロインの物語中の話が展開されたかと思えば、
次のエピソードでは10年前の別のキャラクターの視点が描かれ、
その次のエピソードではさらに昔の別のキャラクターの視点が描かれる、と言った具合である。
いつ、どこで、だれが、なにを、どのように、どうしたのかがさっぱり分からず、
疑問符しか付かないまま「物語」は展開され、意味をさっぱり理解できないまま、
気が付くと真エンディングを迎えているのが本作のシナリオの特徴である。
ただでさえ意味不明なシナリオ展開であるが、それに輪をかけているのがライターの技量の低さである。
誤字脱字の多さは語るに及ばず、数字やアルファベットの半角と全角の規則が一定ではなかったり、
「。」が付いていたり付いていなかったりと、とにかく読みづらい。
戦闘描写がズギューーーーン、ドカーーーーッ、ゴゴッゴゴゴ、ズッガーーーン、
と言った擬音で描かれているのは、もはやシュールの域である。
システム面の不備についても語ろう。まず、このゲームには任意セーブという概念がない。
各エピソードの終了ごとに自動でセーブされるのみであり、
ゲームを再開する際には必ずエピソードの最初からとなる。
もし途中でバッドエンドを迎えたならば、その際はエピソードの最初から読み直しである。
なお、既読スキップなどという機能はないし、そもそも未読と既読の区別すらつかない。
この意味不明なシナリオを咀嚼し、理解しようとバックログを見返すことも困難である。
なぜならば、バックログを開いた際に直前の文章からではなく、
なぜか毎回エピソードの最初から読み直すことになるので、
直前の文章を読むためだけに長時間スクロールをしなければならないからだ。
その上、ただバックログを見ているだけでしばしば処理落ちが発生する。
これはファミコンのソフトではない、現世代機の中でも高い性能を誇るPS4のソフトにも関わらずだ。
どうにも、貯まり過ぎたバックログを古い順に削除する、といった処理をせずに、
エピソードの最初からのバックログを全てキープし続ける仕組みになっているようで、
無限ループの選択肢を選び続けて意図的にバックログを貯め込むことで、
バックログのみならずあらゆるところで処理落ちを起こさせることすら可能だ。
グラフィックも微妙で、全体的に立ち絵のバランスが悪く差分も少ない。
無駄にLive2Dを導入しているが、有効活用できていると言えるのはヒロインの胸揺れだけである。
VR探偵モードと呼ばれる3Dシーンはさらに出来が悪く、
グラフィックはよく言ってPS1初期のレベル。
元がPSVR対応の予定だったものを急遽非対応とし、無理矢理コントローラー操作にしたためか、
非常に操作がし辛い。
このモードでは特定のアイテムや背景を注視する事でイベントが進むのだが、
その注視を行うとなぜか対象物が消えてしまい、
ついでに勝手に視点が下側にずれるので、何を見ているのかわからなくなる、という出来の悪さである。
バッドエンドに分岐してしまうとこれをもう一度やり直す羽目になるが、
スキップ可能なのがせめてもの救いである。
このクオリティのゲームがPS4で発売されたという事実はまさしくファティマの奇跡であり、
スレ住民を熱狂させた聖母は今年4体目の聖像として恥の神殿に祀られたのであった。
終わりなき戦争に、天からの聖母の降臨。スレは混迷を極めていた。
そして12月19日、戦いに終止符を打つべく年末の決戦兵器が投入された。
Nintendo Switch 専用DLソフト、『RXN -雷神-』の出撃である。
本作は人気STGシリーズ「雷電」の開発に携わっていたスタッフが独立し、
設立した株式会社ガルチの10周年記念として開発された作品であり、
豪華声優陣をはじめ、メカやキャラデザイン、シナリオ、主題歌からプロ書家による揮毫まで、
かなりの力の入れようである。
公式サイトには、
「これまでの常識を疑い、2017年現在の新しいシューティングのカタチを
確立することを目指しています」とある。
そのためであろう、特殊な世界観に基づくストーリー、横長画面、残機制でなく体力制、
経験値アイテムによるレベルアップなど、STGではやや見慣れないシステムが多く取り入れられている。
しかし、これらの正しく調理すれば極上の料理になったはずの豪華食材たちは、
シェフの手によって見事な物体Xへと変貌させられてしまった。
まず、この複雑で挑戦的なシステムに対し、一切の解説が無い。
DLゲームである以上、当然ながら紙の説明書は無い。
だが、電子説明書も無ければ、オンライン説明書も、解説動画も、そしてゲーム内チュートリアルも、
どこにも、何の解説も無いのである。
一応、公式Twitterや発売直前の4Gamerによる独占プレイ記事にごく断片的な説明はあるものの、
全くの不十分と言わざるを得ない。
このゲームのシステムについてまともに理解したければ外部サイトに頼るほかないが、
これほど個性的なシステムを搭載したゲームに、
公式からろくな解説が一切無いというのは、前代未聞である。
ではどうにかしてシステムを理解すれば、奥深い雷神のゲーム性を楽しめるようになるのだろうか?
答えは否であり、むしろあらゆる要素がまるで噛み合わない、
極めていびつなデザインのゲームであるということを思い知ることになる。
本作が他STGと最も異なる点は、レベルアップシステムを導入している点である。
こう書くと聞こえはいいが、 実のところ、このシステムはゲームを快適にプレイする上で障害にしかなっていない。
レベルを上げることで自機ショットの威力が強化されていく、というシステムであるが、
レベルが足りなければ小型の雑魚敵にすらまったく攻撃が通らず、
プレイヤーは倒せない敵の熾烈な攻撃をひたすら耐え続けることになる。
ボス相手にももちろん攻撃は通らないが、
10分間ほど攻撃をかわし続けるとなぜかボスが自爆して勝手に死ぬので一応クリアは可能だ。
レベルを上げることで攻撃力が上がり、硬い敵にも攻撃が通るようになるが、
こちらのレベルアップするペース以上に敵がどんどん硬くなっていくため、
しばしば攻略を中断してレベリングすることを強要される。
レベリングのために同じステージを何度も周回することになるが、ステージの構造が単調な上、
プレイ内容によるスコアアタックやランク評価のようなやり込み要素も無いので、作業感が極めて強い。
なお、プレイヤーは3種類の特性が異なる機体を使い分けることができるが、
機体のレベルはそれぞれ独立している。
前述の通りレベルが低いと敵に全く歯が立たないため、
今まで使っていなかった機体を使おうにもすぐには使い物にならないし、
1種類の機体に経験値を集中してもレベルが足りなくなるバランスのため、
結局稼ぎ作業は避けて通れない。
当然、すべての機体を使おうと思うならば、3倍の作業が必要になる。
経験値システムも無駄に複雑で、
「6属性に分かれた結晶をすべて一定量集めるとレベルアップする」というシステムだが、
結晶が属性ごとに分かれている理由は特に無い。むしろ、結晶の色が敵弾の色と似ていて紛らわしい、
というSTGでやってはいけない禁忌を犯しているのでクソ要素にしかなっていない。
一方で、レベリングが終わると今度はステージの難易度が極端に低下してしまう。
序盤のボスなど、あちらの攻撃がこちらに届く前に撃破できてしまうほどだ。
このことも周回する楽しみを無くしている。
他にも、敵に接近するとショットの威力が上昇する「チェイン」、
時間経過によって回復する体力システム、自機の体力を消費し広範囲に攻撃する「覚醒」などと、
このゲーム独自の要素をいろいろ備えているが、どれも機能しているとは言い難い。
なぜならば、レベルが足りなければチェインを使おうが覚醒しようが敵が硬すぎて倒せないし、
時間回復も延命にしかならないからだ。
その一方で、レベルさえ上げてしまえば雑魚を瞬殺できるようになるし、
体力システムのおかげでごり押しができてしまう。
そもそも、STGの楽しみは敵弾を華麗に回避したりボムの使いどころを考えたりと、
経験と工夫で難所を突破していく過程にあるのではないだろうか。
実際、前述の独自システムも上手く組み込めばさぞかし奥深いSTGが誕生したと思われるが、
本作にそのような奥深さはない。どの要素も見事に噛み合わず、
結局はレベルを上げてショットで殴るだけの極めて単調なゲームになってしまっている。
当然、そこに面白さや爽快感といったものは無い。
さて、このゲームが力を入れたのは個性的なゲームシステムだけでは無い。
ストーリー・世界観の構築にも力を入れており、数百年にわたる壮大なストーリーが展開される。
実際、公式サイトではこの壮大なストーリーが解説されているのだが、
肝心のゲーム中には説明がほとんど無い。
例えば、主人公は「ウルカ」と呼ばれる存在と戦っていくことになるのだが、
そもそもなぜウルカと戦わなければならないのか、ゲーム中に語られないため、
公式サイトを見て補完しない限り、
プレイヤーは主人公がなぜ戦うのかすらわからないまま、ストーリーが進んでいくことになる。
登場するキャラクターたちにもそれぞれちゃんとした設定が与えられており、
Twitterでは各キャラクターたちに焦点を当てたサイドストーリーが紹介されているのだが、
これらが作中のストーリー展開に絡むことはほぼ無い。
ストーリーは、豪華声優陣によるフルボイスで繰り広げられる。
しかし、ステージ中のフルボイスだけで全てのストーリーが語られるため、文章量は多くなく、
そのくせテンポは悪い。
そもそもステージ中は自機の操作で忙しいため、ゆっくりストーリーを堪能している余裕もない。
一応、重要なセリフはプレイの前後に持ってくる配慮がなされてはいるが、
これはこれでスキップができず、しかもステージをプレイするたびに毎度聞く羽目になるので、
やはりテンポを悪化させる。
そして、ストーリーの内容とゲーム演出の食い違いがしばしば発生し、
これらもプレイヤーを困惑させる。
死んだはずのキャラクターが元気におかえりを言ってくる。
居ないはずのキャラクターが自機をオペレートしてくれる。
シリアスなシーンの直後に「モフモフしたいよぉ」などと気の抜けたセリフを言い出す。
ラスボスを倒すために自機のリミッターを解除するが、機体性能は変化しない。
細かいが、さりとて無視もできない地味な矛盾点が頻繁に姿を現し、
そのたびにプレイヤーはゲームの世界から現実世界へと引き戻されてしまう。
常に心にモヤモヤを抱えながら迎えるエンディングにはグッドとバッドの2種類があるが、
グッドエンドとバッドエンドでどうして違う結末になったのか、
何の説明も伏線もないままにゲームは終わってしまう。
演出のチグハグさも相まってそこには何の感動も無く、
エンディング後のやり込み要素も特に無いため、
最後までもやもやが消えないままにプレイヤーはゲームを終え、
そして静かに雷神をSwitchから削除するのであった。
意欲的なシステムや豪華な素材がいくつも取り入れられているのに、
どれも全く噛み合わず、むしろ邪魔しあう。
あらゆる要素が不協和音を奏でる盛大なクソシンフォニーには、
スレ住民たちから惜しみない拍手が贈られ、KOTY2017は感動のフィナーレを迎えたのであった。
さて、以上5つが本年のノミネート作品の概要である。
「無価値」を極限まで追求した『球』
プレイヤーに「地雷原」を歩ませる『大戦略17』
FPS業界に「禁忌」を持ち込んだ『Op7R』
存在そのものが「奇跡」の『Tear』
あらゆる要素が「不協和音」を奏でる『雷神』
本年の候補者たちは、皆がそれぞれ違う強烈な個性を持ち、
叶うのであれば全員に勝利の栄光を与えたい、そんな逸材揃いの年であった。
しかし、玉座はただ1つのみであり、我々はこの中から勝者を選び出さねばならない。
では、本年の大賞作品を発表しよう。
空が堕ち、大地は割れ、海は枯れ果てる。
ハルマゲドンを制し、玉座に君臨した新世界の王者の名は…
『RXN -雷神-』である。
本作には1つ、他候補との決定的な差異が有った。
思えば、他の候補たちは皆生まれるべくして生まれたクソゲーであった。
開発者のやる気、環境、目標、能力…調律のされていない楽器が美しい音を奏でることが無いように、
ゲームを作る上で必要なものが欠けていた彼らがクソゲーになってしまったのは、
ある意味必然と言えよう。
だが、『RXN-雷神-』は違う。これは、極上の素材を用意し、
熱意を持ったクリエイターが最高のゲームを作ろうとして生み出された、
本来であれば歴史に名を刻む佳作となるはずの存在であった。
しかし、どこで何を間違えたのか、極上の素材たちの持ち味はまるで活かされず、
クリエイターの熱意は暴走し、生み出されたのは、
あらゆる要素が不協和音を響かせる最悪の駄作であった。
KOTYは、「1年で最もクソだったゲームを決める祭典」であり、
クソゲーが出来上がった経緯については本来考慮されない。
しかしながら、本年の候補たちは皆違ったベクトルのクソさを持ち、
単純なクソさの比較が困難であった。
ならば、原点に立ち返って考えてみよう。KOTYは、何のために存在しているのか?
それは、冒頭で述べたように、クソゲーたちの詳細な記録を残し、
人々に忘れられてしまわないよう、後世に語り継いでいくためではないのか?
『RXN -雷神-』は、目立つバグのない、いわゆるストロングスタイルのクソゲーである。
酷いクソゲーではあるが、同時に、何かがほんの少しだけ違っているだけで、
全く違う評価を受けていた、そんな可能性を感じるゲームでもある。
良作になるはずの作品の、ごく小さな歯車が少し欠けただけで、
すべてが狂い、クソゲーへと成り果てた。
そんな悲劇的な経緯を持つ本作こそ、後世に語り継ぐべき、
大賞の座に最もふさわしい作品ではないだろうか。
以上の考えのもと、我々は『RXN -雷神-』を今年度の大賞として選出する。
最後に、見事大賞を勝ち取った『RXN -雷神-』 と、
その開発元である株式会社ガルチに対し、音楽の天才モーツァルトの格言を贈り、
本年の締めくくりとしよう。
望みを持とう。
でも望みは多すぎてはいけない。